星間連盟の崩壊: アマリスの奇襲〜地球の解放


アマリスの奇襲 (The Amaris Coup)

 凶行の行われる日々――ある種の凶悪な行為や犯罪が行われる時――は、大抵の場合に於いて輝かしく晴れやかである。全ての者はその顔を平和な天へ向けており、その事は彼等へナイフを滑り込ますのを容易にしているのである。

 ―星間連盟第一君主(首長)の玉座を簒奪した翌日のステファン・アマリスから配下の士官達への言葉


 “地球”へ向けての旅をしている時、ステファン・アマリスは辺境と地球帝国からもたらされるニュースを細心の注意を払って聞いていた。帝国から来るもので、彼に警戒をさせるものは殆どなかった。彼の辺境世界共和国軍への反感は増大しつつあったが、何らかの影響を及ぼすには依然として小さすぎるものであった。辺境から来る打ち続く激戦のレポートは、それへのケレンスキー将軍の専念を要求していた。これに満足したアマリスは、帝国内の自身の士官とエージェント達に暗号メッセージを次々と送った。そして、彼がユニティ・シティーに到着した、2766年、12月26日の雪の夜、彼の要人達の全ての行動準備は完了していたのであった。
 次の日は、前夜の吹雪により寒いが美しく夜は明けた。吹雪は澄んだ空と新雪の層を後に残しており、そこを通ってステファン・アマリスと彼の親衛隊は第一君主の寝室へと至る広々とした中庭を歩いて行った。アマリスはリチャード・キャメロンへ9時に拝謁する予定を持っており、それに遅れる事を彼は望んでいなかったのである。
 アマリス一行は、アマリスと彼に従う如何なる人員の入室も認めるとの定期命令を受けていた扉の前の衛兵に問題とされずに通り抜けた。サテンのリボンで括られた大きな箱を持ったステファン・アマリスは自らの護衛達と共に引き続きその白い大理石の柱を備えた華麗な廊下を歩き続け、クロークの下にアブラティブ/防弾・スーツと武器を隠した歩哨を通り過ぎ、そして、華やかに飾り立てられている彫像と彫刻の中に隠されている精巧なセキュリティ拠点も通り過ぎていった。
 アマリスと彼の護衛達が私的な第一君主の謁見室に入った時、彼等はリチャード・キャメロンが来訪を待ち焦がれていたのを見出す事となった。アマリスとリチャードは挨拶を交し、アマリスは彼等の最後の会談以降の第一君主の決断力に満ち有能な政治を誉め称えた。そしてその後に、派手な動作、笑みと共に、アマリスは第一君主にプレゼントを手渡し、それは1人の友から友への贈物であると述べたのであった。
 リチャードは包装を破り箱を開けたが、中に全く同一の別の包装された箱を見つけ出すのみに終った。笑いながら彼は同じ手順を繰り返した。そして、箱を開け続けた彼は最終的に、華麗な宝石で装飾されグリップにアマリスの紋章が彫られた大型レーザーピストルのセットを見つける事となった。
 アマリスは手を伸ばし第一君主からピストルを取ると言った――これは自分の厳密な仕様書に従って作られた非常に特別な武器である、と。彼は銃を明かりの方に掲げ、宝石に光を当てて煌めかせた。それから、アマリスはゆっくりとピストルを下に向けた――その銃身が第一君主の額を向くまで。
 外から微かな爆発音が響いてきた。そして、「始まりだ」と、アマリスは引き金を引いた時に言い放った。リチャード・キャメロンの体が床に倒れた時、ステファン・アマリスは豪華な椅子に腰掛けて自分の護衛達が行動に移るのを静かに見守った。護衛達は壁に掛けられた大きな絵画を脇へ押しやり、第一君主の私的な住居用のセキュリティ・システムのコントロールをする隠されたパネルを暴いた。数年前にリチャードから自慢気にパネルの操作法を見せられていたアマリスからの指示に基づいて、護衛達は素早く宮殿周辺に存在する多数の自動保安システムのマニュアル・コントロールを掌握していったのである。
 アマリスは一度だけ、護衛達の行動を遮った。――リチャード・キャメロンの死体と広がる血の海を眺めつつ、彼は護衛の1人に対して、あの“目障りな愚か者”を片付けよ、と命じたのであった。
 

帝国の征服 (Conquest of the Hegemony)

 奇襲は、如何なる武器庫の中でも手にするのに最高の武器である。これにより、全ての物事が可能になるのである。

 ―地球帝国内辺境世界共和国軍最高司令官パトリック・スコーフィンズ将軍の証言よりの抜粋、2780年8月


 2765年以前、地球帝国内には25個師団が存在していた。これらには、艦隊、兵站部隊、惑星の市民軍部隊が含まれていた。しかし、2766年の12月には、8個師団――その内バトルメック師団は2個のみ――以外は、辺境に派遣されていた。そして、これらの師団群を補強しているのは、一握りのSLDF独立連隊群と予備役状態の年を取った老兵と軍士官学校に入学したばかりの若き男女達によって編制されている惑星守備隊であった。
 この地球帝国内の正規軍に対抗するのは、合計16個師団の戦力に達している辺境世界共和国の連隊群と旅団群である。“地球”に於いてさえも、辺境世界共和国の軍はSLDFを圧倒していた。ステファン・アマリスがリチャード・キャメロンを弑したのと同時に、彼の連隊群は地球帝国内全域の正規軍を急襲していた。辺境世界共和国軍は、就寝中の兵士達で一杯になっている正規軍の兵舎を破壊したり輸送船に毒ガスを注入するという様な戦術を使用する事で以って奇襲を徹底的に活用した。
 辺境世界共和国軍から離れた場所に配置されている正規軍も余り良い事にはならなかった。アマリスは、自身の攻撃用に十分な航空支援を持つ事を重視していた。そして、この辺境世界共和国軍の気圏戦闘機群によって使用された兵器の中には核爆弾が含まれており、彼等は熱狂的にそれらを奇襲の初動にて無傷であったSLDFの部隊に使用したのである。
 その他の主目標は地球帝国の通信センターであった――アマリスは如何なる救援要請の発信も妨害する事を欲したのである。アマリスの特殊部隊の群れは軽い防御しか為されていなかった施設群を容易に奪取し、それらを停止させた。周囲の星間連盟構成国内のHPG操作員達は地球帝国から来た突然の停止メッセージに気が付いていたが、その懸念をチャンネル全域に向けるのに数日を要した。そして、その時には手遅れであったのである。奇襲と無慈悲こそが、アマリスの壮大な計画にとっての基幹であった。そして、それは地球帝国の殆ど全ての世界にて成功を収めたのである。
 しかし、幾つかの部隊の勇敢な行為により、その例外も存在していた。第3986北米歩兵大隊(ザ・ニュー・グランツ)の様な若干数の部隊は、解放まで終わる事の無い激しいゲリラ戦を戦う為に地球帝国の荒野に隠れた。また、5箇所のキャッスル・ブライアン内の連隊も最初の猛攻撃に生き残り、苛立ったアマリスが核爆弾の反復使用によってその5箇所全てを破壊するまでは辺境世界共和国の横腹に座す恒常的な悩みの種として留まり続けた。
 その中でも最高の勇敢さは宮廷親衛隊によって示された――アマリスの入念な準備にも拘らず、彼等は彼の命を奪うのに成功しかけたのである。アマリスは、宮殿内のセキュリティ措置の度合についての全てを知ってはいなかった。そして、彼は自分がピストルを撃った時、そのレーザー光が天井のセンサーに感知され、コントロール・ルームに警報を鳴らしていたのに気付かなかったのである。数秒以内に星間連盟議会の全てに警報が出され、その中には数km離れた地点に配置されていたキャメロンの個人的な連隊であるロイヤル・ブラックウォッチ・バトルメック連隊の戦士達も含まれていた。
 宮殿内では、親衛隊は謁見室に続く廊下に急行した。彼等は程無く、アマリスの親衛隊が宮殿のセキュリティ・システムを掌握している事を見出した。隠蔽されたレーザー群は、彼等の多くを殺害した。幾人かは、速度と自らのアブラティヴ・アーマー(レーザー吸収装甲)を頼みにして前進を強行した。しかし、その内の3名は謁見室の扉に辿り着いたが、アマリスの配下達が扉を開けて彼等に手榴弾を投げた時に殺される事になったのであった。
 ブラックウォッチの2個小隊はアマリス竜機兵隊によって仕掛けられた罠を逃れ、星間連盟議会に向かって進んだ。リチャード・キャメロンが既に死亡している事を知らなかったこの9人の戦士達は、自分達の第一君主が逃れるのを可能とする為に、アマリス竜機兵隊との決戦と彼等を可能な限り長く抑え続ける事を覚悟したのである。
 ロイヤル・ブラックウォッチの最後の生き残り達は、ゴースト平地にて第4アマリス竜機兵隊の前衛部隊と遭遇した。このエリートSLDF連隊――ガンスリンガー・プログラムの修了者達で以って完全に編制されていた――の残存部隊を指揮していたのは、ハンニ・シュミット大佐であった。彼女は、自身の連隊の最後の決戦地とするのに素晴らしい場所を選択した。片側が高く森林で覆われた丘陵地で、そのもう一方の側がピュージェット・サウンドの水地となっている場所により、ロイヤル・ブラックウォッチの9機のメックは辺境世界共和国軍のメックに一塊になる事と真正面から対戦する事を強要したのである。自分達の数的優勢を使う事が不可能となったアマリス竜機兵隊は、何らかの反応を起こす前にその最初の10機のメックが破砕された事で、自分達がまるで肉挽き器の中に歩いて行っているかの様な思いを抱いた。そして、アマリス竜機兵隊の指揮官は、自分の部隊を後退させたのであった。
 一方、ジャンプパックを装備した宮廷親衛隊の1個小隊は、謁見室を目指して宮殿の屋根を飛び越えて行っていた。そして、彼等が内部の建物に近づいた時、彼等もまた防御システムからの攻撃に晒された。敵の気圏戦闘機を叩き落す事を想定されていたレーザー砲塔群が、ゆっくりと弧を描いて空中を進んでいた数人の兵士を切り裂いたのである。しかし、この防御システムは、その射撃が宮殿に命中する場合は撃てないようにプログラムされていた。これを自分達の強みとして活用し、生き残りの兵士達は低いが危険であるジャンプの実行を開始した――砲塔が彼等を撃つという危険を冒さない事を祈って。
 謁見室の上方の屋根の上に辿り着いた親衛隊は、建物に穴を穿つ為にレーザーの使用を開始した。彼等はアマリスがセキュリティ・システムの制御に使用しているパネルの破壊を望み、それの収められている壁面に切り込んだ――地上にいる他の部隊による謁見室への強襲を可能とする為に。そして、彼等が穴を穿っている時に、ブラックウォッチの最後のメック群を破壊する途上にあった2機の気圏戦闘機が彼等の頭上を素早く通過していった。これに対して、宮殿の砲塔群は反応を起さなかった。直後、光が閃き、その後に核爆発の途方も無い衝撃が星間連盟議会を揺らした。(この時には)ロイヤル・ブラックウォッチ連隊は、最早、存在してはいなかった。
 屋上の親衛隊は、取り付かれた様に掘削を続けていた。15分後、彼等は最後の障壁を突破し、自分達のレーザーがケーブルの直上に穴を開けた事に気付いた。そして、彼等は小型の爆発物を穴の中に降ろし、爆破をした。この爆発は壁を吹き飛ばしてアマリスの親衛隊を2人殺害し、謁見室を破片と煙で以って満たした。アマリスは高い背を持つ樫の椅子の隣に立っており、それが彼を守った為に、負傷を免れた。
 しかし、無傷でこそいたが、アマリスは自分の壮大な計画が失敗しつつある事について考えざるを得なかった。敵兵は間違いなく廊下に殺到している筈であり、彼はそれらを抑えるのに僅か4人のレーザーピストルを持った親衛隊しか有していなかったのである。また、爆発は強力であり、窓を歪めはしたが、破壊はしていなかった。故に、這い出る事や第一君主の私室へと続く扉を開ける事も不可能であったアマリスは、窮地に陥ったのであった。
 壁の穴を通して、彼は宮廷親衛隊が接近する足音を聞いていた。しかし、彼が自分は終りであると考えた正にその時、走ってくる音は、破壊音、レーザー射撃の爆発音、兵士達の混乱の叫びへと変わった。そして、穴から自分の頭を突き出して廊下を見下ろしたアマリスは、アマリス竜機兵隊の歩兵部隊が宮殿の壁を突き破った装甲兵員輸送車から涌き出てくるのを見た。――星間連盟兵達の死体は、宮殿の大理石の床に散乱した。
 

玉座の間の虐殺 (Throne Room Massacre)
 
 ステファン・アマリス救出後、辺境世界共和国人達は星間連盟議会の支配権を素早く奪取していった。その後、アマリスは全チャンネル上でSLDFの兵士達に対して「武器を捨てて降伏せよ。さもなくば、第一君主を処刑する」と、最後通牒を発した。この策略は大いなる成功を収めた。辺境世界共和国軍によって手酷く叩き潰されるか圧倒されるかしていた多くの部隊が、その武器を置いたのである。そして、これらの降伏者達は、銃殺される前に自分の墓穴を掘る事を強要されたのであった。
 降伏しなかった者達は主要都市から追い立てられ、追い詰められていった。第191近衛バトルメック師団――かつてロイヤル・ブラックウォッチ連隊が所属していた部隊――の多くの小隊は、最初の殺戮に生き残り脱出していた。そしてこの後、彼等は2年間戦闘を継続し、その内の幾つかは生き延びて“地球”の解放を見届ける事となるのである。
 程良く“地球”を確保したアマリスは満足感を抱きつつ、地球帝国の他の世界からの報告を聞いた。彼の計画は、ほぼ完全に成功していた。103の世界の内、初日に93の世界がアマリスの支配の下にあった。少数の部隊は持ち堪え、その他のものも攻撃を行っていたのであるが、その年の終りにはアマリス軍は全ての世界を支配していた。そして、キャッスル・ブライアンと宇宙防衛システムの多くが無傷で占領され、今や辺境世界共和国の兵士達の所有するものとなっていたのである。
 その身の毛がよだつ式典にて、アマリスは宮廷親衛隊の生き残りの兵士達に対して旗竿から星間連盟の旗を降ろしアマリス一族の紋章を揚げるのを強要した。そして、その後に、アマリスは捕虜の銃殺と、その血塗れの死体を、屍衣代りの星間連盟の旗と共に旗竿の下に埋めるのを命じたのであった。
 次に、アマリスはその注意をキャメロン一族に対して向けた。リチャードの妻であったエリースとその2歳の娘アマンダは監禁下にあった。そして、コンピューターの記録を調べたアマリスは、キャメロンの血統の形跡があると思われる全ての人物の名前と居場所を突き止めたのである。彼はこれらの人物達を星間連盟議会へと連れて行き、その全てのグループが最終的に到着する事になるまでの間は、彼等を優しく丁重に扱った。
 アマリスは玉座の間の中に、79名の男性、女性、子供達を集めた。星間連盟の玉座に座し、多数の衛兵によって守られつつ、彼はキャメロンの遠縁の親族達に対して最後通牒を与えた――忠誠を誓うか、さもなくば死ぬか、を。彼は、彼等を自分の前に連行させて1人ずつ答えさせた。最初の20名は、1人もアマリスに屈服はしなかった。そして、彼等の返答を聞いたアマリスは、彼等に集団の下へ戻るよう命じた。
 キャメロンの親族の21人目、ジェイソン・キャメロン・バシーナは、アマリスへの屈服を認めた。しかし、残酷な笑みを浮かべてアマリスはリチャードを殺害したのと同じピストルで以ってジェイソンを射殺したのであった。そして、生き長らえる見込みが無くなった事により、残りのキャメロン一族達は玉座に向かって突進したのであったが、周囲の衛兵達により打ち倒されるのみに終った。――黒焦げになった死体から出る煙が晴れた時、ステファン・アマリスは玉座の間から退出し、そして、玉座の間の封印を命じた。
 “地球”の至る所で、同様の凶行が発生した。悪名高い傭兵の集団であるグリーンヘイヴン・ゲシュタポ隊はローマの支配権を手に入れ、10年間この雄大な都市の人々を苦しめた。2770年に於いては、この傭兵部隊は既に奪い尽くされていたローマとヴァチカン市から金銭と財宝を脅し取ろうとした試みの後、教皇クレメント27世と多数のローマ・カトリック教会の枢機卿と司教達を殺害した。
 “地球”、そして帝国全域に渡って、ステファン・アマリスは星間連盟とキャメロン家に関係がある全ての事物を破壊した。アマリスは全ての惑星の地表から星間連盟の事跡を抹消し、それを無慈悲なアマリス帝国のシンボルである自分の一族の紋章で以って置き換える事を望んだのであった。
 

人質となったクリタ (The Kurita Hostages)
 
 2767年、1月、ステファン・アマリスは自身を第一君主であると宣言した。これが、奇襲が始まって以降で、地球帝国からの最初の放送であった。ケレンスキー将軍とその他の国家の指導者達は、衝撃を受けた。誰もが辺境での反乱を注視しており、辺境世界共和国を脅威であると見なしてはいなかったのである。他の最高評議会君主達へ警告をしてアマリスについて用心させるのを試みていた疑い深いタキロー・クリタでさえも、リチャードの死に茫然とした。タキロー・クリタは、アマリスが陰謀家である事を熟知していた――しかし、クリタ大統領は、アマリスは自分のリチャードへの影響力を通して支配を行うであろうと信じていた。タキロー・クリタは、アマリスは非常に抜け目の無い人物であるから中心領域全体を反応させる危険やケレンスキー将軍とSLDFを激怒させる危険を冒しはしない、と考えていたのであった。
 数週間が経過し、既成事実が十分理解され始めると、王家君主達はこの事態をもたらした事に対しての互いへの非難を開始した。彼等はまた、ケレンスキー将軍が秩序を回復するのを待った。しかしながら、将軍は茫然としていた。犠牲の大きな戦争に没頭していたケレンスキーは、アマリスの奇襲に全く驚愕させられていたのである。そして、最初の衝撃から回復した時、将軍は、アマリスは1つ以上の他国の支援無しには奇襲を試みるほど愚かにならなかったに違いない、と推論したのであった。
 実際、ドラコ連合は第一君主ステファンへの協力を開始していた。奇襲の直前、タキロー・クリタは自分の兄弟の孫息子であるドラゴ・クリタに対してその星間連盟大使としての持ち場から避難する事を命じていた――大統領は“地球”上の辺境世界共和国軍の多くに対して国民的な暴動が発生するのではないかと懸念していたのである。しかしながら、事変当時、ドラゴ・クリタとその家族達は逃げてはいなかったのであった。121歳のタキローは自身の責務の大部分を幕僚達に譲渡していたのであるが、アマリスがドラゴ大使と彼の妻、その4人の子供達を拘束した事を知り、激怒した。そして、残忍なアマリスにどれ程の事が実行可能であるかを理解した為に数日間思い悩んだ後に、タキロー・クリタ大統領は心筋梗塞に襲われたのである。――その日、死ぬ前に、彼は自身の息子のミノルに交渉を通じて人質事件を解決させる事を約束させた。
 かくして、ドラコ連合はアマリスのクリタに対する傍若無人な責め苦にも拘らず、礼儀正しく協力的であったのである。そして、クリタ家が“簒奪者”に対して友好的な態度を振舞う理由を知り得なかった他の最高評議会君主達とケレンスキー将軍は、ドラコ連合が(アマリスの)計画に加担しているのではないかと恐怖したのであった。
 

故郷を失った戦士達 (Warriors without a Home)

 我々が後背の故郷が繁栄している事を信じて戦い死んでいる間に、癌は今や我々の心と魂を奪うまでに成長するのを許されてしまっていた。帝国は失われ、それと共に我々の希望も失われてしまったのである。
 
 ―アレクサンドル・ケレンスキー将軍、“アマリスの奇襲”を自分の部下達に告げて、2767年2月15日
 
 
 2767年、1月、ケレンスキー将軍は惑星“ニューヴァンデンバーグ”を奪還する為の攻撃を率いていた。1年間に渡って、彼はタウラス連合国を復帰させる為の攻勢の先頭に立っていたのである。彼は辺境の軍勢による激しい抵抗に直面していたが、彼は最終的には優勢となった。
 惑星“ニューヴァンデンバーグ”の占領を完全なものとした事と、それに引き続いてのタウラス連合国の降伏が見込まれた事で、ケレンスキー将軍はその隣国達に最小限の流血で以って降伏への圧力が加わる事になるのを願っていた。しかしながら、幾つかの出来事は彼を憂慮させていた。かつてあれ程戦闘に突入するのを厭わなかった敵の巨大なバトルメック師団群が、大戦闘を回避し始めていたのである。ケレンスキー将軍にとってそれは、彼等が何かを待っている様に見えたのであった。
 “ニューヴァンデンバーグ”での彼の勝利を第一君主に伝える“地球”への彼のメッセージに対しても、返答は無かった。そして、その後に、彼は、ステファン・アマリスが自らを第一君主であると宣言した事を聞かされたのである。これを信じられなかったケレンスキー将軍は、即座に帝国内の指揮官達からの状況報告を求めた。そして、尚も生き残っていた少数の者達は、未だに戦闘中であるSLDFの部隊には如何なる希望も存在して無いとの事を伝えてきたのであった。
 5月19日、ケレンスキー将軍は、その全ての言外の意味が彼に戦慄を覚えさせるメッセージを受け取った。

発:アマリス帝国皇帝ステファン・ウクリス・アマリス
宛:前星間連盟軍司令官アレクサンドル・S・ケレンスキー将軍

将軍:
 余は、余の尽きる事の無い技と余の忠勇なる臣民の補佐により、我が一族への何十年間もの危害と無礼を正す、正義のみをもたらす迅速なる一撃を見舞った。余は、キャメロン一族がかつて故郷と呼称していた地を支配している。余は、人類の揺籃の地を支配している。帝国内の全ての事物――死んでいない者達は全て、余の前に跪いている。
 余に従え、ケレンスキー将軍。余の剣腕となり、余の言葉と叡智を他国に啓蒙するのを助けるのだ。余にそなたを憎む理由は存在していない――余は、そなたとの間の平和のみを望んでいる。余に従い、そなたの男達、女達に、余に従う様に説得するのだ。その暁には、余はそなたに余に次ぐ力を与えよう。
 だが、余の叡智に溢れた申し出を黙視し余に従わないのであれば、余の警告をその心に留めよ――余は、帝国の所有していた全てを支配している。その全ての防御機構、その全ての要塞は、今や余に忠実な臣民によって扱われている。そなたが攻撃を試みるのならば、帝国の地は遍く死んだ者達の血で以って汚される事になり、その全ての滴がそなたの魂を苦しめるであろう。そして、それは、余がそなたの故郷を完全に支配する事を完遂するのを許すに足る、十分に重い罪に違いないであろう。

 (署名)皇帝ステファン・ウクリス・アマリスI世

 この手紙の説得力を欠く懐柔の試みと侮りに満ちた敵対的な語調は、ケレンスキー将軍を困惑させた。辺境の戦争での損害の後でさえも、SLDFは今までに構築された軍の中で遥かに強力な存在であった。敢えてアマリスは、そのSLDFの司令官を敵に回すというのであろうか?
 3日間、ケレンスキー将軍は自身の司令部に留まった。その間、彼の兵士達は、自分達のする対応について強硬な主張を行った。アマリスが辺境から来た事を理由に、多くの兵士達は猛り狂い辺境から来た如何なる物も如何なる者をも破壊する事を望んでいたのである。そして、正に辛うじて、その士官達は彼等を抑え、破局を防いだのであった。
 近衛部隊――その兵士達は帝国内から採用されたていた――は、このニュースに最も強い衝撃を受けていた。彼等の大部分は、辺境からの移動とアマリスへの即時の攻撃を望んだが、彼等の士官達はケレンスキー将軍の決定を待つよう彼等に命令した。しかし、1つの部隊――第34近衛バトルメック師団は、待機をしなかった。この師団はその外世界同盟の駐留地を離れ、故郷に向かったのである。そして、この師団は後に、その故郷である惑星“エプシロン・インディ”にて、その惑星の自動宇宙防衛システムによって全滅させられたのであった。
 ケレンスキー将軍は自分の兵士達と辺境の市民達に対して長いメッセージを発する事によって、最終的にその沈黙を破った。彼は、アマリスが行った非道について述べた。そして、彼は、アマリス一族の性質から考えると、第一君主や星間連盟への忠誠を表した如何なる者にも生きている望みは無いと述べたのであった。
 彼は、SLDFとアマリス帝国は明白に戦争状態にある、と話を進めた。また、彼は自分の兵士達に対して、アマリスとその軍勢に対して盲目的に攻撃を仕掛けるのは愚かな事である、と警告した。辺境世界共和国軍は非常に強力であるからSLDFは戦略を立案する必要がある、とケレンスキー将軍は語った。SLDFは辺境世界共和国軍を大いに数で凌駕していたのであるが、ケレンスキー将軍はその敵手が優れた防御位置を占めている事を熟知しており、1つ以上の王家の軍、特にクリタ家の軍が、アマリス軍の側に立って戦うのではないかと懸念していたのである。
 彼は辺境の人民に向けて、その首都が占領されている星間連盟を守る為に自分の軍勢が辺境の反乱軍との戦闘を続けるのは馬鹿げている、と話した。彼は、1国を除いた辺境の全国家に対して停戦を宣言した。そして、ケレンスキー将軍は、その作戦基地として使用する為に自分はステファン・アマリスの母国の奪取を意図するものである、と辺境世界共和国に対して警告した。これは、単純な復讐という側面のみを持つものでは無かった。事変後、王家君主の全てを信用していなかったケレンスキー将軍は司令センターを必要としており、そして、辺境世界共和国は無防備で横たわっていたのである。
 彼の声明は、星間連盟の兵士達を鎮めた。自分達の指導者――ほぼ神に匹敵するかの如き大きさにまでその名声とカリスマを高めた男――が指揮に復帰したのを知った事は、全ての者に全てが失われた訳ではないとの希望を与えたのである。幾人かは依然としてケレンスキー将軍とは意見が異なっており、自分達は即座に帝国奪還を試みるべきであると感じていた。しかし、第34近衛バトルメック師団が辿った運命についてのニュースは、兵士達の中で最も推進的であった者にさえもそれを断念させたのであった。メック戦士と一般兵士達は自分達の故郷に対してアマリスが行った事への報復の機会であるとして、ケレンスキー将軍の辺境世界共和国への攻撃計画に熱狂的に賛成した。
 

辺境世界共和国方面作戦 (Rim Worlds Campaign)
 
 辺境世界共和国への移動の決断は、ケレンスキー将軍にとって難しいものに違いなかったであろう。彼は長年、彼が呼ぶ所の“無辜の一般市民に対する愚かで不必要な戦争行為”への声高な反対者であった。戦闘で最も怒り狂っている瞬間の最中でも、彼は決して敵の一般市民に対して容易かつ有効な打撃を見舞うとの誘惑に屈しはしなかった。ケレンスキー将軍は、戦闘にルールと名誉規範が定められていた一時代がより適している、古風な人物であったのである。
 ケレンスキー将軍の計画のニュースが中心領域に広まった時、多くの人々はそのセンスを疑った。これらの人々は、ケレンスキー将軍はタウラス連合国に留まり、その戦力を集めてその戦略を構想すべきである、と考えていたのである。辺境世界共和国に対する作戦への着手は、労力と生命の無謀な浪費に見えた。
 しかし、中心領域の5大国の軍内の幾人かは理解をしていた。彼等は、辺境世界共和国が恐らく悲惨なまでに無防備である事に気付いていたのである。5王家の士官達はまた、辺境世界共和国が戦傷を受けていなく疲弊もしていない唯一の辺境の国家である事にも気付いていた。辺境世界共和国内にてケレンスキー将軍が自分の軍勢用の豊富な補給物資と機材を見つけ出すであろう事を確信するに足る、あらゆる根拠が存在していた。幾人かは更に、辺境世界共和国にて星間連盟軍がその欲求不満を発散するであろう事と、それにより星間連盟軍が地球帝国での戦闘をより少ない激情とより大きな思考で以って戦う事ができるであろう事にも気付いていた。
 ケレンスキー将軍が何を計画しているのかを耳にした時、皇帝アマリスは激怒した。彼は中心領域全域に、“残忍な虐殺者ケレンスキー”と“彼の罪の無い男、女、子供達に対する攻撃という邪悪な意図”についてのメッセージ送った。彼はまた、自分がその創設を助けた辺境バトルメック師団の残存部隊に対してメッセージを送り、彼等に辺境世界共和国を最後の一兵まで守るようにと命じた。
 2767年、8月、ケレンスキー将軍とその部隊が一方の側から侵入し、ドシェヴァリエ将軍がそれと同数の部隊と共にもう一方の側から侵入して攻勢は開始された。攻撃前に星間連盟軍は、辺境世界共和国に降伏の機会を与えていた。しかし、アマリス不在中の辺境世界共和国摂政であったモハンマド・セリムは、にべもなくそれを拒絶した。
 アマリスに辺境世界共和国防衛を命じられた辺境師団群は、その命令を拒絶した。彼等には多くの理由があったが、その中で最も一般的であったものはアマリスが行った事に対する激しい嫌悪であった。辺境師団群内の戦士達は星間連盟からの独立は望んでいたが、一般市民の死は望んでいなかったのである。辺境師団群の防護が無くなった辺境世界共和国は、歴史上最も強力な戦闘部隊から身を守るのに予備役と少数の市民軍しか持ってはいなかった。そして、この様な敵と対した辺境世界共和国の戦士達は最初の機会にて、単純に降伏をするか、戦闘を拒否してAWOL(無許可離隊)するか、ケレンスキー将軍の側に離反するかをしたのであった。故に、主戦闘は辺境世界共和国に散在している20の要塞に対してのものとなったのである。
 数十年前に星間連盟によって建設されたこれらの要塞は、地球帝国内の“キャッスル・ブライアン”の事実上のコピーであった。リチャード・キャメロンがこれらの要塞を辺境世界共和国軍に譲渡するようSLDFに命じた後には、これらの要塞をステファン・アマリスは帝国内の“キャッスル・ブライアン”を如何にして最も良く打ち破るかについて自分の軍を訓練するのに用いていた。ケレンスキー将軍は辺境世界共和国の要塞群に対して多様な方法――正面に向かっての全力強襲、複合攻撃、空中/宇宙からの爆撃――で以って攻撃を行った。
 予想された通りに、ケレンスキー将軍の兵達は無類の猛烈さで以って辺境世界共和国軍と戦闘をした。そして、異なる状況下では、蛮勇かつ過度の暴力である、と呼ばれるであろう様々な行いがそこには存在したのであった。ケレンスキー将軍とその幕僚達は星間連盟兵がその敵手と同じ罪を犯すのを防ぐ事を企図して特別命令を発した。自分達の名声の為に、多くのSLDF兵達はその感情を抑える事が出来た。しかし、その例外も複数存在したのである。“グーツィ・ジャンクションの虐殺”――第90竜機兵隊はそこにて100人のPOW(捕虜)を殺害した――は、最悪の出来事であった。
 辺境世界共和国は、素早く陥落した。
 

準備と交渉 (Preparations and Negotiations)
 
 辺境世界共和国は、正規軍が死活的に必要としていた豊富なリソースを持っていた。予想外であったのは、辺境世界共和国の人々が圧倒的な数のSLDF部隊の自分達の世界とその上空への駐留を素直に受け入れた事である。これについての完全な解明は未だにされていないが、幾人かの歴史家達は辺境世界共和国の市民でさえもアマリスの行った事に対して衝撃を受けたからではないかと推測している。
 ステファン・アマリスは5大王家の指導者達に対して、“偉大なるステファン”にとってケレンスキー将軍は破廉恥な陰謀家である、と非難する新たなメッセージを送った。しかしながら、これらのメッセージには新たな捩れも内包していた――メッセージは大王家達のアマリスの帝国への参加を認める為のアマリスの条件を提示していたのである。
 ケレンスキー将軍もまた5王家に対して、“我々全員にとっての故郷である地球をアマリスの苦しみから解放する”為に自分に加わるよう、呼び掛けていた。彼は、彼等に参加を促すような条件の提示や試みをしはしなかった――彼は、自分はそれを名誉ある人々ならば行うであろう義務と考えている、と単に述べたのであった。5つの星間連盟構成国の中のどの国も、一方の側に参加はしなかった。
 非常に奇妙ではあるが、ステファン・アマリスの側に参加するであろうと最も考えられていたドラコ連合は、実際には“簒奪者”を粉砕する事に於いて最も熱烈にケレンスキー将軍に加わる事を望んでいた。ミノル・クリタは自分の甥を平和的に救出するのを試みる事を誓っていたが、個人的にはケレンスキー将軍を助けるのに自分ができる全ての事を行っていたのである。故に、その支援に対しては喜んだものの、ケレンスキー将軍はクリタ大統領の公的な姿勢に当惑させられていたのであった。
 その他の王家達には、この様な理由は存在していなかった。その支配一族の一員達は帝国を安全に脱出していた。他の王家達は、政治的理由の為に戦闘への加入を欲しはしなかったのである。敗北する側に加わる事は、回復不可能な物理的/政治的な損失をもたらすものであった。そして、誰も、最終的な勝者を予測する事ができなかったのである。SLDFは明白に辺境世界共和国軍よりも強力であったが、どの指導者もどの様な秘密交渉が存在しているかについて知り得なかった。この全ての不活動が、その相互不信を高めたのである。
 続く一年半、両陣営が5王家の支援を勝ち取るのを探し求めている間、星間連盟軍は攻勢用の準備を進めていた。ケレンスキー将軍は、王家君主達に対するシニカルな思いと不信を高めていた。彼は中心領域に駐留する師団と連隊群から、2つの集団を作り出した。第1集団は星間連盟基地の補給物資と装備を引き剥がし、それらのマテリアルを辺境世界共和国へ輸送した。そして、ケレンスキー将軍は第2集団に対して、ステファン・アマリスの防備を試すよう命じた。皇帝アマリスもまた、避けられない事態への備えを開始し、自分の部隊の増強と要塞の補強を行った。
 王家の指導者達は、どちらの側の怒りも買わずに自分達の権益を守る事を試みていた。カペラ大連邦国は、アマリスに対する攻撃を拒絶した。依然としてステファン・アマリスとの交渉を試みていたドラコ連合も、ケレンスキー将軍にドラコ連合領域からアマリスへの襲撃を実施する許可を与える事を拒否した。ミノル・クリタ大統領は第3連隊戦闘団――エリダニ軽機隊――にさえも、辺境世界共和国軍の防備を試す事にあくまでも固執するというのならばドラコ連合から立ち去るよう圧力を加えた。第3連隊戦闘団の指揮官であるエズラ・ブラッドリー大佐は彼の部隊がドラコ連合を根拠地にしているのにも拘らず、ぞんざいに扱われたのである。そして、自由世界同盟との1回目の交渉後、第3連隊戦闘団は自由世界同盟の基地を使用する事を許可された。ブラッドリー大佐は第34近衛バトルメック師団から教訓を学んでおり、SDS(宇宙防衛システム)によって防衛されている世界に対しては偵察攻撃のみを行った――1回ごとに数隻の無人戦闘艦を破壊するとの望みに基づいて。
 大抵の場合に於いてこの戦術はうまくいったが、時にはうまくいかなかった。ほぼ毎週、辺境世界共和国内にて訓練中の兵士達はその戦友達の戦死について耳にしていた。そして、これらのニュースは彼等の心を固くし、その決意を深めさせたのであった。
 

義勇連隊 (Volunteer Regiments)
 
 中心領域の5王家は来る嵐に対して中立的な姿勢を採っていたが、その市民達はそうではなかった。アマリスの奇襲とその戦慄は、5ヶ国内の平均的な市民達全てを深く感じ入らせていたのである。ケレンスキー将軍に加わる事に対する王家達の拒否は、数十億の人々に衝撃を与えて怒らせた。ケレンスキー将軍を支持し政府の決定に反対する示威運動は頻繁に発生し、しばしば、激しいものであった。
 幾人かの人々は、単なる抗議活動では満足できなかった。そして、数千人の男女達がケレンスキー将軍と共に戦う為に辺境世界共和国に旅立った。シュタイナー、ダヴィオン、マーリックは、これを妨げる事は一切しなかった――しかし、クリタとリャオは、これを妨害した。それに対して、これに共感した商人達は、辺境世界共和国もしくは星間連盟基地に密かに全ての男女達の積荷を運んだのであった。この義勇兵達の多くは、AWOL(無許可離隊)実行による軍法会議か即時の処刑の危険をも背負った王家軍の兵士や士官達であった。メック戦士や気圏戦闘機パイロット達の幾人かは、その自らの乗機と共に脱走していた。
 この予期しなかった反応は、ケレンスキー将軍とその他のSLDFの人々を深く感動させた。そして、その全員が参加を許された。余りにも高齢の者、余りにも若すぎる者にさえも、SLDFの補給と戦闘を維持する為の任務が与えられたのである。これらの強壮な者達を戦闘に耐えられる様に訓練する為に、新兵訓練場と臨時の軍士官学校が創設された。ケレンスキー将軍は(コンパス座の)惑星“サーサナス”上にメック戦士学校を創設した。そして、その卒業生達は、自由世界同盟とライラ共和国内の工場から来た新品のメックを受け取ったのであった。
 ケレンスキー将軍がその攻勢を開始する準備が完了した時には、36個の忠誠派の連隊が存在していた。彼等は平均よりも2〜3倍高い損耗率を持つ、最も情熱的な戦士になっていた。
 

地球帝国方面作戦 (Hegemony Campaign)

  君は、君独自の命令を与えられている。私が付け加えられる全ては、私がこの戦慄の物語に何らかの意義が現れるのを願い祈っている事である――私は、この瞬間は間違いなく、その如何なるものも見出すのが不可能であるから。

 ―その指揮官達に対するアレクサンドル・ケレンスキー将軍の演説より、2772年2月12日


 2772年初頭、星間連盟防衛軍は辺境世界共和国からの出発を開始した。彼等は攻勢の為に1年半を費やして休息と準備を行っていたが、この時間が辺境に於ける戦闘で失われた男性/女性の回復をするのは不可能であった。大部分の部隊は、酷い定員割れであった。書類上では、将軍は300個師団と200個以上の独立連隊を保有していたが、実際の所は辛うじてその半分の数しかなかったのである。
 部隊がその降下船と輸送艦への乗船を開始した時、ケレンスキー将軍は中心領域からのメッセージ――ライラ共和国と恒星連邦の指導者達は異議無しで星間連盟軍の領内通過を認める、というものを受け取った。これらのメッセージは意外なものではなかった――両国家は、アマリスの防備を探る星間連盟の部隊に対して住居と情報を提供していたからである。自由世界同盟――(過去に)エリダニ軽機隊のプレゼンスを認めていた――は、その時、SLDFに自由世界同盟の星系を部隊集結地域(中間準備地域)として使用する許可を与える事を拒否した。――ケニヨン・マーリックがケレンスキー将軍の幕僚として勤務していた時の事件に端を発するケレンスキー将軍に対する古き怨恨に基づいた、ケニヨン・マーリックの再度の行動である。そして、この戦役の終盤にて、ケレンスキー将軍はこの指導者の承諾を得ずに“オリエント”星系を使用する事によってマーリックに意趣返しをしたのであった。このマーリックの支援の損失は、カペラ大連邦国からの助力の申し出により部分的に埋め合わせられた。
 3国家の支援により、ケレンスキー将軍はその戦略を発展させる事ができた。彼は自分の軍勢を3つの大規模部隊に分割し、その1つ1つを協力的な各王家を通過して地球帝国に向けて進軍させた。全軍が配置につくと同時に、この3軍は攻撃を開始するのである。最初の目標は“地球”への攻撃ではなく、3部隊相互の連結とステファン・アマリスとその軍勢の包囲であった。3部隊が連結し彼等が地球帝国の周囲に集められた後にのみ、ケレンスキー将軍は“地球”への移動を開始する予定であったのである。
 幾人かはケレンスキー将軍の戦略に疑問を持ち、即時の“地球”への突進を主張していた。しかし、ケレンスキー将軍は緩やかかつ慎重なアプローチを選択した――諜報報告は、アマリスが傭兵部隊の雇用に成功して40個師団以上を集めて有するに至っている事を、指し示していた。この事と、致死的な宇宙防衛システムと“キャッスル・ブライアン”の連結は、彼の軍を侮り難いものにしていたからである。加えて、ケレンスキー将軍は依然としてドラコ連合がアマリスの側につく可能性を懸念しており、自由世界同盟についても信頼は置けなかったのであった。
 アーロン・ドシェヴァリエ将軍が、恒星連邦を通過して進軍する恒星連邦任務部隊(タスクフォース・サン)の指揮権を与えられた。そして、ジョーン・ブラント提督がライラ共和国任務部隊(タスクフォース・コモンウェルス)の指揮権を与えられ、残りのカペラ大連邦国任務部隊(タスクフォース・コンフェデレーション)はケレンスキー将軍に指揮される事となった。
 2772年、7月14日、SLDF師団群が国境世界を強襲し、戦闘艦の集団が敵艦の捕捉や敵地点の爆撃を望み地球帝国奥深くに危険を冒して侵入する事で以って、地球帝国方面作戦は開始された。ドラコ連合と地球帝国間の国境の世界は、軽い防備しか為されていなかった。ミノル・クリタがステファン・アマリスに対して非暴力的な姿勢を保持していた為に、皇帝アマリスはドラコ連合に向けて少数の部隊しか駐留させていなかったのである。惑星“サビク”、“ランブレヒト”、“ケルヴィル”、“テロスIV”、“マーチソン”は、素早く陥落した。優勢な敵を前にした辺境世界共和国軍が撤退をしたのと、ケレンスキー将軍が依然としてクリタ家に自分の後背を晒すのを恐怖していた事により、SLDFはその獲得地を強化する為に静止した。そして、ここで常に状況を活用すべく備えているクリタ家は、アマリス軍が引き払った世界を占領する為にドラコ連合の部隊を派遣したのであった。後に星間連盟軍が前進した時、彼等は惑星“ヴェガ”、“イムブロスIII”、“スティクス”、“アルタイル”にてクリタ兵と戦闘しそうになり驚愕する事となった。しかしながら、SLDFとの戦闘を全く望んでいなかったドラコ連合軍は直ちに退却し、ケレンスキー将軍の攻勢が移動した後にようやく帰還したのである。
 地球帝国のライラ共和国と恒星連邦との関係は常に暖かく友好的なものであった事により、キャメロン一族がその国境に建設した宇宙防衛システムと“キャッスル・ブライアン”は少数であった。(星間連盟)正規軍は惑星“マロリーズ・ワールド”、“オザワ”、“シルマ”、“ゼベベルジェヌビ”の様な惑星上の辺境世界共和国軍を圧倒するのにその優越している訓練度・装備・数を使用した。これらの戦場は、星間連盟兵が複数の残虐行為――惑星“ヘレン”での芸術家達の虐殺と惑星“ゼベベルジェヌビ”での科学者達の虐殺――の最初の証拠を見つけ出した場所であった。
 この事は任務に対するより一層高い意識をSLDFに与えたが、ケレンスキー将軍の軍勢は自由世界同盟戦線とカペラ戦線にて泥沼に嵌まり込んだ。彼等はまた、“地球”に近い惑星を攻撃する度に、より多くの防衛部隊を見出す事となった。星間連盟軍は1年半の訓練と計画立案を行っていたのであるが、それでも彼等は“キャッスル・ブライアン”と宇宙防衛システムによって苦しめられていたのである。惑星“ヌサカン”の奪還に於ける長く高く付いた作戦が、これの最も顕著な一例であった。
 辺境世界共和国の兵達は宇宙防衛システムのアクセス・コードを変更し、SLDFのセキュリティを突破してコンピューターへ侵入をしようとする試みを挫折させていた。SLDFのその他の戦略――囮艦隊で以って惑星から無人戦闘艦を誘き出そうとする様なものも、失敗に終った。最初の2年間、ケレンスキー将軍の兵達にとっての宇宙防衛システムに対処する唯一の方策は、全ての無人戦闘艦と戦う事であった。そして、この方策は機能はしたが、防御の為された惑星ごとに最低3隻の主戦闘艦を犠牲にして為し遂げるものであったのである。
 “キャッスル・ブライアン”も同等の困難さのものである事を証明していた。兵達は各世界の“キャッスル・ブライアン”の地図を持ってはいたが、彼等はどれだけの数の敵がこの要塞を使用しているのかは知らなかった。“キャッスル・ブライアン”は、バトルメックが歩行するのに十分な広さを有し、最低でも20個の隠蔽された出入り口に通じている、数マイルの長さを持つトンネル群を擁していた。この事は、(星間連盟)正規軍部隊が、アマリス軍が自分達の背後から突如現れる事は無いというのを保証するのを事実上不可能にしていた。そして、相互に連結した掩蔽壕と拠点は良好に隠蔽されており、しばしば、1個小隊の兵達が自分達の前に掩蔽壕が存在しているというのを知っていたとしても、それを意味の無いものにしていた――彼等は、自分達が見られないものに対しては、砲火を引き寄せて自分達自身を犠牲にする事なく攻撃するのが不可能であったのである。
 初期の成功は、SLDFにとって貴重なものをもたらした――彼等は惑星“オザワ”、“オリヴァー”の様な幾つかの重要な世界を、多少なりとも損なわれていない状態で奪取したのである。しかしながら、ケレンスキー将軍の兵達が激しい抵抗に遭遇し始めた時、彼等も“地球”に近い世界からは多くを得られはしなかった。解放した世界の悲惨な状況は、皇帝アマリスの下での生活がどれだけ恐ろしいものであるかを明らかにした。食料・水・動力は、アマリス軍用に確保されていた。辺境世界共和国人達はリソースと補給物資を自分達が必要としていない都市から奪い去り、しばしば数千人の生命を犠牲にしていたのである。地方での生活も良いものでは無かった。農民達は、その農場からの上納を3倍にするか、それとも死ぬか、という事を伝えられていたのであった。
 政府のビルディング群は、破壊されるか汚されるかしていた。惑星“サーフェル”に於いては、些か歪んだユーモアを有していたその場所の駐留部隊は、政府のビルディング群に蛍光色の塗装を施し、それらを辺境世界共和国から来た売春婦/男娼達に与えた。大学と教師達も同様に苦難を被った。軍事に応用可能な如何なる研究プロジェクトも、皇帝アマリスの科学者達のそれへの監視を可能とする為に“地球”へ移動させられた。そして、大学のその他のものは破壊されたのである。軍事的に価値の無い教授達も殺されるか、地元の駐留部隊用の防御施設構築を強要させられるかしていた。
 2774年の終る時、ケレンスキー将軍の軍勢は11の世界しか奪取しておらず、10の世界で戦闘をしているのみであった。彼等は30個師団と40の主要な戦闘艦を失っていた。そして、皇帝アマリスの下で未だに生きている者達の生活がどれだけ恐ろしいものであるか、彼等を解放するのにどれだけの時間が掛かるのかを、兵達が理解した事により、軍の士気は急激に低下していた。
 

新戦略 (New Strategies)
 
 2774年、11月、恒星連邦任務部隊、ライラ共和国任務部隊、カペラ大連邦国任務部隊は連結した。皇帝アマリスは、各々が正規軍部隊で以って覆われた世界の環によって包囲されたのである。
 この包囲環の軍事的価値については、議論の余地のあるものである。ケレンスキー将軍でさえも、アマリスを包囲するとの構想が戦略的には不可能である事を認めていた。しかしながら、包囲される事による心理的影響は、アマリスに対して甚大な効果があった。彼は自身の軍が包囲環に於ける最後の2つの世界――惑星“スローカム”と“コンノート”で敗北した事を聞くや否や、彼は自分の防衛戦略を再考したのである。
 ユニティ・シティーの自動装置によって作成された記録から、アマリスがゆっくりとその正気を失いつつあった事が後に判明している。奇襲後の最初の数ヶ月の歓喜、彼が巨大なパーティーを催し、高貴な生れの人質達にそれへの参加を強要していた時の歓喜は、無くなっていた。2774年には、彼はその手にレーザーライフルを携えて寂れた星間連盟議会を歩き回り、自分にリチャード・キャメロンやケレンスキー将軍の事を思い起こさせる全てのものを射撃していたのであった。
 包囲完成後、皇帝アマリスはその最高司令部を召集し、彼等に対してSDS(宇宙防衛システム)か防御施設の何れかが存在しない世界からの後退と、それらが存在する世界に引き上げる事を命じた。彼は、この限定的な後退が重要な世界に対する自分の支配力を強化するであろう、と考えていたのである。彼は自分の士官達との会議を、「余は、これ以上あの星々を見る事はできない。余が見ると常に、あれらはケレンスキーの顔の星座の星が集まっているかの様に見える」と述べる事によって終えた。
 皇帝アマリスの命令は2774年の終盤から2775年の初頭に掛けて遂行され、彼の軍勢は12の世界から引き上げられた。アマリスは、これで自分の軍勢をより効果的に使えるであろう、と満足した。そして、ケレンスキー将軍がこの計画的撤退を見出した時、彼もまた同様に満足する理由を持っていたのである。
 SLDFは、地球帝国に散在する世界の支配権を得たのであった。星間連盟海軍の士官と水兵達はこれらの世界の重要性を直ぐに理解した――それらの世界の位置が、星間連盟艦船に敵星系を使用する事なく地球帝国全域にジャンプするのを可能とするからである。そして、これらの世界の内の2つ、惑星“ブライアント”と“アスタ”は、“地球”からの1回のジャンプ内に存在し、後に集結地点として重要な場所になった。
 奪還した他の世界、惑星“カーヴァーV”も同様に精神的な高揚をもたらした。SLDF部隊は、8年前の奇襲以降も持久していた3個海兵連隊の残存部隊を救い出すのに成功したのである。これらの部隊は(過去に)エリダニ軽機隊から緊急補給を受けており、これにより彼等はその戦闘の継続を可能としていた。
 星間連盟軍は、これらの12の世界へ素早く駐留した。アマリスの軍勢は星間連盟軍に打撃を与えるべく大量の地雷原とブービートラップを置いて行っており、SLDFは敵が後に残したものの除去と見極めに数ヶ月を費やした。幾つかの重要な世界――惑星“グレアムIV”の様な世界に於いては、核による破壊しか残されていなかった。
 しかしながら、そこでケレンスキーが発見したものは戦争のターニング・ポイントに繋がったのである。戦争以前は、惑星“ニラサキ”はニラサキ・コンピューター・コレクティヴ社(NCC社)の本拠であった。このNCC社は、宇宙防衛システムの主開発企業かつ建設業者の1つであった。この企業は、無人戦闘艦、地上兵器、補給センター間を連結する途方も無く複雑なコンピューター通信ネットワークの開発の責任を負っていたのである。故に、ケレンスキー将軍と星間連盟海軍指揮官のヤノス・グレック提督は惑星“ニラサキ”が放棄されているのを聞き知った時、宇宙防衛システムに対して使用可能な何かを見つけ出す事を望んでNCC社の研究施設に軍と科学者達を派遣したのであった。
 最初は、見込みは無い様に見えた。アマリスの占領の最初の1年目にNCC社のビルディング群の大部分は破壊され、科学者達は駆り集められて“地球”に連れ去られていたのである。ビルディング群の下の階層の探索は、殆どが同様の事を明らかにした。コンピューターのメモリーは記憶を吸い出され、綺麗に消去されていた。
 そして、1人の兵士が洗濯室の中にて小型のポータブル・コンピューターを発見した時、それがキャサリン・グリンプ教授によって隠されたコンピューターのコンテンツである事が判明した。惑星“ニラサキ”が辺境世界共和国軍によって奪われた時、グリンプ教授は地球帝国の星々の救出を試みる誰にとっても宇宙防衛システムが最大の障害になるであろう事を悟っていたのである。そして、彼女はポータブル・コンピューターの限られたメモリーを、自分とその同僚達が助けになるに違いないと考えた情報で以って満たしたのであった。
 不幸な事に、彼等はSDSを打ち破る方法を持ってはいなかった。「私達は、本当に余りにも良い仕事をしてしまいました――私達は、あの馬鹿げた代物がもっと脆弱な存在であったら、とある日に思うかもしれない、という事を全く一度も想像しませんでした」――とのものが、彼等の言葉であった。しかしながら、グリンプ教授が用意していたデータは、技術者と通信の専門家達に電子妨害装置を考案する事を可能にしたのである。それは、1つの静的なSDSの主通信チャンネルを圧倒し、そのコンピューターに予備のリンクの使用を強要するという装置であった。これらの(SDSの)2次的なチャンネルは、多様な兵器システムを運用するのに於いては余り有効なものとはならないのではないか、と期待されていた。また、この装置はSDS兵器の照準も妨害するのではないかとも考えられていた。
 ケレンスキー将軍は、この新たなECM装置の効力をテストするのに戦闘以外の方法を持ってはいなかった。2775年、3月、彼は、重要な惑星である“ケイド”から僅か数光年しか離れていない、SDSによって防衛されている惑星“ニューホーム”侵攻作戦を指揮した。戦闘艦と輸送艦の大艦隊の先頭に立ったケレンスキー将軍は懸念しつつ、その新型ECMの試験を見守った。最初、それは僅かな効果しか発揮していない様に見えた。最も近い無人戦闘艦の群れは彼等の存在に反応し、攻撃を仕掛けてきたからである。しかしながら、その他の惑星周辺の無人戦闘艦と惑星上にあるミサイル/レーザー砲台は、どの反応をすればいいのかで混乱している様に見えたのであった。この彼等の無力化は、ケレンスキー将軍が僅かな損失でその軍を惑星に降下する事を可能とした。惑星“ニューホーム”は素早く陥落し、そして、ケレンスキー将軍は遂にその最初の休息を取れたのであった。
 彼は時間を無駄にはせず、この自分の優位を活用した。2775年中盤から2778年終盤に掛けて、SLDFはSDSに防衛された世界に対して連続した攻撃を行った。“地球”には、直接攻撃は不可能であった――その先進的かつ大規模なSDSの為に。それ故に、その周囲の世界がケレンスキー将軍の目標になったのである。そして、攻撃をした世界の大部分が“キャッスル・ブライアン”によって防衛されていなかった事から、正規軍にとってこれらの世界での戦闘は比較的簡単なものとなったのであった。
 “キャッスル・ブライアン”が存在している惑星“ディーロン”や“プロキオン”の様な世界では、戦闘は特に困難なものとなった。何故ならば、掩蓋陣地内部から来る敵砲火や隠蔽されたトンネル口から突如出現してくるメックを打ち破る高度技術による解答は存在しなかったからである。ケレンスキー将軍は“キャッスル・ブライアン”の多くが建設されている山脈部の迂回も可能であったが、それはその敵を苦しめる為であれば市民を殺害する事を何とも思っていない辺境世界共和国軍からの攻撃や残虐行為に脆弱なままの地域を残す事になるのである。唯一の解決法は、要塞に突入し、敵を駆り立てる事であった。また、惑星“ディーロン”に於いては、辺境世界共和国軍は都市の中に立て篭った。そして、惑星“ディーロン”での軍事行動は2年間続き、数百万人の生命を犠牲にし、惑星とその経済を壊滅させたのであった。
 2775年、ステファン・アマリスに雇用された傭兵部隊の幾つかがSLDFに降伏し始めた。宇宙防衛システムの無力化と“キャッスル・ブライアン”での戦闘用の正規軍の新戦術が、多くのアマリス兵と傭兵達の闘争心を奪ったのが見て取れた。
 また、2775年には、星間連盟構成国の幾つかがケレンスキー将軍の軍事行動への荷担を開始した。ライラ共和国、カペラ大連邦国、恒星連邦からの補給物資が、ケレンスキー将軍の軍によって保持されている世界に出現し始めたのである。この援助の大部分は無数に存在する避難民用のものであったが、SLDF用の弾薬やその他の機材も相当量が存在していた。そして、幾人かの兵達は、ケレンスキー将軍とその軍勢が優位を得た後に漸く星間連盟構成国が援助を開始したのか、とシニカルに考えたのであった。
 しかしながら、最近の成功にも拘らず、ケレンスキー将軍は確たる勝利には程遠いものであると感じていた。惑星“ケイド”の様な全ての世界に於いて、アマリスは軍事施設を破壊したのみならず利用をするには余りにも荒廃しすぎている惑星を作り出しており、ケレンスキー将軍が奪還した惑星“カフ”――かつては地球帝国の宝石であった――の様な星も、辺境世界共和国軍によって廃墟が残されているのみであった。また、ケレンスキー将軍は、その軍の1/3とその海軍の1/2を失っていたのである。しかしながら、彼は“地球”に隣接する全ての世界を支配したのであった。そして、彼は自身の注意とその残存部隊を、宇宙で最も重厚に防衛されている地を奪還するという恐ろしい任務へと向けるのを可能としたのである。
 

地球の解放 (Liberation of Terra)
 
 (“地球”の)そのレーガン宇宙防衛システムは、その他のものより数倍も巨大かつ強力なものであり、SLDFの技術者と科学者達はケレンスキー将軍にそれを打ち破る簡単な手段がない事を表さざるを得なかった。暴力こそが、レーガン宇宙防衛システムを突破する唯一の手段だったのである。
 ケレンスキー将軍とその幕僚達は、“地球”奪還計画を具体化するべく数ヶ月間会議を行っていた。“解放作戦”と名付けられた、この結果として生じた危険な作戦は、レーガン宇宙防衛システムを非常に多数のターゲットとなるもので以って圧倒して大部分のケレンスキー軍の“地球”の地表への到達を可能にする、というものであった。
 その軍を作戦に備えさせる傍ら、ケレンスキー将軍は“地球”に向けて声明を発し、ステファン・アマリスに降伏の機会を与えた。しかし、当時、ほぼ完全に狂気に陥っていたアマリスはそれに対して、長文かつ支離滅裂なケレンスキー将軍を死の天使と呼んだメッセージ――その他にも興味深いものが含まれていた――を返したのであった。そして、その受け取った返答を拒否であると見なした正規軍は強襲用の準備を継続した。これが、最終かつ疑いも無く最大の戦闘になるであろうと思われた。
 2777年、1月23日、8つの世界にいた兵士達はその降下船に乗船した。その旗艦である“マッケナズ・プライド”に座乗するケレンスキー将軍は、“ニューアース”のゼニス・ジャンプポイントに艦船群が集結を開始するのを見守った。そして、“解放作戦”が開始される20分前に、全艦船に向けてテープに記録されたメッセージが送られた。
 「星間連盟の兵士諸君、私は我々が事を開始する前に少し話をしたい。我々は長き道程を歩んできた――我が戦友達よ。遥か辺境から故郷の入口まで、我々は戦闘に次ぐ戦闘を重ねてきた。我々は、その敵が我々の前に倒れるのを見てきた。我々は、我々の友が死ぬのを見てきた。今、疲れ、血に塗れ、打ち減らされた、我々は、多くの者が勝利するのが不可能であると言った戦闘に正に突入しようとしている。恐らく、彼等は正しい。恐らく、“地球”を“簒奪者”から解放するのは、人間の力では不可能である。しかし、そうであろうとも、私は心配をしてはいない。私は長年、指揮するのを私が誇りに思っている男達、女達が、単なる肉と血の存在以上のものである事を知っている。彼等は、肉体の要素を合計した以上の存在なのである。1つの純粋な精神が、ダイヤモンドの煌めきの様に君に広がっている。これを言葉にするのは困難であるが、最も低い階級の兵士の目を見た時でさえも、私はそこに星間連盟を見た。そして、私は、星間連盟の価値は君の様な男達/女達を誕生させ育てた事にある、との事実を知ったのだ。戦友達よ、家へ帰る時である。君の全てに幸運があらん事を」
 

発動 (The Launch)
 
 “地球”の2つの標準ジャンプポイントにある自動防衛施設の打倒は、作戦全体に於いて最も容易な部分である事が証明された。そのSDSは、各ジャンプポイントに5つずつ主要な静止戦闘ステーションを保有しており、それらのステーションの兵器は(ジャンプポイントに)出現して適切な信号を発するのに失敗した如何なるものも攻撃するべく備えていた。これに対処するべく、ケレンスキー将軍は20隻の老朽化した航宙艦と60隻のオーバーロード級降下船を精密なコンピューターと誘導システムで以って自動化する事を命じた。そして、これらの降下船の武装は追加装甲へ置き換えられた。それから、それらの巨大な船体は爆発物で以って満たされたのであった。
 これらの無人船は、“地球”星系へ出現すると即座に敵の戦闘ステーションへ向けて加速を行った。そして、多くの降下船が破壊されたのであるが、その目標を爆破するのには十分な数が突破をし全ての戦闘ステーションを破壊したのであった。
 8つの異なる星系のジャンプポイントを取り囲む1000隻近くに達する戦闘艦と兵員輸送艦は、“地球”星系への進軍実行を待ち望んでおり、最後の障害物が除去されたとの確認を受け取った後から数分で行動を開始した。ここで速度を重んじていた為に、ケレンスキー将軍は不承不承ながらもジャンプする艦船間の距離を標準の1/4に切り詰める事に同意し、その結果、更なる艦船がポイントに集まってジャンプをする事が可能となっていた。(ジャンプ先に)完全に出現した後には、その艦船群は次の艦船群が出現する前に5分間丁度でそのジャンプポイントを明渡さなければならなかった。また、何か悪い事態が起ったとしても作戦を中止する方法は一切存在していなかった――作戦が一度開始されたのならば、太陽系上に最後の艦船が出現するまで作戦が止まる事はないのである。
 その日、SLDFの兵士と水兵達にとって運命は明るいものである様に見えた。ジャンプを待っていた932隻の艦船の内、20隻しかジャンプを失敗しなかった。そして、これらの出発間際に機関故障を被った艦船の内18隻は如何なる人命も損失する事は無かったのである。残りの2隻の内、兵員輸送艦“リチャードソン”は出現途中に、その位置維持推進装置に部分的故障を起した。G・T・ギャレット艦長は、自分がその艦をジャンプポイントから必要十分に素早く移動させるのが不可能であろう事を悟ると、即座にその降下船群の発進を命じた。その降下船群はジャンプポイントからの離脱を為し遂げた。しかし、“リチャードソン”は離脱をほぼ為し遂げたが、コルベットの“ミシシッピー・クイーン”がその船首をエンジン区域内に出現させた。“リチャードソン”は爆発し、それにより全乗組員が失われた。そして、“ミシシッピー・クイーン”は大きな損傷を受けたが、次波が出現する前にジャンプポイントから離脱したのであった。
 艦隊は兵員輸送艦(装甲降下船母艦)を戦闘艦で取り囲むというフォーメーションを組むや否や、“地球”に向かって高G加速を開始した。戦闘艦群への命令は、あらゆる犠牲を払っても輸送艦を守れというものであった。戦闘艦のブリーフィング・ルームでは語られはしなかったが、戦闘艦の艦長達は提督達からの暗黙の命令も理解していた――輸送艦を救う為に最終手段として自らの艦さえも犠牲にせよ、というものを。
 また、主力部隊が“地球”に集結する4日前に、40隻の戦闘艦がパイレーツ・ポイントを使用して“地球”から1日の旅程の所に出現していた。彼等は、可能な限り多くの無人戦闘艦を破壊する事を命じられていた。(無人戦闘艦の)“キャスパー”は、それぞれが巡洋艦の火力と駆逐艦の機動力を持っているものである。続く2日間、星間連盟の艦船群はその周囲に集まってきた“キャスパー”の群れと戦い続けた。そして、巡洋艦“ソビエツキー・ソユーズ”が、この圧倒的な数の無人戦闘艦に倒された最後の艦であった。――40隻の星間連盟の戦闘艦は、100隻以上の無人戦闘艦を破壊していた。
 これは、艦隊に立ち向う無人戦闘艦を150隻だけにしていた。そして、主力艦隊が“地球”から尚も2日間離れている場所にて、レーガンの無人戦闘艦との戦闘は始まった。無人戦闘艦群は死んで久しい提督達がその遠隔コンピューターにプログラムした戦術を用い、武器の射程外に潜んで艦隊を追尾し、選定した艦船の破壊をするべく待機を続けた。時折、2〜3隻のグループの無人戦闘艦が突然に加速をし、鮫の獰猛さで以って艦隊の突破を試みた。それらはその火力を輸送艦群に集中し、その多くを破壊した。この危険な無人戦闘艦群が1回通過するごとに、数個師団が全て消滅したのであった。
 “地球”から12時間の場所にて、その加速を表す不意のエンジン炎の輝きと共に、全ての無人戦闘艦は攻撃を仕掛けてきた。これに対して、グレック提督は自分の戦闘艦群の大部分に中間地点で彼等と対戦する事を命じた。そして、戦闘機群がその母艦から発艦した。
 この2つの艦隊は射撃を開始し、レーザーの閃光とミサイルの猛り狂う推進炎がその艦船達の船体を覆い隠した。無人戦闘艦の幾つかは突破をし、脆弱な輸送艦に向かって突進した。そして、戦闘機群の雲はそれらを追い、破壊したが、それはより多くの輸送艦を犠牲にしたのであった。ケレンスキー将軍の艦隊の通り過ぎた後には、デブリが続いていた。
 戦闘が経過するにつれて、無人戦闘艦は大部分が破壊された事によりその緊密な秩序を失った。もはや輸送艦群に対して調整のとれた攻撃をする事が不可能になった多くの“キャスパー”は、星間連盟戦闘艦群に対する防御を開始したのである。また、暗黙の命令も効果を発揮していた。重大な損傷を被った戦闘艦の艦長達は、その艦を無人戦闘艦に直接向けたのであった。そして、大抵の場合、無人戦闘艦はこの自殺的な攻撃を容易に回避したのであるが、その人間の敵手によって行われたこれらの戦術は無人戦闘艦を混乱させ、それらをより慎重にさせた様に思われた。
 艦隊が“地球”から2時間の場所に達した頃には、戦闘の形勢は変わっていた。星間連盟の戦闘艦群は、無人戦闘艦群を圧倒していたのである。グレック提督の戦闘艦群は敵に十字砲火を浴びせていた。そして、輸送艦群が安全になった事により、戦闘機群は給油と再武装の為にその母艦へと帰還したのであった。
 

降下 (The Drop)
 
 “地球”から1時間の場所にて、戦闘機群は戦闘に復帰せよ、との命令を受けた。そして、彼等はその降下船や戦闘艦から発進し、ヨーロッパ/アジア大陸に存在する30の重要なレーザー/ミサイル砲台を破壊する為に“地球”へ向かったのであった。
 レーザーとミサイルの射撃に対する自らの脆弱さを減少させる為に、戦闘機群は特に急勾配の降下角を選択した。しかし、どんな方法をとったにせよ、幾つかは辺境世界共和国の戦闘機によって、だが大部分はレーガンSDSの自動防御によって、その多くが撃墜されていった。
 幾つかのメック群は、最初の戦闘機群がその目標に到達した時にはその降下を開始していた。降下船群も既に、装甲車輌と兵員輸送車を降下させていた。そして、メック群と兵士達を守る少数の戦闘機群は、“地球”上にある全ての基地からスクランブルしてきた辺境世界共和国の戦闘機群に忙殺された。数千機のメックに狙いを定めたアマリスの戦闘機群は、撃墜に次ぐ撃墜を容易に達成していった。もし、SDS基地を破壊するべく派遣された戦闘機群がその任務を達成できなかったのならば、侵攻全てが危機に陥ったであろう。
 戦闘機群は、任務に危うく失敗するところであった。敵戦闘機群・地上に設置された兵器・危険な降下による損害は、予想よりも高かったのである。残存したパイロット達――辺境世界共和国の戦闘機群によって追撃され、地上から砲火を浴びせられた――は、全ての爆弾の数を数えなければならなかった。そして、彼等は成功を収めはしたが、それにより甚大な損害を被ったのであった。
 この星間連盟の気圏戦闘機パイロット達の技量と決意により、30個師団はその“地球”への降下を比較的安全に行えた。最初に降り立ったのは、モスクワを攻撃圏内に収めて着陸した第146近衛バトルメック師団(ジョージ・S・パットン師団)であった。その他の師団群は、西はスペインのマドリード、東はアジア太平洋岸のマガダンまでの範囲に降り立った。彼等の降下は、辺境世界共和国軍――主要な都市と“地球”上の12の“キャッスル・ブライアン”に立て篭もっていた――による抵抗のないまま行われた。気圏戦闘機群とその他の部隊から数回の攻撃が行われはしたが、それらも攻撃をすると素早く撤退をしていった。
 ケレンスキー将軍は、最初の降下から間も無い時間に降り立っていた。そして、彼はジョージ・S・パットン師団の指揮を執り、その故郷の都市であるモスクワを奪還する為の最初の強襲を率いたのであった。彼がそうしている間、他の部隊もその他の主要都市とそれよりも重要な宇宙港に対して同様の攻撃に着手していた。
 ケレンスキー将軍の戦術は、感情の葛藤が入り混じったものであった――そのオリオン・バトルメックに街路を進ませる時、彼はそこを非常に良く知っていた。都市内の全てのビルディング、全ての木々、全ての記念物が、彼にとって神聖なものであった。そして、将軍は、この戦闘は敵が行ったのと同じ程にモスクワを傷付けるであろう事を理解していた。その故郷の都市が皇帝アマリスの下でどうなったのか――記念物の外観は損なわれ、病院は死体置き場へと変わり、公園は日常的に処刑が行われる場所になっていた――を目撃した事は、何ものも構わせない程に彼を激怒させた。彼が生まれ育った家でさえも、破壊されていた。
 第11機械化歩兵師団の支援により、ケレンスキー将軍は辺境世界共和国軍部隊――第33アマリス竜機兵メック連隊とその付属連隊群を圧迫して都市から叩き出し、その後に平地にて彼等を包囲した。それから長い時間、ケレンスキー将軍は空爆と間接砲による弾幕砲撃を命じるのを耐えている様に見えた。敵が降伏を申し出た時でさえも、ケレンスキー将軍がその日は怒りに身を任せる様に思われた。しかし、自身のメックのコクピットに数時間座した後、彼は最終的に敵の降伏を受け入れたのであった。
 

北米侵攻 (Invasion of North America)

 そなたは最後の1兵まで戦うのだ。そして、そなたが死んだ時、余はそなたの呪われた魂を呼び出し敵に恐ろしい呪いの言葉を発させるつもりだ。

 ―皇帝アマリスからその配下の兵達への命令


 2779年、1月、ヨーロッパとアジアの大部分はケレンスキー将軍に掌握されていた。幾つか激烈な戦闘――特に“キャッスル・ブライアン”を巡った戦闘――がありはしたが、辺境世界共和国軍の大部分が北米大陸に集められている事は明白であった。また、辺境世界共和国軍は、都市全ての住民を盾として繋ぐというものも含んだ凄まじい戦術を使用していた。故に、人命を救う為にケレンスキー将軍はアフリカと南米への侵攻プランを捨て、代りに北米に焦点を置いたのであった。
 北米へ行き着くのは、最高に難しい問題であると思われた。軍を輸送するのに降下船を使う事は、それらをアメリカ内で未だに稼動しているSDSの地上兵器に晒す事になるのである。大陸を繋ぐ10基の大洋横断トンネルはアマリスによって破壊されており、素早く修復するのは不可能であった。そして、ケレンスキー将軍は、安全と速度のバランスがとれた作戦を案出したのであった。
 1月15日、第322バトルメック師団(南極大陸師団)と第9機械化歩兵師団に率いられた大軍がベーリング海峡を渡り、アラスカ州の北に侵入した。それと同時に、SLDFの戦闘艦群と戦闘機群がメキシコ共和国に降下する数千隻の降下船を援護する為にSDSの地上兵器に対して桁外れの弾幕を放った。
 この同時侵攻に対する抵抗は、ヨーロッパやアジアで遭遇した如何なるものよりも強烈であった。アマリス軍の精鋭達は正規軍に対して、土地の全てのセンチメートルごとに戦闘を行ったのである。北方戦線に於いては、南極師団のアラスカの薄弱な橋頭堡はアマリスの2個師団がそれを極寒の海へ追い落とすべく圧迫を加えてきた時に殆どが奪還された。
 皇帝アマリスは、大陸防衛の指揮を執っていた。しかし、彼は有能な戦略家であったが、長年の偏執症は彼の技能と判断力を蝕んでいた。3月には、カナダ中央部への降下によって増強された北方部隊は、ユニティ・シティーに向かって海岸を進み始めていた。南方戦線に於いては、第135近衛バトルメック師団(ヴァン・ディーメン師団)が海岸沿いに北に、星間連盟議会の方向に、星間連盟部隊を率いていた。そして、フロリダ州、テキサス州、ニューヨーク州は第2の侵攻地域へとなり、その皇帝を助ける為に行動をするであろうと思われたアマリス軍を釘付けにしていた。
 2779年の6月〜7月に掛けて、アマリス軍は進軍する星間連盟軍に対して凄まじい抵抗をした。北方戦線に於いては、ヴァンクーヴァー島にて大規模な戦闘が行われた。そして、南方戦線では、辺境世界共和国軍は第135近衛バトルメック師団に対してコロンビア川の北岸を3週間に渡って保持したのであった。星間連盟軍は、最終的には両戦線を突破し、9月には辺境世界共和国軍を星間連盟議会周辺地域にまで後退させた。
 2779年、9月3日、第9機械化歩兵師団の前衛部隊が、星間連盟議会を視認した最初の部隊となった(第9機械化歩兵師団はその前身となった師団がそこの近辺に駐留していた事により、“ザ・プライド・オブ・ピュージェットサウンド”の名で知られていた) この最終決戦は、今までで最も激烈なものとなったのが証明された。その辺境の伝統に忠実であった辺境世界共和国軍は星間連盟が都市を奪還するのを妨げる為の無益な努力に基づき、特攻戦術に訴えたのである。そして、彼等の凄まじい戦術は、ケレンスキー将軍が個人的に率いるその最終攻撃を遅延させたのであった。
 しかしながら、この長きに渡った作戦の勝利は、ケレンスキー将軍がアマリスがユニティ・シティーに存在していない事を知るや否や、酸味に満ちたものとなった。星間連盟軍が星間連盟議会に到達する前にも拘らず、ケレンスキー将軍を歓呼の声で迎えた地球の市民達は彼に対して、アマリスがその時間の多くをインペリアル・パレスを歩き回る事で費やしているというのを伝えてきたのである。
 自身の妻、2人の息子、3人の娘達の懇願を聞き入れ、ステファン・アマリスはユニティ・シティーを離れ、以前にリチャード・キャメロンが彼の為にカナダの荒野に建設したスターパレスに移っていた。アマリスはこれをインペリアル・パレスと改名し、そこにて待機をしていたのであった。
 ケレンスキー将軍は幕僚達と共にユニティ・シティーを離れ、その注意をアマリスに対して向けた。“簒奪者”の逃亡阻止を確実なものにするべく、ケレンスキー将軍は自身の次席指揮官であるドシェヴァリエ将軍に特別攻撃部隊を指揮するよう命じた。9月29日、第26近衛バトルメック師団(ザ・グレアム師団)から来た精鋭メック戦士達は、アマリスの逃亡先の至近に位置しているインペリアル・スペースポートとその周辺に降下をした。そして、ドシェヴァリエ将軍の降下――すぐにより多くの兵達を搭載した降下船群によって増強された――は、辺境世界共和国軍の防衛を崩壊させ、アマリスの唯一の脱出ルートを切断したのであった。
 この第9師団と第26師団から来た連隊群を指揮するドシェヴァリエ将軍はすぐに、第328近衛バトルメック師団(ライオンハート師団)から来た幾つかの連隊を指揮しているケレンスキー将軍と合流した。そして、協力して、彼等はその地域を守備している辺境世界共和国軍を打ち破った。再三再四の待ち伏せ攻撃にも拘らず、ケレンスキー将軍とドシェヴァリエ将軍は1日で敵部隊を制圧し、アマリスに近づいたのである。
 この2人の将軍は彼等を守護する2個小隊のメックと共に、インペリアル・パレスを取り巻く広大な庭園に侵入した。アマリスの個人的な親衛隊のメンバー達は、ケレンスキー将軍がそのオリーブドラブ色のオリオンに乗ってやって来るであろうと警告されていた。しかしながら、実際にそのメックを視認し、それが強大な伝説的存在自らの手によって操られているのを知った事は、彼等を躊躇させたのであった。
 ケレンスキー将軍は、そのオリオンを疾走させた。壁上に設置された装甲トーチカの中にいる辺境世界共和国の防衛者達は、将軍が彼等から中間点に来た時に射撃を開始した。しかし、彼は素早く、トーチカにとって不利な射撃角度に存在し自分を守ってくれる壁に到達した。そして、ドシェヴァリエ将軍と残りの2個小隊がトーチカを沈黙させた時に、ケレンスキー将軍のオリオンはインペリアル・パレスの城門を粉砕した。
 これにより、内部の辺境世界共和国兵達はその武器を置き、アマリスの居住区画への道を明渡した。ケレンスキー将軍達が歩みを進めた時、アマリス――今やぼろぼろになっていた皇帝のローブを尚も身に纏っていた――は彼等に会う為に出てきた。彼は自分がリチャード・キャメロンの殺害に使用したのと同じレーザーピストルをゆっくりと抜くと、それをケレンスキー将軍のメックの脚下に置いた。その後、彼は自分の征服者が何か言うのを期待しているかの様に見上げた。そして、(それに対して)反応が全く返されなかった時、アマリスは絶望を表し、インペリアル・パレスの地面で許しを乞い始めた。
 元・皇帝がケレンスキー将軍のオリーブドラブ色のメックの前を歩き回る光景は、残存する少数の辺境世界共和国兵達の抵抗を終らせた。また、横のエントランスからは、アマリスの妻と子供達が現れた。そして、彼等は駆け寄ると、何も言わず彼の横に並んだのであった。
 ケレンスキー将軍はその捕虜達を、インペリアル・パレスへの来客用の高級ホテルであったものの残骸内に設置された第9機械化歩兵師団の司令部に護送した。ケレンスキー将軍は“簒奪者”を紳士的に扱い、アマリス一族に監視の為されたスイートルームを与える事を命じた。そして、実の所は全く期待していなかったこの待遇への見返りに、アマリスは喜んで自分の兵士達に降伏を命じる放送をする事に同意したのである。
 このステファン・アマリスのメッセージの効果は、即効的なものであった。辺境世界共和国軍――その大部分は北米の“キャッスル・ブライアン”内に存在していた――が武器を置いて降伏し始めたのである。このメッセージは、他の世界の辺境世界共和国軍にもゆっくりと到達した――それらの場所では、11月初頭まで戦闘は終結しなかった。ケレンスキー将軍の命令により、降伏をした多数の敵兵達は敬意を持って扱われた。
 


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