情報は戦闘手段である――“アーケルナル”会戦

(これは、WizKidsのMW3月キャンペーン、“Information Is Ammunition: The Battle for Achernar!”の暫定訳です。メックウォリアーのキャンペーンへの一助となる事を意図してのものです。警告/問題があった場合は即座に削除します)

(このシナリオは、メックウォリアー:ダークエイジの小説“A Call to Arms”で起きた“アーケルナル”での戦闘を踏まえた上での話となっています。ターサ・ケイなる人物が何者なのか、どういう経過でスチール・ウルヴズが1回目の敗北を喫したかは、小説を読まないと解からないようになっています)

背景:

 悲惨な結果に終った最初の“アーケルナル”奪取の試みの後に、カル・ラディックは再度の惑星奪取を企図し、小規模のスチール・ウルヴズの軍勢に命令を下した。そして、前の戦闘で彼等の敗北に関与した、惑星を防衛しているソードスォーンの軍勢は再度、ウルフ達の牙を抜く事を熱望していたのである。


ストーリー:
シナリオ #1: 幸運の女神

 悲惨な結果に終った最初の“アーケルナル”奪取の試みの後に、カル・ラディックは、ターサ・ケイ――“タイグレス”に移動中の――に対して(“アーケルナル”に)戻り、再度の惑星奪取を試みる事を命じた。ウルフ達が“アーケルナル”を奪取する為の“入札”に失敗した事は、彼等を外部に弱く見せるものであった――これはカル・ラディックには許容できない事だったのである。だが、“アーケルナル”のスフィア共和国軍とターサ・ケイが結んだ協約の一部には、彼女の惑星退去と決して戻ってはならない事が含まれていた。ラディックの要求は、彼女に誓約を破る事を強要するものであり、ウルフ氏族内のある目標に進む為の彼女の名誉に汚点を残すものだったのである。彼女はラディックの要求を満たすには、ボンズマンのユーリ・ウルフを代理として送るしか選択肢がなかったのであった。これは彼女の誓約の精神を汚すものであったが、しかし、法には違反していない――彼女はこのラディックの政治的強要を忘れる事は決してないであろう……。サンドヴァル公爵の大義の為に働くエリック・サンドヴァル=グローエルの命令の下、惑星上のスフィア共和国に忠誠を誓う軍を支援する為に“アーケルナル”に残されていたスカルキャップ・ギャレットと小規模のソードスォーンの軍は、今こそ立ち上がる必要があるであろう。



スターコマンダー・ユーリ・ウルフ
降下船“ルパイン”、“アーケルナル”行程上、第4宙域、スフィア共和国

 スターコマンダー・ユーリ・ウルフは、ふと、小さなホログラフィック・ディスプレイのテーブルにもたれかかった――彼の眼は固く閉じられていた。彼は経験上、彼の表情とジェスチャーは、周囲に彼が無関心である事を伝えられると知っていた。もちろん、真実より上のものは存在しないに違いない。しかし、大部分の氏族人とは異なり、時と場合によっては詐術が必要であり、タイプ5のオートキャノンを自分のブラックホークに装備させるのと同じぐらいにはそれが正しい事を、彼は理解していたのである。

 「スターコマンダー、我々の降下地域が敵の仮設の野営地に近い事は明白でしょう。恐らく、我々は降下地点を変えるべきなのでは?」

 彼は向きを変えなかった――彼はその必要性を感じなかったのである。彼は、ニコラ・デモスの声が常に不機嫌である事にはっきりと気づいていた。彼女の陰険な強い物言いはガラスの温室に盲目的に突進するサイに似ていた――非常に氏族らしくはないものであった。詰まる所、彼女はすぐにでも“不服の神判”を発動し、ターサ・ケイが誰の指揮の下に任務を果すかを決定するのに適正な“バッチャル”を経ずに、単純にこの小軍勢の指揮権を彼に与え、その軍勢の中にニコラが含まれていてた事に対して、彼に挑戦したいのだろう。さらにまた、スターコマンダー……それもボンズマンが、周りのスターキャプテンに対して命令を下すというのは全く(前例を)聞いた事もない事であった。彼は目を向けなかったが、しかし、自身の手首に回るコード(ボンド・コード)の重みを感じる事ができた。何とも、彼女が彼から命令を下されるのを憎むに違いない事実であろうか!

 「そこに存在しているのは、どこの軍だ?」彼は、敵軍が配置されているであろう地形が表示されたホログラフィック・マップに目を向ける事なく返答をした。

 「はい?」彼女は僅かに虚を衝かれて言った。

 彼はようやく、彼女に応じるべく視線を向け、深い茶色の瞳で一瞥する事で返答への僅かな機会を与えた――彼は何も言葉を発しはしなかった。

 ニコラは失った勢いを取り戻そうとするかのように、はっきりと身じろぎをした。「いえ、防衛側の軍だと……コマンダー」

 「ソードスォーンか? スフィア共和国軍か?」

 「いえ……」彼女は見当違いな何かを言っていた事に気づいて、再度、口篭もった。「ソードスォーンです」

 彼は投影図に振り返った。そしてニコラが勇気を奮い起こして再度彼に訊ねるまで、静寂はほぼ一分間完全に続いた。氏族人であろうとなかろうと、彼は対決が遠のくのに十分な程したたかに彼女を打ち負かしたのである。「コマンダー?」

「変更はしない。今、2度、ソードスォーンは我々を負かした。我々は逃げも隠れもしない。ウルフは咽笛に噛み付くものだ――しかも、彼等は剥き出しで無防備だ」



スカルキャップ・ギャレット中尉
ソードスォーン野営地、ハイレイク盆地、エリダヌス、“アーケルナル”、第4宙域、スフィア共和国

 「デブリンの血に誓って!――君は私をからかっているのか」スカルキャップ・ギャレットの声は仮設地に響き渡った。蹴られた蟻塚のように見えるソードスォーンの囲い地は、自機を緊急発進させようとしている男達で満ちていた。

 年間のこの時期の通例として、ハイレイク盆地の気温は摂氏40度以上を推移し、そして“アーケルナル”の青白い太陽は空気を叩きつけ、運ばれてきた熱は全ての方位で渦を巻き上げていた。彼は剥き出しの頭部の汗を拭うと、自身の帽子の事を思い出してそれを欲したようであった。スカルキャップは自身の首に常に身に付けている皮のポーチを掴むと、彼の生命を数えきれないぐらい救った2個の6面体ダイスを触った。今、彼は考えていた――幸運の女神が再びダイスに宿るかどうか、を。惑星全体の全ての降下可能地点の中でここに――そして、現実に、彼等の頭上に襲撃者達は降下して来るのである!

 「私はこのような事では決してジョークは言いません、中尉」コリーは言った。彼は向き直ると、自分の小さな体格よりも遥かに高くそびえる彼女を見つけた――彼女は明らかに身が竦んでいる様子であった。誰がどうやってこの内気な女性を、こんなにも大きくしたのだろう? 彼は深くは詮索した訳では決してなかったが、彼女が困難な人生を過ごしてきた可能性について想像を巡らすのだった。もちろん、彼は想像する事が不可能であった――2mの身長で立ち、大部分の男達が数年の仕事を行う事で獲得するような両肩を持っている彼女をどうやっていじめるのかを……。

 「今、君が言った言葉さ、コリー」彼は空を見つめながら言った。「君は、私がどんな人物であるかを知っている筈だ。メッセンジャーを処刑したりはしない」

 「はい、そうですね、サー」彼は彼女を見なかった――今までの経験により、彼女の謝意に満ちた顔を完全に見ると苛立つ事が解かっているからである。

 「我々は、彼等の識別をもうできているのか?」ギャレットはそう聞くと、自身のバトルメックに向かって歩き始めた。

 「いいえ」

 彼は無言で歩いた。歩く彼の周囲は作業の喧騒に満ちていた。そして、コリー、2番目を歩く彼女の影は、何物も覆い隠す事が不可能な大きさであった。自身のバトルメックに近づいた所で、彼はそのバトルメック――“ダイノキラー”を見上げた。彼は自身の保有する“スパイダー”軽バトルメックへ与えたニックネームが、彼の背後から果てしのない嘲笑をもたらしている事を承知していた。しかしながら、それは重大事ではなかった。“ダイノキラー”は、彼を最悪の運命、死から救ったのである――不面目にも。

 「よろしい、コリー。不面目は、私が今日思い悩むべき必要のある物事の1つではないようだな? それどころか、もし、今日、死んだとしたら、私は正しく伝説になるに違いない」

 彼女の顔に全くの混乱が現れたであろう事を認めると、彼は大きな声で笑った。もし、彼に時間があったのならば、彼はダイスを取り出し、それを振ってみたであろう。幸運の女神がいようといまいと、常に彼は運命という顔に唾を吐きかけ、腰を降ろして何が起こるか見届けるのを愛しているのであった。



戦闘結果:

スターコマンダー・ユーリ・ウルフ、スチール・ウルヴズ: 52%
スカルキャップ・ギャレット中尉、ソードスォーン: 48%
勝者: スチール・ウルヴズ

 僅か前に彼等を惑星から退去させたばかりの強固な敵の手から“アーケルナル”を奪取する任を受けたユーリ・ウルフと配下のスチール・ウルヴズは、敵と激しい戦闘を行った。しかしそこで、通例である狼の如き獰猛さで以って、ウルフ達は敵の急所(咽笛)に向かって一直線に突き進み、惑星上のソードスォーン守備軍の野営地に攻撃を加えたのであった。ソードスォーンは断固として戦闘を続けようとしたが、結局は戦場を明け渡す事になり、ハイレイク盆地深部への撤退を強要されたのであった。




ストーリー:
シナリオ #2: 狩る者、狩られる者

 惑星上のソードスォーン軍の撃破を決意したスターコマンダー・ユーリ・ウルフは、自身の名の由来となった戦法を用いる事にした。彼の率いるスチール・ウルヴズは、ソードスォーンを敗走させ、そして今、彼等の後背と側面に圧迫を加えていた。しかしながら、彼は理解していたのである――消費できる時間は十分にはない事を。時間を無駄に浪費したのならば、ソードスォーンの援軍として到着するであろうスフィア共和国に忠誠を誓っている軍が、ウルフの2回目の“アーケルナル”入札を失敗に終らせるのである。



スターコマンダー・ユーリ・ウルフ
ハイレイク盆地、エリダヌス、“アーケルナル”、第4宙域、スフィア共和国

 ユーリの前にぼんやりと現れた断崖は、下の大草原に向かってほぼ垂直に約400mの深さがあった。丈夫な草の平原と、その平原に点在する黄色とラベンダー色の花――ハイレイク盆地の高温と乾燥した環境に耐えられる丈夫な植物――が、目で見渡せる限りの範囲に存在していた。

 彼は雄大な規模の断崖を既に認識していたのではあるが、視界に完全な全景を確保すべく自身のブラックホークを断崖の横から横に移動させていた――それは終わる事のない行動に見えた。彼のブラックホークは斯様な方法で観察を行い、そして、この仕草――メックの斜め後ろに傾いた胴体とコクピット、巨大な脚は、単純に“頭の向きを変える”事をほぼ不可能にしていた――は、ブラックホークを打ち続く探索に苛立ち、地面を荒々しく蹴りつける巨大な金属の雄馬の様に見せていたのである。もしくは、獲物を捕えるべく駆け出す為に地面の臭いを嗅ぎ分けている巨大な狼と言った所であろうか。再び前方の熟視をすると、ようやく、ユーリは映像スクリーンを最大倍率で固定し、そして、彼は巧みに逃走を続けている獲物の発見に成功した――ソードスォーンは、断崖から平原に素早く降りられる道を知っており、逃走していたのである。

 「スターコマンダー、我が軍は如何にして下に降りるのでしょうか?」この言葉は、常に彼を突き、(行動を)促そうとしているニコラから放たれたものであった。(この分では)恐らく、彼は然程の間を置かずに彼女と再度の対決が必要であろう……。

 「ソードスォーンは逃走を続けています、コマンダー。彼等の平原への降下とあの位置は、我々に半日を必要とさせる事を意味しています」

 「では、君がジャンプジェットを持っていないユニット群と共に、道を発見するまでここに留まり続ける理由になるな」彼は返答した。

 「コマンダー!」彼女の声はかろうじて隠す事ができた程の怒りに満ちていた。

 「君は疑義があるのかね、クィネグ?」彼の平静な反応と、氏族の伝統的な接尾語を含んだ言は、彼女の(否定的な)回答を期待していない事を意味していた。この事は、明白に彼女の怒りを必要十分に鎮静化させるものであった……少なくとも今は。
(注:クイネグは、氏族の用いる修辞的な疑問形の接尾語。問い掛けられた者の否定的な返事を期待して発する言葉です)

 「ネガ(否)」
(注:ネガは、クイネグで終る問いかけを否定する時に用いる氏族言葉)

 「よろしい。ヨーク、カーラ、サーメル、ウェル、私に続け。ニコラ、我々は君が追跡に復帰するまで、君に奴等の位置を通知し続けるつもりだ」

 彼の命令への肯定的な応答が続いた。そして、ユーリは両脚のフットペダルを直ちに踏み、ジャンプジェットに点火し、自身のブラックホークを飛翔させ発進させる為に、舞い散る羽毛の様に見える超高温のプラズマを噴出させた。彼がジャンプジェットをカットすると、50tのマシンは急降下を始め、ユーリの胃を咽に押し上げた――追撃は再び始まったのである。



スカルキャップ・ギャレット中尉
ハイレイク盆地、エリダヌス、“アーケルナル”、第4宙域、スフィア共和国

 スカルキャップ・ギャレットは、不意に自分のダイスを再び振りたくなる衝動に襲われた。どこに、彼がダイスを必要とするようなポーカー・ゲームがあるというのだろう?笑い――僅かなものであったが――の衝動が彼の中に沸き立ち、その衝動は続いた……彼が狂ったように笑い始るまで。

 「中尉?」コリーの心配そうな声が、鎮静剤の如きものとして彼に浴びせられた。時折だが、彼は彼女のこの様な(大抵の場合は、敬愛の対象である)心遣いがひどく厭わしく思える。だがしかし、彼女は自分の役割を果たしているのである……今も、あの時も。

 陽気な笑いで生じた涙を眼から拭い去る為に数度の瞬きをし、前に向かっての疾走――ほぼ時速60kmに達しているソードスォーン軍の縦列の行軍ペースに従った結果として現れる“ダイノキラー”の揺れを彼は(体験し)続ける事にした。もちろん、この行軍速度は彼のマシンの最大発揮速度の半分にも達していない。しかしながら、良き指揮官は自身の率いる軍勢内のより遅いユニットを見捨てる事はできないのである。幸運な事に、数輌のギギンス輸送車とマキシム輸送車を彼は持っていた――彼は歩兵が徒歩で以って移動せざるを得なかった場合の自分が実施しなければならなかったであろう行軍速度を考えて身震いした。

 彼は咳払いをすると返答をした「心配するな、コリー。君は私の事を知っている筈だ。君は私の黄色いパッチに相応しい行動をさせるように試みるのが、まあちょっと、するべき事だ。これに間違いは全くない――そうだよな?」この時、彼の笑いは純然たるものであった。
(注:指揮官は黄色のパッチを付ける事が多い)

 言葉の終りの彼女の無言の睨みつけは、彼を再度笑いへと誘った――何とも、彼女はこのパッチを憎んでいる事か!

 「サー。私は何故、中尉がこのような不服従を許しているのか理解できません。中尉は、スパイダーの左脚も塗装させるべきです。そして、彼等を譴責すべきです」どうして彼以上に、コリーは自身の声に非常な憤りを一杯に込められるのだろう。

 「私は、その事について気にはしていない。彼等に私をからかわさせておけばいい。“逃亡者スカルキャップ”――彼等は私の事を、そう呼んでいるのだろう?」

 「私がそばにいない時にな!」彼は自分の言を自分で肯定した。彼は、コリーの周りで常に交わされるその種のコメントへの彼女の憤りと落胆の大きさを想像できた。

 「コリー、その事については気にするな。私は誓って気にしていない。私は次の日に戦う為に生きているし、彼等もそうだ。そして、この事実こそが重要なのだ。彼等には楽しみを持たせておくのだ」

 「しかし、それは許せ……」

 「ギャレット中尉、縁を越えて奴等が来ます」彼の斥候の1人の声が会話に割り込んできた。

 彼の陽気さは、奴等が予想よりも早く来た事により消え去った。彼は奴等との先の遭遇戦の時に理解しているべきであったが、しかし、彼は糞ったれのウルフ達があんなにも執拗である事を信じるのは未だに困難だとも解かっていた。奴等はまさしく来たのである。彼は援軍要請を発した――今、援軍が来るまでに必要十分な時間、彼は襲撃者を平地で食い止める必要があった。



戦闘結果:

スターコマンダー・ユーリ・ウルフ、スチール・ウルヴズ: 52%
スカルキャップ・ギャレット中尉、ソードスォーン: 48%
勝者: スチール・ウルヴズ

 ハイレイク盆地の彼等の野営地からソードスォーンを駆逐したスターコマンダー・ユーリ・ウルフは、容赦の無い圧迫を継続し、全ての局面に於いてソードスォーンを叩きのめした。(敵軍の)救援にスフィア共和国軍が来る可能性が常時あったスチール・ウルヴズは、ソードスォーンの側面から破壊を振り撒いた。しかし、警戒を怠ってはいたが、ソードスォーンは適切な対応をする事に成功し、完全な大敗北に終る可能性のあった戦闘を秩序ある撤退へと変えたのであった。だが、それでも撤退は撤退以上のものではない。この日は、スチールウルヴズの勝利となったのである。




ストーリー:
シナリオ #3: 鋼鉄の雨

 ソードスォーンと戦闘を行ったにも拘わらず、スチール・ウルヴズはソードスォーンが離脱と撤退を行う前に完全に潰滅させる事はできなかった。しかしながら、ウルフ達は貴重なソードスォーンのスナイパー間接砲戦車の捕獲に成功していたのである。数十年前、氏族は一般的に間接砲の使用には不興の色を示すもの――敵を視界に入れる事なく攻撃できる間接砲は、全く“戦士に相応しい”兵器ではないと氏族は見なしていた――であったが、中心領域との(長年の)接触は彼等からその種の感情を一掃していたのであった。今、ユーリは新たなる襲撃を開始した――彼は、勝利を成し遂げる為にはあらゆるものを使うであろう。



スターコマンダー・ユーリ・ウルフ
ソードスォーン野戦修理基地近郊、ハイレイク盆地、エリダヌス、“アーケルナル”、第4宙域、スフィア共和国

 巨大な装軌式戦車から出る排気ガスは胸が悪くなる程、暗い黄土色で以って空気を汚すと共に、ユーリの鼻腔を1000の微細な針で刺激していた。強力なエンジンの駆動音は正に空気を震わせており、大地は巨大な戦車のゆっくりとした移動に抗議するかのように軋んだ音を立てていた。

 ユーリは、自身の先祖の幾人かを墓から起こすかもしれない事を――(冒涜である事を)――知っていた。詰まる所、彼はスフィア共和国で生まれた事と、それ以外の事実は何も知らないのではあるが、氏族の歴史についてを学び、氏族の大部分についてはよく理解しているのである。彼等は間接砲を使用したが、一般的に氏族は間接砲の使用を制限するようにしていた。更にまた、氏族は最初に中心領域と対決した時はゼルブリジェンの儀式を用いており、名誉と格式のある一対一の決闘で以って戦ったのであった。しかしながら、中心領域の不実と野蛮さは、氏族に自身等の様式が誤っていると早晩に気づかせ、ゆっくりと変化をさせ始めたのである。何という格言であっただろうか?――“怪物を倒す為には、あなたは怪物にならなくてはいけない”であったか?

 「スターコマンダー、我々は位置につきました」スナイパー間接砲戦車の車長の声が、彼の身に着けているヘッドセットに満ち、彼の思考を中断させた。これらの瞬間が表す様に、彼の同僚の氏族人達は戦闘と栄光についてしか考えていない……そして、彼自身の歴史と社会の変化についての深刻な熟考は散漫になり、ユーリは自分が本当に、氏族に属しているのかどうか疑問に思うのであった。

 「よろしい」彼はヘッドセットのスイッチを抓む為に手を伸ばすと、周波数を変えた。「ニコラ、君は位置についたか?」

 「アフ(はい)、スターコマンダー」
(注:アフは、問いかけを肯定する時に用いる氏族言葉)

 ユーリは反抗が来る事を覚悟していたが、実際の所は何も来なかった事に驚いた。ニコラは自身が攻撃軍を率いている事に、非常に興奮しているのであろう。彼はニコラに酢を用いる代わりに、蜜を与えた。この事実は彼女の立場を越えて達したものであったのみならず、いつ酢が来るかを想像していた――そして、彼は酢を与える時が来る事を理解していた――彼女には恐らく衝撃だったのであろう。

 「砲撃準備」彼は言った。次に言葉を発した後に、彼のウルフ達は攻撃を開始するであろう。「ファイア!」

 どの程度、戦車に(距離的に)近いのかを失念しており、また、このような火力の使用に不慣れだった彼は、間接砲撃の威力への身体的な準備が全くできていなかった。重く強烈な爆風は、彼を文字通り足元から叩きのめすものであった。耳鳴りのする中、30秒後、第2射が空に打ち上げられた。ユーリの顔に狼のような笑みが浮かんだ――ここで、これ程までに最悪なのであれば、(砲弾の)終末点では、さぞかし驚嘆に値するものであろう。



スカルキャップ・ギャレット中尉
ソードスォーン野戦修理基地、ハイレイク盆地、エリダヌス、“アーケルナル”、第4宙域、スフィア共和国

 スカルキャップは、JI100修理車輌のリフト・ホイストが重整列結晶装甲の補修板を彼の“ダイノキラー”の右腕に運ぶ様子を注視していた。

 「よく見やがれ。この馬鹿、ゆっくりやれ!」ヨシュアは喚いた。ヨシュア――敵の攻撃があり得る場所に自身が必要とされたのに、このマシンへ自分以外の者が作業を行う事を拒否した彼の個人技術者――は、彼の傍で修理を監督していた。彼は、彼のスパイダーに関するいつもの酷評を始めていた。スカルキャップは両目を動かさないように試みた――そのような行為はヨシュアの単純な愚痴を長く、猛烈にするものだったからである。今までの経験で、スカルキャップは喚き声の一語一句全てを暗誦できる(までに覚えてしまっている)と確信していたのであった……。

 前世紀の中頃、マーリック家のニマカチ・フュージョン・プロダクト・リミテッド社は、ほぼマーリック家への売却のみを対象として計画された新型スパイダーを製作した。しかしながら、売れ行きの鈍い事が判明し、ニマカチ社はすぐさまこの型のスパイダーをどの買い手に対しても売却し始めたのである。だが、3060年代中盤、新たな現象が生じた。ヴィコア・インダストリー社から始まった、“プロジェクト・フェニックス”と呼称されたものは、時代遅れの設計のメックに新技術と再設計の外装を与えた――これは、数世紀もの間、同じ外観を保っていた大多数のバトルメック達へ与えられた、非常に徹底的/急進的な取り組みであった。そして、(プロジェクト・フェニックス・メックの)販売は増大し始め、他のメーカーも同様のプログラムをより新しい設計のメックにも適用して開始したのである。ニマカチ社もスパイダーへの自分達の投資を最終的に回収する事を望み、素早く時流へ飛び込んだ。しかしながら、これら大部分のアップグレード設計――大抵のものは元の外観への類似性を維持していた――とは違い、ニマカチ社は新設計から過去の欠点を排除する事を目的に極端へと走り、外観を変えた……それ故に、原型機とは殆んど類似点のない外観となったのであった。そして、かような次第で、彼等が作り出した複雑で難解な装甲配置は、戦場でのこのメックの修理を極めて困難なものにしていたのである。

 これ以上、立って喚き声を聞くのに耐えられなかったスカルキャップは、話を遮った。「ヨシュア、簡単な質問に答えて欲しい。これは0900時には準備が完了しているのか?」

 話を中途で遮られた、がっしりした短躯の男は、かなり傷ついたような顔で振り返った。「もちろん。何故できないと思ったので?」彼の言は、スカルキャップが彼を侮辱したかのような響きに満ちていた。

 スカルキャップはその場を立ち去りながら、偏屈な技術者に向かって自分の頭を振った。もし、これが私の処理すべき物事の全てだとしたら、私は幸運であるに違いない。さて、ウルフ達はどこにいるのだろう?

 ちょうどその時である――間接砲弾の鋭く甲高い飛翔音が響き、彼の頭をぐいと空に振り向けさせた。



戦闘結果:

スターコマンダー・ユーリ・ウルフ、スチール・ウルヴズ: 55%
スカルキャップ・ギャレット中尉、ソードスォーン: 45%
勝者: スチール・ウルヴズ

 ソードスォーンと戦闘を行ったにも拘わらず、スチール・ウルヴズはギャレット中尉が包囲下の部隊を解放して撤退させる前に彼等を潰滅させる事はできなかった。(戦闘の過程で)ソードスォーンの幾つかのユニットがスチール・ウルヴズの手に落ち、その中には間接砲部隊も含まれていた。果てしない逃走を続けるソードスォーン軍の阻止と処理、“アーケルナル”奪取という目的の為には、如何なるものも利用するとの強い意志を持ったスターコマンダー・ユーリは、既に打ち砕かれているギャレットの残存防衛軍への容赦ない攻撃を開始したのである。しかしながら、再度、戦場を放棄する必要があったにも拘わらず、スカルキャップとソードスォーンの派遣軍の生き残りは、次の日に戦う為にウルフ達の顎から逃れる事に成功したのであった。




ストーリー:
シナリオ #4: 最後の戦い

 ハイレイク盆地界隈から圧迫され、トレック海のゴールデンサンド湾の端に退いたソードスォーンには、自身を塹壕で囲み、攻撃してくるスチール・ウルヴズの撃退を試みる以外には他に選択肢がなかった。今までとは変化した“アーケルナル”の政治環境の為に、スカルキャップ・ギャレットは自身の要求したスフィア共和国の支援が受けられる可能性には懐疑的であった――今日、彼の率いるソードスォーンが生きる残るか全滅するかは、彼等自身の力によって決まるであろう。



スターコマンダー・ユーリ・ウルフ
ゴールデンサンド湾、トレック海、エリダヌス、“アーケルナル”、第4宙域、スフィア共和国

 ソードスォーンのテイマーレイン攻撃艇は、貧弱な建造物よりある程度の遮蔽を得ようと試みていた――その建造物は小さな家屋であったが、明らかにその小さなサイズと一致しない豪華な装飾が為されていた。資産家が何故、こんな小さな家を建築したのだろう? ユーリは長年、自分が中心領域の習慣を理解できるかについては懐疑的であり、どれ程の勉強をしても無駄ではないかと思っていた。

 もちろん、これは全く重大な事ではなかった。

 操縦席の右手のジョイスティックを動かし、ターゲット・レチクルが深い金色になり目標捕捉音が耳に響くまで、拳を固く握るのをユーリは我慢した。そして、目標に向かって5門のミドロン・タイプ5オートキャノンから、劣化ウラン弾の奔流が迸った。大地へ一直線に死の奔流は振り撒かれた。彼は家屋に向かって砲弾を誘導し、メック・サイズのオートキャノンで以って小さな家屋を食しているかのような巨大な破壊をもたらし、文字通り燃える焚木の小山に1射で変えてしまった。(あの家屋は)見掛け倒しの安普請だな!

 「スターコマンダー」コム・ラインを通じてニコラが言ってきた。「彼等が、我が方の左側面突破を再度、試みています」

 テイマーレイン攻撃艇は速度を出す為に、直ちにサンド・ファンの出力を上げた。まるで、回転草が突然の風に吹かれて離れたジャックラビットのようである。ユーリの知覚脳が車輌を追っている間――彼は直ちにマシンを左に歩かせるべく左のフット・ペダルを踏み、ターゲット・レチクルを追随させる為に右手のジョイスティックを押した――、ユーリは何故、彼女が彼にその事を伝えてきたのかをあれこれと考えた。戦いの最中でさえ、彼女はこれが彼の何らかの過ちなのではないかと婉曲に言う事を我慢できなかった。恐らく、今が、彼自身の“不服の神判”を発動すべき時なのであろう。攻撃もまた1つの手段である――それがクランの法なのであるから。だが、任務を現に脅かしている野心は、全くの何か別のものなのである。

 「奴等を阻止しろ」彼は静かに言うと、それを一時的に脇においやった――彼は目標へのロックを行うと中指を引き、目標に向かって長距離ミサイルの一斉射撃を放った。数秒後、ホバークラフトが通過しているエリアに複数の激しい爆発が生じ、車輌のエア・スカートを引き裂いてぬかるみに突っ込ませ、数回程転倒させた。

 そう、奴等を阻止するのだ。



スカルキャップ・ギャレット中尉
ゴールデンサンド湾、トレック海、エリダヌス、“アーケルナル”、第4宙域、スフィア共和国

 巨大なチェーンソーが放つ甲高い音は、スカルキャップの生命を救った。

 戦闘は1時間以上も激化して続いていた――スチール・ウルヴズの軍勢は倦む事無く、彼がゴールデンサンド湾のバケーション用バンガロー群の周囲に急造した防御陣地外辺部に対して圧迫を加えていた。彼の軍勢はソードスォーンの外辺部を縮めていくスチール・ウルヴズに高い犠牲を払わせる事を強要していたが、完全に十分とは言えなかった――プリンス隊は、ウルフ達よりも多くが砂に倒れ込んでいたのである。

 まだ、彼の部下達は戦っている。ここが最後の戦いの場だと知っているからである――彼等の背後は海であり、これ以上逃げる事は不可能であった。彼の“ダイノキラー”は波の下に逃げ去る事も可能であったが、彼の指揮下にある車輌、歩兵、インダストリアル・メックには、その様な装備は無いのである。彼の部下達は絶えず彼の“逃げ足”をからかう事を好んでいたが、それは一般的に彼等全てが、その事実に最も興味を抱いていたからである。大抵の人物よりも年を取っているが、ギャレットは多くの場合に於いてソードスォーンの他の指揮官達よりも低い損害で目的を完遂しているのであった。しかしながら、強い圧迫が来ている……だがしかし、彼は自分の部下達を置いて逃げる事はできなかった。彼は部下の傍に立ち、そして生き残るであろう……或るいは、生き残れない事になるかもしれない。

 苦闘が続き、彼の周囲で男達、車輌が倒れていく中で、改修型フォレストリィ・メックが頭上から飛び降り、1門のレーザーから放たれる数キロジュールのエネルギーよりも容易く彼のスパイダーの装甲を切り裂けるであろう恐ろしいチェーンソーを振り下ろすまで、彼はその事に気づかなかった。長年の経験で磨き上げられた本能で以って、彼は“ダイノキラー”をしゃがませる事に成功し、機体を前方へ僅かに傾けさせると、ジャンプジェットに点火すべく脚のフット・ペダルを踏み込んだ。

 奇怪な角度で噴射を行ったスパイダーは、辛うじてバンガローへの衝突を避けられた。そして、僅かにバランスを失い、右に傾き始めた。自身のメックについて熟知しているスカルキャップは、スパイダーにも同じ事を行わせるべく逆に傾かせ、その一方で横と右腕自体に空気抵抗を作りだす為に右腕を部分的に広げさせた。しかしながら、この試みは十分なものではなかく、彼がジャンプジェットを切った途端にメックは岩の様に落下を始めたのであった。ちょうどその時、海風の強い突風が彼のスパイダーを叩き、波と砂を跳ね飛ばしながら無骨に降下するのには十分な程の姿勢に正した。彼は僅かに意識が朦朧としたが、何もダメージを受けなかったようだ――そして、彼は生きていたのである。

 彼は空気を吸い込むと、ダイスを掴む為に手を伸ばした。今のは、以前に何度も起こったように、“Good(良好)”よりもさらに良いであろう“Lucky(幸運)”であった。幸運の女神は再び、彼の側に来たのである――彼女と共にある限り、この戦闘は1つの流儀でのみしか終えられないであろう。



戦闘結果:

スカルキャップ・ギャレット中尉、ソードスォーン: 53%
スターコマンダー・ユーリ・ウルフ、スチール・ウルヴズ: 47%
勝者: ソードスォーン

 ハイレイク盆地界隈から圧迫され、トレック海のゴールデンサンド湾の端に退いたソードスォーンには、自身を塹壕で囲み、攻撃してくるスチール・ウルヴズ撃退を試みる以外には他に選択肢がなかった。ユーリ・ウルフはソードスォーンを殆んどの局面に於いて敗走させる事に成功していたが、しかし、スカルキャップの伝説的な幸運は本物であり続けた。ソードスォーンは海への圧迫を抑えたのみならず、ウルフ達が振り落ろす爪と太い牙に対しても激しく抵抗を行ったのである。多くの月を費やした上で屈辱的にも、スチール・ウルヴズは、“アーケルナル”からの2回目の撤退を強要されたのであった。




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