星間連盟の崩壊(2): 星間連盟の終焉〜エクソダス


星間連盟の終焉 (End of the Star League)
 
 ケレンスキー将軍のアドバイザー達は、アマリスとその一族、その上層部の協力者達に何を為すか議論を重ねた。多くの者が即時の処刑を主張したが、ケレンスキー将軍はアマリスとその部下達を裁判無しに処刑するのは自分達が戦った全てを貶める事になると感じていた。そして、ケレンスキー将軍を支持するものは少数であったが、誰もその伝説的な指導者に敢えて異議を唱えはしなかったのである。故に、捕虜達は、その豪奢な部屋にて生存を続けたのであった。
 10年近くにも渡った戦争の後に漸く、ケレンスキー将軍とSLDFは休息を取った。そして、地球帝国の人民とその他の幾つかの国の人民は祝典を開いた。星間連盟の兵士達は、どこへ赴いても英雄であった。ケレンスキー将軍は地上での祝賀行事の継続を1ヶ月間認めた。そして、その後に、彼等を仕事へと戻らせたのであった。彼は自分の部隊に対して、地球帝国が被った損害の算定、可能な全てのものの回収、再建の開始、を命じた。
 2週間後、星間連盟議会の片付けとそれに以前の壮麗さを取り戻させようと試みている最中に、兵士達は玉座の間を開いた。……最も戦闘で鍛えられた兵士でさえも、一瞬もその光景を見つめる事や部屋の臭いに耐える事はできなかった。そして、即座に憤激が巻き起こった。このアマリスの首を求める叫びの声は余りにも大きく、ケレンスキー将軍は誰をアマリス一族の護衛に割り当てるかについて細心の注意を払わなければならなった。
 ケレンスキー将軍は堆積した行政上の仕事の山を骨を折って進んでいたのであるが、自分自身で玉座の間を見る必要があった。封印が解かれてから2週間後、ケレンスキー将軍は飛行機でインペリアル・パレスから星間連盟議会へと移動した。そして、彼は未だに清掃の行われていない玉座の間へ歩いて入ると、1人にするように命じたのであった。30分後、彼は部屋から出ると、アマリスの軟禁場所へと飛んで帰った。彼は、アマリスとその一族、協力者達に対してレーザーライフルを持った兵士達が待機している中庭へ行進するよう命令した――全ての捕虜が目隠しを拒否した。そして、ケレンスキー将軍自身が、射撃命令を下したのであった。
 その行為が実行された時、ケレンスキー将軍は自分が残した呟きを耳にした――「悪魔に対する同情などは存在しないであろう」、との。
 その日の後半、ケレンスキー将軍は、自分がそれらをどうするか決定するまでの間、死体の保存と保護をするよう命じた。
 

帝国摂政 (Protector of the Realm)
 
 内戦は、1億人以上の人民を犠牲にしていた。そして、その4倍の人数が負傷し、10倍の人数が家を失っていた。アマリスによって引き起された広大な荒廃は全ての人々を呆然とさせ、中心領域全体に渡って沈黙が降り懸っている様に見えた。
 この悲惨な領域を統治するのは、アレクサンドル・ケレンスキー将軍であった。彼は、自分がその帝国摂政の地位を回復した事を告知した。そして、彼は“これらの荒廃した時間の記憶から私達が立ち直るのを支援する為の”会議の為に“地球”に来るよう議会君主達を招待したのであった。
 救済物資と救援が5王家全てから地球帝国に流れ込み始めていた。貿易商社達も地球帝国に物資と寄贈品を運ぶ為にその商船の空間を提供していたが、しかし、一般市民こそが最も心からの寄付を行っていた。広大な気遣いが5国の市民達から溢れ出ていた。彼等は自分達が与えられる限りのものを提供しており、しばしば、地球帝国内の餓死寸前の人々に食事を与える為に自らの口に入る食料をも供出していた。そして、未だに戦争の荒廃から立ち直っていない辺境の人民でさえも地球帝国内の数十億の人々に対して同情を抱き、自分達に可能なものを提供したのであった。
 多くの人々が、ステファン・アマリスの下での生活を聞いて酷い悔恨の念にかられていた。幾人かは、地球帝国内に身内を持っていた。他の者達も、自分達の政府がこの様な事態が起るのを許した事で罪の意識を感じていた。そして、多くの者達は、再建作業に自らの時間と技術を提供するべく荒廃した世界を旅する事によってその罪の意識を和らげたのである。
 人々は、アレクサンドル・ケレンスキーが次の第一君主(星間連盟首長)になるのではないかと期待した。彼の名声――戦争の前でさえも相当なものであった――は、“地球”の解放後すぐに超人的な次元にまで増大していた。誰もが、彼が程無く星間連盟を統治するであろうとの考えに勇気づけられていた。
 2780年、10月10日、議会君主達はユニティ・シティーの廃墟の中に再び集まった。そして、その後すぐに議論は開始された。その市民達とは違い内戦から距離を置き続けた事に何の罪の意識を感じていない議会君主達は、権力の為に互いに争いあった。過ぎ去った4年の年月はある者達にとっては途方も無い痛恨事であったが、王家の君主達にとっては富を作り出す機会でもあったのである。彼等が合意に達した僅かのものは、ジェローム・ブレイクを通信省大臣に任命する事であった。彼等は、彼に星間連盟の通信ネットワークを再建するとの困難な任務を与えたのであった。
 彼等はまた、ケレンスキー将軍を、自分達を指導する地位にはつけさせない事で合意した。そして、彼を第一君主にせよとの公衆の叫びを沈黙させる為に、その年の10月18日、最高評議会は満場一致でケレンスキー将軍の帝国摂政の地位の剥奪を行った。その後に、彼等は、ケレンスキー将軍に“地球”の非武装化とSLDF部隊をその平常の駐留地へと分散配置するよう命じた。
 これに反応して、多くの人々は、ドラコ連合や自由世界同盟に於いてさえも、ケレンスキー将軍を支持するデモを実行する為に街頭に繰り出した。
 (“地球”を)離れる前に、ケレンスキー将軍は最後に玉座の間――そのかつての威容の大部分を取り戻していた――で会ってくれるよう議会君主達に頼んだ。そして、些かの危惧を抱かない訳ではなかったが、彼等はそれを応諾した。
 5人の君主が集まった後に、ケレンスキー将軍はステファン・アマリスの凝った装飾が施されたレーザーピストルを携帯して入室した。部屋の扉が閉ざされ、ケレンスキー将軍が第一君主の玉座に座った時、議会君主達が感じていた不安は恐慌に近いものへと変化した。しかしながら、君主達が自分達の生命の危機を感じていたであろうその瞬間に、ケレンスキーは君主達に対して捕虜となった辺境世界共和国の兵士達に寛大に接する事を情熱的に要請したのであった。そして、安堵の溜息と共に議会君主達は話に耳を傾け、アマリスの兵士達への扱いに関するケレンスキー将軍の提議に賛同したのであった。
 ケレンスキー将軍は“地球”を離れ、SLDFの臨時司令部であった“ニューアース”へと移動した。そこにて、彼は、辺境世界共和国人を丁重に扱い、長い戦役を生き延びた彼等を祝福するように、との命令を発した。「来る月々に於いて、君達の幾人かは死を羨むかもしれない」と、彼は結んだ。「宇宙は非常に異なった場所になり、君は自分にはそれが耐えられないと感じるかもしれない。勇気を出すのだ。君と私は共に最悪と向かい合ったのだ――次に来るものがこれと同じ程に悪いものである筈はない」
 ケレンスキーの“ニューアース”への帰還から1週間後、ドシェヴァリエ将軍は、“星間連盟軍は議会君主達の打倒を助ける準備が完了している”との言葉で以って彼に提案を行った。ドシェヴァリエ将軍は自分の日記に、“ケレンスキー将軍は微笑んだが提案を拒否し、反逆をするには自分は余りにも疲れきっている、と語った”と書き記している。彼は、星間連盟が存在している限り自分は忠誠を捧げ続ける、と言葉を続けた。歴史家達は、ケレンスキー将軍が軍人であり政治家ではなかった、との事を指摘している。その他の者達は、ケレンスキー将軍が“自分の年齢と後継者の欠如は、避けられない運命を遅らすだけになるのを意味するであろう”という事を理解していた、と主張している。
 数週間が経過し、最高評議会が会議を続けるにつれ、星間連盟の存続は日増しに疑わしいもの見えていった。最高評議会君主達は、誰が新たな第一君主になるかについて合意に達する事ができなかった。彼等の会議は、各王家の指導者達が星間連盟の支配者になるという気違いじみた企みをした事により、莫大な額の金銭やリソース、更には複数の惑星全体の取引を試みる、攻撃的なオークションへと変わったのである。議会君主達が“地球”に留まり、会議のスケジュールが消化された後も長い間話し合いを続けているとの事実のみが、唯一希望の持てるサインであった。
 8月12日、10ヶ月間の討議の後に、この疲弊し立腹した5人の指導者達は、永遠に合意に達しない事に同意した。数人のレポーター達に簡潔に書かれた1つの声明書を無愛想に手渡し、この5人は宇宙港に行き各自の国へと向かったのである。
 ――「数ヶ月にも及ぶ長き真剣な折衝の末、我々は誰が次の星間連盟首長になるべきであるかという議題で行き詰まった。新たな第一君主の選出が不可能であるという事は、如何なる将来の意志決定も不可能にするものである、というのが我々の意見である。それ故に、我々はこの日、2781年、8月12日、公式に最高評議会を解散する」、とそのメッセージは読めた。
 

動員 (Mobilization)
 
 星間連盟解散のニュースが“ニューアース”に達した時、兵士の多くは、今ならケレンスキー将軍が権力を奪取しても許されるであろう、と確信した。しかし、それをせず、ケレンスキー将軍は即座に5王家に対してその決定の再考を請うメッセージを送ったのであった。続く2年間、彼は5王家の指導者達を会議室に復帰させるのを試みて中心領域の方々を旅した――彼は、そこにて彼等が和解し、星間連盟を復活させるのを願っていた。しかしながら、彼の努力と公衆の強大な支持は、この新たな政治的な調整を好もしく思っている王家の一族達の心を動かす事は全く無かったのである。
 星間連盟の下でのその軍事力の規模の制限から自由になった5王家の一族達は大規模な増強を開始した。彼等は、地球帝国内の収容所からの釈放を待っている辺境世界共和国の熟練兵達に目を向けた。そして、5王家からの勧誘員達は釈放された兵士集団の全てに接触を行ったのであった。彼等は契約を獲得する為に、金銭、階級、地位、更には爵位の授与まで提示した。メック戦士や気圏戦闘機操縦士達には、しばしば、その奉仕に対する見返りに広大な領地までもが与えられた。
 2783年、8月、ケレンスキー将軍は、勧誘員達がSLDFの部隊と交渉をしている、との話を耳にした。そして、ケレンスキー将軍が勧誘員達を自分の兵士達に近づけさせないようにするのを試みた時、王家君主達は彼にSLDF総司令官職からの辞任を要求したのであった。1ヵ月後、第91重強襲連隊(ジ・アルマジロズ)の大部分の者達が恒星連邦に与する為にSLDFから脱走した。――ケレンスキー将軍は、正規軍と星間連盟を気高いものへとしていた精神が急速に蝕まれつつあるのを悟った。
 ケレンスキー将軍が“エクソダス”こそが唯一の答えであると結論を下したのが何時であるかは、誰にも正確には解らない。その記録の大部分はケレンスキー将軍と共に旅立ち、歴史家達にケレンスキー将軍の思考に立ち入られる大雑把な覚え書きとヒントしか残さなかったからである。幾人かは、ケレンスキー将軍が“ニューヴァンデンバーグ”の反乱とその後の辺境での第2次戦争の前から“エクソダス”を構想していた、とさえも提唱している。その他の歴史家達は、それはそもそもケレンスキー将軍の考えではなく、元々はドシェヴァリエ将軍が考え出したものである、との仮説を立てている。
 証拠の大部分は、8月か9月をケレンスキー将軍がSLDFの“エクソダス”を決定した時であると指し示している。記録は、9月にケレンスキー将軍の司令部の活動が劇的に急増し、“ニューアース”のHPG基地がほぼ常時使用されていた事を見せている。
 2784年、2月14日、100を越える数の師団指揮官とそれと同数のそれよりも階級の低い士官達が、“地球”上にある空っぽの木造の倉庫に押し寄せた。それから、ケレンスキー将軍とその最高司令部は、驚き戸惑う士官達に“エクソダス作戦”を明らかにした。ケレンスキー将軍は語った――星間連盟は尚も各兵士と水兵達の心と魂の中に息づいているが、この悲惨な新時代はその精神をもすぐさま食い尽くしてしまうであろう、と。余りにも多く失われた生命に何らかの意味を持たせる為にも、星間連盟の精髄は救われなければならない。故に、“エクソダス”である、と。ケレンスキー将軍が演説を終えた時、誰もが起立し拍手を送った。
 “エクソダス作戦”のニュースは素早く全SLDFを駆け巡った。そして、即座に全ての兵士がそれについての話し合いを始めたが、計画が王家に洩れる事は決して無かった。しかしながら、機密保持は完璧であったが、聖キャメロン教(注1)の信徒達の多くは、ジョナサン・キャメロンの書簡を読む事で何が起きるかを推測できた、と信じているとの事である。また、ミノル・クリタがケレンスキーの計画に感づいていた事を指し示すものも存在している。
 最終的に各兵士は個人ごとに、その彼/彼女がケレンスキー将軍について行くのを望むかどうかを訪ねられた。そして、その80%以上の者達が、ついて行く、との回答をしたのであった。後に残る20%の大部分の者達は、(中心領域から)去る事を誤りであると感じていた。数個の部隊はその全体が旅立たない事を決定し、エリダニ軽機隊の様に未来の中心領域に於いて重要な役割を演じる事になった。また、(“エクソダス”を)拒絶した個人の大部分は後に、5王家の1つの制服を纏って死ぬ事となったのであった。
 2月14日の会合後、SLDF基地内の交通量は劇的に増加した。星間連盟の造船所は来る航海の為に損傷した艦船を急いで修理をする作業員達により慌しさを増した。また、兵士達の家族と消耗物資を運ぶ為に追加で200隻の輸送船が必要とされた事により、SLDFは民間の航宙艦製造企業から入手可能な全ての航宙艦を購入するという派手な買物を行った。
 補給部は、食料と消耗物資の大規模な買い付けを開始した。彼等は、自由市場にて他国内の個人会社からの購入を行った。時折、彼等は王家の政府から直接購入する事さえもした。星間連盟の軍事基地はその物資と機材が全て引き剥がされ、そして、家族達はその生活品を木箱や箱に入れて荷物を纏めた。
 この準備の規模にも拘らず、クリタ大統領を除く(戦争準備に)夢中になっている5王家の指導者達は、辺境と中心領域外縁部の部隊が8月に移動を開始するまで、何が起こっているのか気付くのに失敗していた。
 7月、地球帝国の世界のジャンプポイントが戦闘艦と輸送船で以って分厚く覆われるに至って漸く、5王家の指導者達は説明を求め始めた。しかし、ケレンスキー将軍は彼等に何も答えなかった。彼は絶対的な必要性が無い限り、SLDFを外部との通信から遮断したのであった。
 
 (注1: 聖キャメロン教とは、星間連盟首長であったジョナサン・キャメロンが死亡した1年後に、彼の幽霊が現れたり他人に憑依したりして様々な予言をした、との話から誕生したものです。後に、その予言とされるものが幾つか的中した事から地球帝国内で急速にその信者を増やし、最盛期には信者の数が5000万にまで達していました。彼等は、ジョナサン・キャメロンが綴った日記やメモに未来の予言が書かれていると信じています。31世紀には聖キャメロン教の多くは滅び去っており、辺境とライラ共和国内に僅かに生き残っているのみです。余談ですが、傭兵部隊である聖キャメロン騎士団は、この聖キャメロン教の信者であったメック戦士によって創設されました。祖先がSLDFに在籍していた者達のみで編制されているこの聖キャメロン騎士団は、そのカルト的な印象からしばしば過小評価されますが、高い規律と戦闘力を持っています)
 

エクソダス (The Exodus)

  我々が後に残す者達へ、一言述べさせて欲しい。我々は、かように大事に保持する事をかつて宣誓した理想を足蹴にする文明の中で生き続ける道を見出す事は全くできない。我々は立ち去る――しかしながら、何時の日か必ずや帰還する事が我々の希望である。

 ―ケレンスキー将軍によって書かれたと推定されている、戦艦“マッケナズ・プライド”からの知られている最後の通信


 7月8日、アレクサンドル・ケレンスキー将軍は“ニューアース”のジャンプポイントの自身の周囲に集結した艦船群、中心領域に散らばる50の他の星系に集結した艦船群に対して、1つの単語を発した。その命令とは、“エクソダス”であった。そして、その日、1000隻以上の艦船がジャンプをしたのであった。
 ケレンスキー将軍の船団はドラコ連合に向かって進み、外部との接触は全くせずに短時間で可能な限り多くのジャンプを行った。中心領域全域で、他の船団も他国の領域を通過してドラコ連合に向かって移動をした。その旅の目的を訊ねられた時、彼等は「長期作戦行動中である」、と返答をした。
 彼等は、大規模なSLDF基地のある星系のみで停止した。これらの星系には食料とその他の消耗物資が貯蔵されており、それらは艦隊がその星系に到着した時に輸送船に積み込まれた。そして、最後の船団がそこを離れる時に、基地の人員も業務を止めて船団に加わったのであった。
 5王家にとって、“エクソダス”は軍事作戦に見えた。戦闘航宙艦が各艦隊の輸送船群を護衛し、その長期作戦行動に対する説明をするのに乗り気でないSLDFの態度は、ケレンスキー将軍が1人以上の王家君主に対する報復を計画している事を指し示している様に見えたのである。ミノル・クリタがステファン・アマリスを非常に厚遇する一方でケレンスキー将軍を冷遇した事から、ドラコ連合がその標的になっている様に見えた。そして、船団の航路は、この疑いを確かなものとする様に見えたのであった。SLDFは、尚も如何なる王家の軍よりも強大な存在であった。支配王家の君主の何れかを退位させ、その国家を“真の星間連盟である”と宣言するのに、それ程の労力は要さないものと思われた。5王家の各君主達はケレンスキー将軍を現実や想像の中で侮辱した全ての事を思い出し、ケレンスキー将軍の怒りの標的になるという恐怖によって思い悩んだ。
 クリタ家は、懸念すべき理由を最も保有していた。クリタはキャメロン一族と星間連盟に対して常に反目していたからである。ミノル・クリタ大統領以外のドラコ連合内のほぼ全ての者が、ケレンスキーは間違いなく攻撃を仕掛けてくると感じていた。しかし、ミノル・クリタは自分がケレンスキー将軍の名誉に縛られた思考様式を理解していると確信しており、自分の考えが正しいとするのならばパニックに陥る事が最悪の反応であろうと思っていた。故に、クリタ大統領は自分の国に対して、沈黙して待機をするよう命じた。そして、ケレンスキー将軍が中心領域からの離脱を考えているとのクリタ大統領の確信は、船団の航路が“ルシエン”から外れた事により深まったのであった。
 2784年、10月2日、ドラコ連合の惑星“ニューサマルカンド”上に、最初の輸送船群と戦闘艦群が到着した。そして、日々、この星の2つのジャンプポイントに次から次へと輸送船群が出現し続けた。10月12日には、艦隊の全て――402隻の戦闘艦によって護衛された、100個師団以上の軍とその家族達を搭載している1349隻の輸送船が、“ニューサマルカンド”星系に存在していた。
 SLDFはこの惑星上に2つの主要な軍事基地を持っており、それぞれが深い森林と山脈の広大な原野地域を有していた。ケレンスキー将軍は、中心領域を離れる前にこの2つの軍事基地にて幾許かの時間を過ごすのを全ての者に許すよう命令を出した。そして、続く3週間、惑星間輸送船の途切れる事の無い流れが惑星とジャンプポイントを往復した。夜には、惑星“ニューサマルカンド”の森林と山脈は、旅の前に幾らかの休息を楽しむ全ての男・女・子供達のキャンプ・ファイアで以って斑模様になった。
 この往復輸送の最中に、ケレンスキー将軍は自らの帝国摂政としての古き役割に於けるその最後の義務を果した――彼は、ステファン・アマリスとその一族の遺体をニューサマルカンド大学の医療学校に託したのである。
 11月5日、最後の降下船がその航宙艦にドッキングした時、最初の船団が“ニューサマルカンド”を発って辺境へ向かった。全ての船がこの星系を出発するのには、1日を要した。“ニューサマルカンド”を最後に去った船は、“マッケナズ・プライド”であった。
 艦隊は、素早く辺境を通過していった。艦隊が目撃された最後の既知の星系は、人口の希薄な世界である“グタラV”――偶然にも、ステファン・アマリスの秘密のメック戦士養成校の1つがあった場所――である。そして、正規軍の1000隻の艦船が“グタラV”去った後に、彼等の姿が再び見られる事は決してなかったのであった。
 

その後 (Aftermath)
 
 それは、学者達の間で好まれている月並みな主題である――ケレンスキー将軍とその部下達が歴史に消え去った事についてを語るのは。“エクソダス”の確認後、ほぼ即座に人々はこの物語をロマンチックな神話へと変え始めた。ケレンスキー将軍、“奇襲”、“エクソダス”の真の物語を伝えると称する、伝記、ノベライゼーション、そして、立体ドラマは無数に出版され、継承権戦争の時にのみ製作は僅かに鈍化した程である。第1次継承権戦争に於けるこの事を最も伝えている写真の1つは、ライフルをその膝に置き表紙が数10億人の抱いている疑問――“ケレンスキー将軍はどこにいったのか?(Where Did the General Go ?)”を投げ掛けている本を読んでいる、フォックスホールにいるダヴィオン歩兵のものである。
 ケレンスキー将軍によって辿られた道を突き止める試みは5つ存在している。第1次継承権戦争の絶頂の最中、ドラコ連合が恒星連邦の広大な領域を征服するのが確実である様に思われた時、恒星連邦国王はケレンスキー将軍を捜し出す艦隊を送り出した。5隻の航宙艦がSLDFを見つけ出し、彼等を恒星連邦側に立って戻って来るよう説得する、というのを期待しての事である。2年後、この5隻の船は帰還してきた。彼等はケレンスキー将軍の艦船群が残したデブリの航跡を追って、“グタラV”を100光年以上も越えた所まで赴いた。しかし、航跡は突然乱れ、その後に全てが途絶え、この探査隊に帰還する事を強要したのであった。
 続いての4つのミッションは、恒星連邦によって2つ、ドラコ連合によって2つ、捜索範囲を拡大して行われたが、有望な手掛かりは極僅かしかもたらされなかった。最近になり漸く、ガイデッド・ライト・エクスペディションズ隊が、ケレンスキー将軍とその信奉者達がどこにいったのかについての明瞭なイメージをもたらしている。この探査隊は、ケレンスキー将軍が恐らく直線航行――今まで全ての者がそうだと推測していた――を継続しなかったとの事実を発見した。辺境から約130光年にて、この探査隊は艦隊が針路を変更した証拠を見つけ出したのである。この事は、新たに2つの可能性を生じさせた。1つ目は、彼が単に未知の世界へと旅立ったのだと信じているロマンチスト達の予想に反して、ケレンスキー将軍はその艦隊の明確な目的地を持っていた、というものである。その他の可能性は、彼の子孫達が既知宇宙を外れた所に居住し、待機しつつ監視を続けている、というものである。
 この探査が正しいのならば、ケレンスキーの“エクソダス”以降に中心領域で起った幾つかの謎めいた事件の解明に役立つであろう。これらの混迷している物語の中で最も良く知られているものの1つは、“ミネソタ・トライブ”に関連したものである。
 2825年、第2次継承権戦争が正に進行している最中、正体不明のメック1個連隊がドラコ連合内に出現した。護送船団の輸送船と降下船から来たこの連隊は惑星“スヴェルヴィク”の駐留部隊を襲い、補給物資を奪い、その後にそこを離れた。人々は、そのメックの状態が優れており、正規軍の基準に則って塗装されている事に素早く気付いた。そして、この連隊は正規軍の戦術を使用して戦闘を行い、その負傷したり取り残されたりしたメック戦士達は捕虜になるよりも自害する事を選んだのであった。また、その各メックには小さな紋章があり、後にそれは北アメリカの地政学的な領域であるミネソタ州の地図であると判明した。
 ドラコ連合の指導者達は、この“ミネソタ・トライブ”と呼ばれるようになる連隊をSLDFの攻撃の先鋒であると確信する為の更なる証拠を必要とはしなかった。“ミネソタ・トライブ”は、更に3つの世界を攻撃した。その最後の攻撃の最中に、そのメック戦士達はドラコ連合の惑星“リッチモンド”上の数千人の政治犯を解放した。そして、その後に、“ミネソタ・トライブ”はドラコ連合を離れ、再び姿を見せる事は決してなかったのであった。
 別の興味深い事件としては、第3次継承権戦争の際のクリントン・カットスロートの離脱が存在している。戦闘の最中に使者の船が着陸した時、評判の良い傭兵部隊であったこのカットスロートは恒星連邦の為に働いていた。その船からは男/女達が降り立ち、そして、傭兵連隊の指揮官に面会を求めた。それから3日間に渡って、彼等はこの部隊の指揮官と内密に話し合いを行った。そして、その後に、識別マークはないが明らかに素晴らしい状態にある複数の降下船が着陸し、クリントン・カットスロートを連れて惑星を離れ、中心領域から出て行ったのである。
 これらの事件は、長い年月で徐々に蓄積された多数の物語と資料の内の2つであるにすぎない。他の物語は、多くの者がSLDFの一部であると信じている強力なウルフ竜機兵団を中心に展開している。寒い冬の夜に煙の立ち込めた酒場にて語られるのが好まれている別の物語としては、“ヴァンデンバーグ・ホワイト・ウィング”――カペラ大連邦国の辺境側国境に出現した20隻の星間連盟輸送船を護衛している白の気圏戦闘機の編隊についてのものが存在している。惑星“メローペ”の戦艦の消失――ブラックライオン級戦艦が惑星“メローペ”の軌道上で目撃されてフィルムに撮影されたが、その後、調査の為に中心領域から船が来た時に消え去った事についてのものは、また別の物語である。
 これらの物語が、星間連盟の良き日々が戻る事を熱望している男達と女達の願望的な思索であるのか、それとも事実に基づいた目撃例であるのかは、不確かである。しかし、ケレンスキー将軍の子孫達とその軍勢が尚も生き残っているとの可能性があるのは確かな事である。我々の中心領域の灯りの外で、(ケレンスキーの子孫の)男達と女達は監視をしつつ、帰還する日を待っているのかもしれない。

  ―コムスター・アーカイブ、3028年より
 


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