Major Personas: 3145

(ここには、3145年の主要人物の解説を載せています。“フォートレス”外部残留スフィア共和国軍の(聖騎士アリアナ・ズー等々の)視点で以下の各主要人物の解説は書かれています)


スフィア共和国 (Republic of the Sphere)

ジョーナ・レヴィン
称号/地位: スフィア共和国総統
生誕年: 3082年(63歳、3145年時)


 ジョーナ・レヴィン――幾人かの者達にとっては共和国の救世主であり、その他の者達にとっては独裁的な狂人である――は、3年という短い期間で最新参の聖騎士から“フォートレス・リパブリック”を構築した人物へとなった。ライラの中流実業家庭に生まれたレヴィンは、10歳の時に家族と共に共和国に移住した。そして、彼は道義心と義務感を当初から示して、18歳の時には市民権を獲得する事を志した。軍に入隊した彼は自分の新たな故郷である惑星“カーヴィル”の市民軍にて大尉にまで昇進し、多くの者達は彼が何時の日にかは更に大きな指揮権を獲得する事になるであろうと期待した。3110年の“クラーギン事件”にて彼のRAF内での出世街道は完全に道筋を変え、その事件後、彼はデヴリン・ストーン自身によって認められて共和国の騎士団の一員となった。
 その騎士としての20年間はレヴィンが“ブラックアウト”の起こる直前の3132年に聖騎士位へ昇る為の礎となったのであるが、それはその3年後に彼が務める事になる更により大きな役割には些か頼りないものであった。ダミアン・レッドバーンの任期終了後、総統に選出されたレヴィンは内部と外部、双方からの圧力により既にほぼ限界点に達していた共和国のリーダーシップを継承すると言う不幸を背負ったのである。彼の統治を転覆しようとした議員連合の試みとドラコ連合による共和国侵攻が最後の止めとなり、レヴィンは中央星系群を突破不可能な壁の背後に隔離するという長年に渡り眠らされていたかの計画を発動させた。
 3135年10月以降のレヴィンの行動に関して――それと彼が尚も総統であるかどうかに関して――は、“フォートレス”外部の我々には知る術がないものである。レヴィンによって見捨てられた惑星群の多くは彼の名前を呪っている一方で、その他の者達は何時の日か勢力を回復した共和国が失われた自らの領土の奪還に移るであろうという希望を抱き続けている。しかし、最終的には歴史自身が、レヴィンが救世主か暴君の何れであるかに裁定を下すものであろう。

デヴリン・ストーン
称号/地位: スフィア共和国総統、3081〜3130年
生誕年: 3043年?(約102歳、3145年時)


 我等の共和国の敬愛すべき創設者であるデヴリン・ストーンはその出自が謎めいており、同様に我等の下から姿を消した状況も謎めいている。その3071年の惑星“キタリー”のワード・オブ・ブレイクのRBMU 105キャンプからの脱出は、星々に広がりやがてブレイク教徒による災厄を打ち倒し人類を導く新たな社会のモデルを作り上げる事になるムーブメントの有名な序曲であった。
 そして、その後、彼は我等の下を去った。
 振り返ってみると、ストーンが星間国家の運営という日々の仕事に対する関心を失っていっている事は明白なものであった。彼が公に姿を現す頻度は年月と共に着実に減少しており、聖騎士会議を除き如何なる政府官憲とも交流する事が最早稀であった。3128年初期のデイヴィッド・リーアの死去は、恐らく最後の止めとなった思われる。長年に渡り、かの2人の人物がこの平和の数十年間を通じて共和国を指導してその国民達を導いてきたのである。今やリーアは失われ、ストーンは支えを失って放り出された。彼は事実上隠遁者となり、自分の公的職務に於いて大抵はぞんざいな承認を下すのみであった。そして、共和国の多くの者達は、我等の不在がちな指導者に対する不満を漏らし始めた。長年に渡り地下で燻っていた緊張は再び表面化した。しかし、それらの全てにも拘わらず、ストーンは関心を持つ事ができない様に見えたのであった。
 そして、突然に事態は一変した。3130年の開始と共に、復活した総統の姿が見られる事となったのである。ここ10年近くの間で初めてストーンは議会会期の開会式に出席し、多数の議員達の名前を一人一人挙げて祝辞を述べ、数十年前にそうであった彼と正に同一の振る舞いをした。そして、この甦った立ち居振る舞いは数ヶ月間に渡り続いたのであった。その次に何が起きるのかを我等が知る由もなかったのは残念な事である。
 3130年8月10日の朝、ストーンはジュネーヴのリベレーション・スクエアにて野外集会を開いた。自身の熱烈な支持者達、批判者達にも等しく語り掛け、彼は自分が誕生させた共和国の数々の成果を称賛し、将来への名言を披露した。その後に、飾る事なく、彼は自らの総統職からの辞職を告げた。彼は共和国が自分を真に必要とする時には戻ってくるとの約束を我等に残し、ステージから去った。それから数時間を経ずして、彼は首都から姿を消し、これ以後に彼を目撃した者は存在していない。
 彼が姿を消した以後の年月に於いて、彼の足取りは全く掴めていない。惑星“アリオス”の小さな地方都市や惑星“フォーマルハウト”の海の遊覧船にて彼の姿を目撃した、“ホールステッド・ステーション”のアステロイドにて探鉱中の彼の姿を目撃した、もしくは共和国の内外の数ダースの惑星にて彼の姿を目撃した、と数多くの市民達が主張をしているものであるが、それらの目撃情報で確たる証拠が付随しているものは1つもない。あらゆる点に於いて、我等に目的と平和を与えたかの人物は存在が失われているものであり、我等は我等の下に戻ってくるという約束を彼が本当に守るのを願う事しかできない。我等が彼を必要とする時が何時であるかと言えば、それは今なのである。

ダミアン・レッドバーン
称号/地位: 前・スフィア共和国総統、3130〜3134年
生誕年: 3085年(60歳、3145年時)


 ダミアン・レッドバーンは、共和国に仕えた長い歴史を持つ一族の出身である。彼の偉大なる祖父のアンドリューは“氏族戦争”の英雄であり、後の“聖戦”に於いてはデヴリン・ストーンと共に戦った人物である。彼の父親であるセオドアは、初期の共和国の形成を助けたストーンの文民指導者の内の1人である。ダミアン自身はRAFにて傑出した経歴を享受し、ストーン自らによって聖騎士かつ直弟子に選ばれた。そして、3130年のストーンの引退時、レッドバーンは彼が直々に選んだ総統職の継承者となった。
 しかし、彼の任期はその殆ど始まりから国内不安に苦しめられるものであった。ストーンの力強い個性とオーラが表舞台からなくなったが故に、共和国の政策に対して不満を持つ多数のグループが公に姿を現し始めたのである。レッドバーン総統はベストを尽くして彼等に対処したが、3132年の“ブラックアウト”は彼が決して立ち直る事のできなかった打撃であった。彼の総統としての任期が終了する時には、共和国は止められない大難の瀬戸際でよろめいていた。そして、レッドバーンは政権をジョーナ・レヴィンに手渡して引退した。
 ――或いは、彼はそう考えていた。しかし、“フォートレス・リパブリック”発動の直前、レッドバーンは忠実な騎士達の小集団を集め、第10宙域の外部に移動したのであった。それは彼等が友人や家族達から切り離されるのを意味するものであるにも拘わらず、レッドバーンは共和国の忠誠派達――彼等と同様に国家から切り離される事となる者達――の為の安全な避難所を作り出す必要が自分達にはある事を彼等に納得させたのである。それ以来、困難な時代であるが、我等はレッドバーンのこの方針を固守し続けている。レッドバーンは共和国を尚も信奉している者達の為の避難所を作り上げたが、それが彼に負わせた代償は年々明白なものになってきている。彼の部下達の多くは、共和国が今後再建されるかどうかに関して疑問を抱き始めているものである。そして、彼はそのぐらつく事のない堅固な立ち居振る舞いを保持しているが、彼の腹心達は彼の健康についての懸念を抱いているのであった。

アリアナ・ズー
称号/階級: スフィア共和国聖騎士
生誕年: 3099年(46歳、3145年時)


 惑星“ザーニア”の宇宙港都市ハルツボルクで生まれ育ったアリアナは、観想的なセントマリナス修道会――彼女のその故郷の惑星の砂漠の荒野の中にひっそりと存在している、元・メック戦士達の為の有名な修道院――の物語を夢中になって読んでいたものである。その物語への傾倒は彼女の青春期を形作るものとなり、それは彼女を適齢に達するや否やノースウィンド士官学校への入学に邁進させた直接の要因となった。彼女は士官学校にて傑出した存在となり、彼女は士官学校校長によって騎士訓練過程への候補者として注目された。卒業後、アリアナは第8ハスタティ・センチネルズで軍務に就き、惑星“ロッシェル”への海賊の襲撃者達に対して自身の名を揚げた。そして、彼女は聖騎士オットー・マンデラの注目を得、彼は3124年に彼女の騎士位の推薦者となった。
 アリアナは遍歴騎士として自分の故郷に帰還し、セントマリナス修道院の伝説に更に自分自身を絡ませた。彼女は程無くして、過酷な試練に直面しても揺らがないその高い精神性と不偏性で以て名声を得た。その丁度4年後の彼女の正騎士への昇格は、ストーン総統の儀仗隊への配属と第10プリンシピーズ・ガードの非公式の指揮権を伴うものであった。その地位に於いて、彼女は聖騎士会議の大部分の者達にその名を知らしめ、その軍事的能力・その均衡の取れた精神性・そのスフィア共和国への献身性で以て彼等を感銘させた。
 “議員反乱”の初期戦闘の最中のメラジ・ヨルゲンソンの戦死の際、アリアナは聖騎士位への昇格者に選ばれた。そして、彼女は、“フォートレス・リパブリック”の発動の直前に第10宙域外へ派遣された。当初、その事は彼女に困惑と悩みを与えるものであった。しかし、惑星“カリソン”での“レムナント”の確立に伴い、彼女はダミアン・レッドバーンのサービスに加わった。“レムナント”の軍部隊に“最後の聖騎士”と呼ばれている彼女は、ほぼ10年間に渡りレッドバーンの右腕として働いてきている。彼女は何時の日か引退してセントマリナスで過ごすという夢を未だにその心に抱いているのであるが、当面の間は、彼女は共和国の生存にその心を砕き続ける事を決意しているものである。

クリストフ・エルベ
称号/地位: スフィア共和国騎士
生誕年: 3101年(44歳、3145年時)


 惑星“タウン”生まれであるクリストフ・エルベという名で知られるこの男性は、元々はそこの辺鄙なツィーンガーラ州にてクリストフ・バチストという名で生まれ育っていた。彼の父親は尊敬される法定弁護士であり、若きクリストフは平穏な少年時代を享受した。しかしながら、3105年、首都から来た賞金稼ぎ達が、彼の父親の正体はジェイコブ・エルベ――惑星“タウン”に於けるワード・オブ・ブレイクの再教育キャンプの運営の役割を果たした事により“聖戦”終結以後に指名手配されていた元・教育大臣――であると突き止めた際にその平穏は破られる事となった。最終的には、ジェイコブは証拠不十分と彼を(罪状と)決定的に関連付けられる証人がいなかった事により無罪放免となったのであるが、その頃には彼の職業と日常生活は破壊されており、彼は自殺をしてしまった。そして、その3年後の3111年、その母親が続いて自殺をした際に、クリストフは孤児となったのであった。両親を失ったこの少年はポートハワードの伯母によって育てられ、学業に長じ、やがて自分の父親の足跡を追って法曹界に入った。
 31歳の時、彼はスフィア共和国騎士団によってそのメック戦士訓練過程に選抜された。そして、クリストフはこの選抜を受け入れたのであるが、(その際に)自分の父親の名誉を守る為に自分の姓をエルベに変えたのであった。彼は並外れた前途有望さを示し、そのクラスでトップにて卒業するというのは妨げられる事もなく運命付けられている様に思われた。しかし、ここで絶望的な人員不足に喘ぐ総統は多数の騎士候補生達を実戦任務に召集し、彼等を遍歴騎士に昇格させた上で共和国中の問題地域に配属した。クリストフは自らの故郷に配属され、悪名高い“リトル・ルシエン”の殺人鬼の追跡を手助けするという任務を与えられた。
 その後、騎士エルベは“フォートレス・リパブリック”の前日に一連の秘密任務の為にダミアン・レッドバーンによって引き抜かれた。それ以来、彼はレッドバーンの最も信頼する副官の1人となっており、かの元・総統の旗の下に集った騎士達の指揮官を務めている。クリストフの忠誠と献身は幾つかの困難な時期を通して我等の助けとなってきており、彼はその寄せられるあらゆる称賛に正に相応しい人物である。

タラ・キャンベル
称号/地位: ノースウィンド女伯爵、共和国知事
生誕年: 3104年(41歳、3145年時)


 このハイランダー連隊の指揮官は、総統に仕えた中でも最も忠実な共和国人の1人である。その外交青年団の子供広告塔としての時代からそのノースウィンド士官学校を優等で早期卒業した時代、“ブラックアウト”の発生後に3つの宙域を引き裂こうとした勢力からほぼ単独でそれを守るという重責を担った時代の全てに渡り、キャンベル女伯は自分の人生に関するあらゆるものが共和国の求めるものよりも次位に置かれる事を繰り返し実地証明してきているのであった。
 それらの全ての事が、何故、“フォートレス・リパブリック”が実行された時に彼女がその壁の外に出ていたのかという事を自明のものにしているものである。レヴィン総統自らによって個人的に要請をされたキャンベルは、反共和国活動が相当に近付いた場合に発見されてしまう恐れのある秘密の兵器集積所の確保をする為に惑星“シェラータン”へ赴く任務に就いた。それがレヴィンが“フォートレス”を発動した際には自分のハイランダーズの大部分と切り離される事になるのを意味しているにも拘わらず、彼女は求められた際に厭わずに応じたのである。私はそこにて惑星に残っていた極少数の忠誠派の人々寄せ集めて作られた現地の市民軍部隊を率いている彼女を発見し、彼女を手助けして兵器集積所の惑星“カリソン”への移設を行った。
 ここ“レムナント”への到着以来、タラ・キャンベルはレッドバーン総統に忠実なRAF兵達の指揮官として彼に仕えている。“レムナント”によって防衛されている惑星“カリソン”やその他の惑星へ放棄された周辺の領域出身の闘士達が辿り着いた時には、キャンベルは彼等を最大の効率で以て組織し、彼等の技能と装備を活用した。彼女は3144年12月の惑星“ガラテア”の我々の防衛を成功裏に指揮し、クリストフ・エルベの騎士達と密接に動いて1つの強力な部隊を作り上げている。
 それでも、ここ惑星“カリソン”での彼女の恐らく最も親しい友人として、私はかの女伯が自分の故郷を懐かしんでいる事と“フォートレス”内に残した自分のハイランダーズを案じている事を知っているものである。外部に残留した者達はキャンベルに合流するべく集まってから久しく、彼女のハイランダーズ大隊は率直に言って我々の最大の戦力の1つである。


恒星連邦 (Federated Suns)

ジュリアン・ダヴィオン
称号/地位: 恒星連邦国王
生誕年: 3107年(38歳、3145年時)


 不動かつ誠実であり、愛嬌を持ちつつも優雅であるジュリアン・ダヴィオンは、ダヴィオンの典型である。“聖戦”の英雄であるジャクソン・ダヴィオンの孫であるジュリアンは、自分の一族の名誉と冒険の物語を聴いて育った。彼はNAMA(ニューアヴァロン軍士官学校)の自分のクラスにて首席であり、ナーゲルリンク士官学校との交換留学プログラムの資格を容易に得られた。しかしながら、ナーゲルリンク士官学校にて彼は慎みのないカランドレイ“カラミティ”ケルと誤りを犯し、国家主席の命令によってライラ共和国からの退去と入国禁止処分を受ける羽目になった。彼の支援者であったハリソン・ダヴィオン国王は万事を丸く収められたものの、ジュリアンはこの不品行により長年に渡りきまりの悪い思いを抱く事となった。
 ジュリアンは従兄のケーレブとは決して親密になる事がなく、ハリソンが彼をプリンスズ・チャンピオンに任命した(歴史上、最年少のプリンスズ・チャンピオンの1人となった)時にはケーレブと更に疎遠となった。ジュリアンは国王のトラブルシューターとして国中を巡り、中小貴族の傷ついたプライドを宥め、タウラス人達の襲撃を撃退し、惑星“ニューシルティス”の宮廷にて多大な時間を費やした。ここでアマンダ・ハセク女公はこの若き男の人生と経歴に興味を抱き、そして、宮廷内の多くの者達はジュリアンがあの悪名高い独立心の強い女公によって堕落させられる可能性があるのではないか、とハリソンに注意を促した。しかし、ハリソンはジュリアンの不忠に関する提言の全てを単に無視したのであった。
 ハリソンの死後、ジュリアンとケーレブの関係は一触即発の緊張状態に達した。彼は第1ダヴィオン近衛隊と共にスフィア共和国宙域にて数年間を過ごし、崩壊しつつあるスフィア共和国の自領土防衛への助力をしたが、それは“フォートレス”の発動により基本的に無意味なものとなった。ジュリアンと近衛隊は最終的には惑星“ターカッド”へ派遣されたが、ウルフ氏族とジェイドファルコン氏族に対してはその力を余り役立てられない事となった。ケーレブ・ダヴィオンの死は、気の進まないジュリアンに決して彼が望みはしなかった王位をもたらした。しかし、恒星連邦に行われている2つの侵攻は、自分の玉座の為に彼に戦う事を必要とさせるであろう。

ケーレブ・ダヴィオン
称号/地位: 恒星連邦国王
生誕年: 3099年(44歳、3144年時:死亡)


 恒星連邦国王ハリソン・ダヴィオンとその最愛の妻イザベラ・ハセクの唯一の子供であったケーレブは、かの若きカップルの長年に渡る不断の努力の末に誕生をした。その妊娠の為の苦闘と自分の医者からの子供をこれ以上作らない事を勧めるアドバイスは、その自らの小さな息子をイザベラにとって非常に尊いものとした。そして、彼女はハリソンが眉をひそめる程に息子の事を溺愛したのであった。子供が成長をした時、かの父親と息子の仲は余所余所しいものとなっていた――ケーレブがNAMA(ニューアヴァロン軍士官学校)へのメック戦士候補生としての合格に失敗し、代わりに戦闘ヴィークルの訓練過程に追いやられてからは、特に。3130年の彼の愛する母親の死去と、その後のハリソンのレイヴン同盟のスターリング・マッケナ族長との関係は、両者に更に距離を置かせる事となった。
 ハリソンとケーレブの間の関係は常に緊張したものであり、3135年の初期の月々にそれは更に悪化した様に見えるものである。ハリソンの息子はヴィクター・シュタイナー=ダヴィオンの葬儀の為の“地球”への彼の旅に同行せず、遅れて、緊張化した状況の中でそこへ到着した。多くの観察者達がハリソンとその若き甥のジュリアン・ダヴィオンの親密さに注目して、ジュリアンが後継者に指名されるのではないか、と憶測を巡らした事は、ケーレブへ苛立ちと悔しさを抱かせたに違いない。そして、ハリソンが(高所から)転落した――そして、その後、昏睡状態に陥り、しばらく後に彼は死亡した――際に、その場に存在したのがケーレブのみであったという事は、それらの緊張が存在した事実と合わさってその事態を非常に疑い深いものへとしている。
 自分の父親が重傷を負った後のケーレブの行動は、ハリソンの路線からの劇的な変更を示すものであった。自分の父親がスフィア共和国との同盟堅守に活発に行動したその地位から、ケーレブは“チコノフ”とその周辺の星々の領有を主張した。その他の事案のほぼ全てを除外して、新たな国王はスフィア共和国を犠牲にして自分の国家をどの様にして拡大するかという事に集中したのである。我等の専門家の幾人かは彼が何らかの形態の精神病を患っていたのではないかとの疑いを抱いているが、ドラコ連合の侵攻の初期の日々に於ける彼の行動は見事とは言えないまでも有力である指揮能力を示している。ある者は、もし、彼が生きていた場合、物事はどうなっていたかについて想像を巡らしているものである。

エリック・サンドヴァル=グローエル
称号/地位: プリンスズ・チャンピオン、恒星連邦摂政
生誕年: 3105年(40歳、3145年時)


 エリック・サンドヴァル(彼は大抵の場合に於いてグローエルを省略するのが恒例である)は、伝説的な人物であったジェイムズ・サンドヴァルの妹のジェシカの曾孫として惑星“ロビンソン”で誕生した。公式の継承順位では取るに足らない存在であったが、それでもエリックはかの家門の重要な一員であると見なされた。彼は主として惑星“ロビンソン”にて育てられ、特に年上の従兄であるアーロンと親しい関係になった。この事は、HPG崩壊後に彼に役立つものとなった――エリックはコーウィン公爵によりスフィア共和国成立以前にはサンドヴァル家の長年の領地であった戦略的惑星である“マーラ”を取り戻す為にスフィア共和国へ送り込まれたのである。そして、エリックは従姉妹の1人のクリスティーンの妨害の為にその任務に失敗したが、彼は最終的にはアーロンの下で働く事となり、スフィア共和国の崩壊の初期の年月に於いてアーロンの為に彼は身軽なトラブルシューターとして行動したのであった。
 3134年以後の恒星連邦によるスフィア共和国への関与の増加は、エリックに平行的な運勢の上昇をもたらした。ケーレブ・ダヴィオンが王位に就いた事により、アーロン・サンドヴァルは脇へ押しやられ、エリックはソードスォーンを率いる事になるのみならずプリンスズ・チャンピオンに任命されるという栄誉も受けたのである。彼は“チコノフ”宙域のダヴィオン軍の指揮権を与えられ、崩壊しつつあるスフィア共和国から元・ダヴィオンの惑星群を取り戻すという自分の主君の欲求に対して完璧な支援をした。
 しかしながら、3144年のケーレブの死こそがエリックの運勢を真に上昇させたものである。恒星連邦の最高君主が死亡し、その王家の次の継承者がライラ共和国内で氏族人達を相手に遠く離れて戦っていたが故に、枢密院はエリックをジュリアン・ダヴィオンの摂政として指名したのであった。そして、その直後のドラコ連合とカペラ大連邦国により行われたほぼ同時の侵攻は、エリックがその上昇のほぼ頂点に達する事を確実なものにした――しかし、その頂点に留まり続ける事は容易なものではないと思われる。エリックは正統な国王の帰還の為に自分は現状を守っているだけであるとの主張をしているが、オブザーバー達の多くは摂政がエリックの最終目標ではないのではないかとの疑いを抱いているものである。

アマンダ・ハセク
称号/地位: ニューシルティス女公爵
生誕年: 3069年(71歳、3145年時:死亡)


 自分の父親が暗殺される直前に誕生したアマンダ・ハセクは、ジョージ・ハセクの死は“ニューアヴァロン”の命令によるものである、と吹き込む中小貴族達で満たされた惑星“ニューシルティス”の陰謀渦巻く宮廷の中で生まれ育った。この環境はかの若き女性の精神へ恒星連邦の統治者であるダヴィオン一族に対する悪印象を与え、(恒星連邦)首都の邸宅でティーンエイジの幾らかを過ごした事でさえも彼女のその反感を消し去る事はできなかった。自分の妹のイザベラとは異なり、アマンダはダヴィオンの王位に対して信頼や安心を感じる事は決してできなかったのである。
 3100年の叔母であるアンジェラの死亡時に、アマンダは惑星“ニューシルティス”とカペラ境界域の統治を受け継いだ。彼女は即座に、恒星連邦国王――王位に就いてからまだそれ程間もなかった――が異議を唱えられないやり方に則った“ニューアヴァロン”からの独立という自分の主張を実現する方法を思案し始めた。自分の妹がハリソン・ダヴィオンと結婚したという事実は恐らくその彼女の野望をある程度は抑えたであろうが、それでも(当時の)かの若き女公はハセクの名の栄光を再び取り戻す事を決意していた。その結果として生じた“ヴィクトリア戦争”はアマンダに幾つかの偉大な獲得物をもたらしたのであるが、彼女は境界域の多数の惑星を喪失した事で国王によって譴責された。そして、彼女は更に憤懣を抱く事となった。
 アマンダは忠順にハセクの血統を絶やさない様にした――“ウェルンケ”出身の小貴族と結婚し、彼女は2人の子供、アレクサンダーとキムを誕生させたのである。彼女はHPG崩壊直前にカペラ境界域の日常統率を自分の息子に譲り渡したが、カペラ境界域全域に渡る自分の権力と影響力は固く握り続けたままにしていた。3129年の開始時、彼女はジュリアン・ダヴィオンを子飼いの手駒にする計画を実行し、彼の経歴の手助けをして、彼をハリソンの息子であるケーレブの似合いの競争相手に仕立て上げる事を試みた。しかし彼女の計画にとって不幸な事に、ジュリアンは王に対して常に忠実であり、彼女の“キングメイキング”に対して単に調子を合わせてあしらうのみであったのである。

コーウィン・サンドヴァル
称号/地位: ロビンソン公爵、ドラコ境界域首長
生誕年: 3080年(64歳、3144年時:死亡)


 纏まりに欠ける名門サンドヴァル家の誰もが認める当主であったコーウィン公爵は自分の権威の不安定さについて常に気に掛けており、公正な手段もしくは不公正な手段の両方によって自分の一族と自分の輝きの長久を確かなものにしようと努めていた。この不安感が31世紀の最後の10年間を占めた熾烈な一族の内部抗争に於ける彼の父親のジェローム・サンドヴァルによる従兄弟のタンクレッドからの公爵位の簒奪に由来するものであるのは、まず間違いない。コーウィンはハリソン・ダヴィオン国王が彼自身よりもドラコ境界域の統治権に対する分の良い権利主張をできる事を常に強く認識しており、ハリソンが何時の日かその権利を取り戻す事を決意するのではないかという恐怖から自分の力を増強する為に多数の計略を実行した。国王に関して言えば、国王はかような事を実行する気は全くない様に見えるものであった。しかし、コーウィンは自らの警戒を決して緩める事はなかったのであった。
 コーウィンと彼の妹のウッドバイン女公ヴィクトリアは一族の多数のメンバーを用いて自分達の影響力をレイヴン同盟からスフィア共和国――それらの地には“聖戦”後間もなくして移住した分家が存在しており彼等は“ロビンソン”との密接な結び付きを尚も維持していた――にまで広めた。彼の恐らく最も野心的な――そして同時に最も非効果的でもあった――計略は、ドラコニス・リーチ(ドラコ境界域軍(それと幾らかの傭兵部隊)と彼等の永遠の宿敵であるドラコ連合との間で絶える事のない戦争が行われる10個の星々がある主権の定まらない中間地帯)での戦闘の継続である。この活動は実際には彼の父親が開始したものであり、“ニューアヴァロン”からの繰り返しの停止の要求があったにも拘わらず、コーウィンによって継続された。そして、その50年以上にも渡る戦闘に於いては、非常に僅少な成果しか挙げらず、かの公爵の野心を満たす為に数万人の男女が死亡したり重い傷を負ったりしたのである。
 3140年代、事態は絶頂に達した――最初に、ウルフ竜機兵団がドラコ連合軍を率いてドラコニス・リーチを制圧し、次にドラコ連合が恒星連邦本土に侵攻したのである。コーウィンは自分の境界域の防衛を指揮したが、打ち克つ事はできず、侵攻の第1波の最後に於ける惑星“ロビンソン”での戦闘にて戦死した。そして、その公爵位は、“ニューアヴァロン”の忠実かつ信頼に足る僕の様に見えたエリック・サンドヴァルに渡ったのであった。


ライラ共和国 (Lyran Commonwealth)

トリリアン・シュタイナー
称号/地位: ライラ共和国国家主席
生誕年: 3108年(37歳、3145年時)


 トリリアン・シュタイナーは、ライラの国家主席になるとは決して思っておらず国家主席になりたいとも決して思っていなかった。ピーター・シュタイナー=ダヴィオンの孫娘として、彼女は継承ラインからは外れて生まれ、従姉のメリッサと共にアンドリュー・シュタイナーの家庭で育った。幼い時からこの2人の少女は強い絆を作り上げていき、従兄弟のロデリックの父親がロデリックを惑星“ターカッド”で生活させるべくそこに行かせた後にはロデリックともそれを分かち合った。トリリアンの両親は彼女がまだ幼かった時に死亡していたが、彼等はメリッサの両親とは異なりデヴリン・ストーンと彼の共和国に対して肯定的な態度を常に保ち続けており、アンドリューが自分の娘に伝えた(スフィア共和国への)不信によってトリリアンが感化される事はなかった。
 このスフィア共和国に関する意見の相違は、トリリアンとメリッサが一致を見せない数少ない問題であった。それでも、メリッサが国家主席になるや否や、彼女は自分の従姉の主席外交官かつトラブルシューターとしての重要な地位を占めた。この立場で、彼女はライラ共和国を端から端へと渡り歩き、紛争の火種を消したり過敏な貴族達を慰撫したりした。HPGの崩壊後には、そのブラックアウトが全ての者達の苛立ちを深めさせたが故に、この様な外交旅行は増加していった。
 3つの出来事により、トリリアンの運勢は昇っていった。3134年、彼女はジェイドファルコンの侵攻に対してスフィア共和国領の攻囲された惑星“スカイア”をライラ共和国軍が助勢する交渉を纏めた。その2年後、彼女はウルフ・イン・エグザイルに対してメリッサ国家主席の提案――ライラ共和国の為に(非エグザイルの)ウルフ氏族の助力を得る手伝いをしてほしいとの提案――を伝えた。それから間もなくして、彼女は“ハンマーフォール作戦”に同行し、タマリンド=アビー公国の降伏交渉を纏めた。
 決して国家主席に対して公然と異を唱えはしなかったのであるが、トリリアンがウルフ氏族の行動について疑いを抱いているのを私的に表出しているのは良く知られていた事であった。しかし、(ウルフ氏族との)協定が反故にされた時でも、彼女は最後の最後まで自分の従姉の側に立ち続けた。メリッサはその自らの死の前に、トリリアンに国家主席として自分の後を継いで欲しいとの希望を明確に表していた。そして、かの若き女性は気が進まないながらもその言葉に従った。それ以降の2年間で、彼女はライラ共和国を救いたいというその自らの深い願いを実地証明している――たとえ、それが全体を救う為に個々を切り捨てるのを意味していたとしても顧みずに。この事は、将軍達と貴族達のどちらにもトリリアンの受けを悪くさせているが、トリリアンは自分の行動を歴史の審判に委ねるのも厭わない事を明らかにしているものである。

メリッサ・シュタイナー
称号/地位: ライラ共和国国家主席
生誕年: 3099年(44歳、3143年時:死亡)


 サマーセット・シュタイナー家系出身の3人目の国家主席であるメリッサは、自分の父親のアンドリューの時ならぬ死――ターカッド・シティーのリベレーション・ストリートフェアにて食中毒に遭った事による――の際に玉座を継承した。その当時若干28歳であり、以前から国事よりも複雑である商業の方により強い興味を示していたこの若い女性は、自らが適切な備えをしていなかった世界に飛び込まされる羽目になった。彼女は当初は父親の側近達に取り囲まれていたが、次第に自分独自の人員達へ重きを置く様になっていった。彼女の治世の後期に於けるアドバイザー達の中の筆頭が従妹のトリリアンであり、彼女は国家主席の為に全般に渡るトラブルシューター/外交官としての職務を果たした。
 HPG網が崩壊し、突然に自らの国家の広範囲に渡る地域との通信が困難になった時、メリッサは政権の座に就いたばかりであった。(通信)崩壊後の混乱を利用するべきか、それとも自分の国家をスフィア共和国の様に分解させない為にも集中をさせられる何かの目標を与えるべきか、その狭間にて、メリッサは元・自由世界同盟の国家群に対する侵攻計画を練り始めた。この事自体には、大きな問題はなかったものと思われる。しかし、ウルフ氏族と手を組んだ事、彼等を注意深く御しはしなかった事――その2つの過誤を犯した為に、彼女は自らの国家に破滅を招いたのであった。
 この国家主席の軍事経験の不足は、立ち上る混乱の波を止めるべく取ったその行動の全てにて現れるものであった。3141年、LCAFは初めてキングメイカーとしての行動を起こし、無力であったメリッサを権力の座から引き摺り下ろした。しかしながら、彼等が推した代わりの人物は無能であり、2年後、ウルフとジェイドファルコンが惑星“ターカッド”の目前に迫った事により、彼女は玉座に復帰ができた。
 最終的に、メリッサ・シュタイナーは自らの人民達の為にその命を捧げた――ウルフの強襲に直面した首都からトリリアンとその他のライラの首脳部が逃げる時間を与える為に、彼女は自らをなげうったのである。彼女はウルフのエレメンタルに対して無意味な公然たる抵抗の態度を示した為に死亡する事となったが、彼女のその最期に示した勇敢さは彼女を殺したかの氏族の間に彼女に対する尊敬の念を生じさせた。

ロデリック・シュタイナー
称号/地位: 元帥
生誕年: 3115年(30歳、3145年時)


 その両親に恥じない行動をするという重圧は大王家の一族の各世代ごとに特有のものであり、その個々の人物のそれへの取り組み方も異なっているものである。フレデリック・シュタイナー――アダム・シュタイナーとその妻のヘザー・フィーネの次男――の場合、その選択は姓の放棄に関わるものであり自分の実力で世を渡っていくというものであった。フレデリック・フロストはLCAFにて称賛に値する経歴を享受し、自分の息子のロデリックにその強固な自己意識と自主の気風を伝えた。
 フレデリックが自らの一族に頼った唯一の領域は、その唯一の子供の養育に関してのものである。3136年のその母親の事故死と父親の頻繁な作戦配置により、ロデリックは幼少時代の大部分の時間を惑星“ターカッド”にて過ごし、そこにて彼は従姉妹のメリッサやトリリアンと強い絆を育んだ。アダム国家主席――彼は自分の息子のフレデリックと良く通じ合う様な事は決してなかった――は、この孫息子とは特別な絆を分かち合った。3121年のアダムの死に対する若きロデリックの悲嘆の念は、彼に自分の父親の足跡を辿るのを決断させ、彼が成年に達した時もシュタイナーの姓を名乗らなかった一因となった。
 3135年にブエナ軍大学校を卒業した後、ロデリックはライラ特戦隊に大尉として配属され、そこにてジェイドファルコンとの不幸な事件に巻き込まれて危うくその経歴を終えかけた。彼はトリリアンによって失墜から救われた――トリリアンは彼を“ハンマーフォール作戦”に於ける重要な役割に抜擢しただけでなく、“タマリンド”の攻略を指揮させるべく彼にその真の出自を明かす事を納得させた。彼は後に階級を上昇させ、ウルフ氏族との戦闘の際にはより大きな権限を負った。
 トリリアンが玉座を継承した以降も、ロデリックは彼女の強固な盟友の1人のままでいる。その返礼として、彼女は彼を元帥(軍最高司令官)に任命し、事実上、ライラ共和国に群がってくる勢力からライラ共和国を救う活動に於ける自分の右腕の人物へとした。彼のその証明されている戦場での技能は新・国家主席が将軍達から受けている批判の多くを鎮める事に役立っており、3145年の“ヘスペラス”の初期の放棄後の彼等の反逆的な動揺を素早く終わらせるのにも彼は寄与している。

パトリック・フェトラドラル
称号/地位: (エグザイル)ウルフ氏族族長
生誕年: 3094年(51歳、3145年時)


 その自らの氏族の族長にまで昇り詰めるエレメンタルは、稀である。しかも、パトリック・フェトラドラルは戦場に於ける武勇のみならず、リーダーシップの才能――彼が20年以上に渡りウルフ・イン・エグザイルを率いてきている中でそれは非常に彼に役立っている――も示しているのであった。惑星“カンデルシュテーク”の包領にて生まれたパトリックは、他者より抜きん出るべく、そして、自分のブラッドハウスの高名な一員であるエヴァンサ・フェトラドラルによって打ち立てられた模範に恥じない行動をするべく、努力をした。エヴァンサの直接の子孫という訳ではなかったが、パトリックは“聖戦”とエグザイルが戦った他の戦闘に於ける彼女の偉業に感銘を受けていたのである。彼は地位の神判を2機撃墜で通過し、僅か7年でスターコマンダーからギャラクシーコマンダーへ昇格した。3119年に自らのブラッドネームを獲得した後、パトリック・フェトラドラルはジョシップ・ライド族長の副官となり、後には副族長として彼とその氏族のリーダーシップを分かち合った。そして、3125年のライド族長の死後、フェトラドラルは最高位に就いた。
 フェトラドラル族長の指導の下、ウルフ・イン・エグザイルは繁栄した。彼等は惑星“アークロイヤル”の自分達の首都からジェイドファルコンの冒険主義を不変に阻止し、国境を守り抜いた。その“ターカッド”との関係は、信頼と共同統治で以て維持された。3136年後期、フェトラドラル族長はトリリアン・シュタイナーのホストを務め、国家主席の提案に対応してライラとウルフ氏族の間の交渉を仲介した。用心しながらであるが、フェトラドラルは自分のカウンターパートであるセス・ワードと交渉し、逆提案――元・自由世界同盟侵攻に備える為のウルフ氏族の(現占領地域からの)退去とライラ共和国リムワード宙域への移転実施と思える提案――を携えて戻った。“ハンマーフォール作戦”の最中、フェトラドラルと彼のエグザイル達は両陣営との協力を続けたが、ウルフ氏族が矛先を変えてライラに襲い掛かった時には、自らの立ち位置を明確にした。しかしながら、一度ジェイドファルコンが国境にジャンプして来るや否や、彼等はジェイドファルコンに対してより多くの懸念を払わざるを得なくなったのであった。パトリック・フェトラドラルは自軍を率いてジェイドファルコンの侵攻に立ち向かっているが、ジェイドファルコンのタウマンの獰猛な“モンゴル”達に対して彼等は非常に劣勢である。

ガレス・ディネセン
称号/地位: メリッシア管区侯爵
生誕年: 3093年(52歳、3145年時)


 ディネセン一族は、26世紀に享受していたその絶頂からは遥かに失墜した状態のままでいる。そのコヴェントリー公爵としての領地と称号を剥奪されて以来、彼等は政治的になり、“ターカッド”に反対する野党ともなり、その両方に於いて活動的である。ディネセン一族は28世紀に称号を取り戻し、31世紀中期に領地惑星を取り戻しているが、彼等はライラ共和国の国事の場から大きく外れたままである。
 ガレス・ディネセンは、チャプルテペック伯爵――ここ300年間に渡りチャプルテペックは彼の一族の世襲領地である――である。ガレスは自分の祖父のオーラフの事を全く憶えてはいないが、彼はかの先達の生き方を模範とし、LCAFにて高位に昇り詰め、その後、メリッシア管区の侯爵に任じられる事によってオーラフの業績を凌いだ。しかしながら、もし、かの故・国家主席メリッサが、それへの感謝の念からディネセンが彼女により密接に結び付くであろう、と考えていたとするのならば、彼女は(彼女の統治に於ける多くのその他の面と同様に)悲惨な思い違いをしていた事になるものである。
 ディネセンこそが、3141年にメリッサを玉座から引き摺り下ろしたクーデターの中心煽動者なのであった――しかしながら、他の共謀者達と同じく、彼は程無くして彼女の代わりとして選んだ男に対して苦虫を噛み潰す様な思いを抱くようになった。自分達の誤りを不承不承認め、それから2年後、ディネセンはメリッサの権力の座への復帰を支援した。そして、それから間もなくしての彼女の死亡により、LCAFのトップの指揮官達は、国家への幾つかの軍事的脅威に立ち向かう為には自分達の中の1人がライラ共和国の統治者の地位を引き受けるのが良い事である、と考えた。しかし、従姉妹のトリリアンに跡を継いで欲しいとのメリッサの願いは、民部会によって承認されてしまったのであった。
 惑星“ヘスペラス”にて戦闘中の氏族部隊に対するライラの強襲の準備段階に於いて、ディネセンとティンブクトゥ管区侯爵ディエゴ・ウィドマーは、トリリアンのその計画への反対の旗頭を務めた。この小さな反抗は不成功に終わったのであるが、ディネセンは自分が見て取った所の新・国家主席のその地位への不適格性に対する関心喚起を継続している。


傭兵 (Mercenaries)

トーマス・ブルベイカー
称号/地位: ウルフ竜機兵団司令官
生誕年: 3093年(52歳、3145年時)


 過去100年間に渡り、ウルフ竜機兵団のシブコはかなりの数の目覚ましい戦士達を生み出してきている。そして、その内の幾人かは多少は優れている程度の戦士に過ぎない人物であったが、それらの者達は他の面に於いてはより優れたものを持ってもいた。トーマス・ブルベイカーは、その後者のカテゴリーに属する人物である。彼はウルフ竜機兵団の訓練プログラムをその年齢集団の中のトップで修了しており、また彼の戦場での指揮能力は敬服するものではあったのであるが、それらは常に彼の政治と管理運営に関する天賦の才能を前には翳んでしまうのであった。
 現役のウルフ竜機兵団団員としてのその最初の活動に於いて、22歳であったトーマスはタマリンド=アビー公国との国境で戦闘を経験し、その勇敢さと技量により数枚の感状を得た。惑星“ドラクール”のヘロン・ヒルに於けるトーマスの突撃はシエナ・キャメロン司令官の目に留まり、彼が23歳でブルベイカーのオナーネームを獲得した後、シエナ・キャメロン司令官は彼をブラックキャッツ大隊へ異動させた。
 ブルベイカーがブラックキャッツの指揮権を与えられた3125年の時には、ウルフ竜機兵団団内での“スパーズ(Spurs)”の運動は頂点に達していた。彼は完全に彼等の側に立っていた訳ではなかったが、彼等の主張の中にある真理を認めてはおり、ウルフ竜機兵団の未来はその方向にあるとわかっていた。そしてこの時に、この若き少佐は“スパー”方針の最大の擁護者となったのである。3137年のキャメロンの退役の際に彼がウルフ竜機兵団の司令官として選抜される上では、彼等の支持がその大きな要因となった。
 指揮権を得ると即座に、ブルベイカーはウルフ竜機兵団の契約の再交渉をし、程無くして、ライラ共和国を離れる時は今である、と考えるに至った。そして、この名高い傭兵部隊の中でのその彼の指導力は彼等を1世紀の時を経て初めて全軍でドラコ連合に再び連れ戻す事となり、団内の幾人かの間ではこの予想し得なかった変化に対しての不満が漏らされた。しかし、それ以降のウルフ竜機兵団の成功、特に恒星連邦国境にて経験した戦闘の量は、極少数存在する彼の批判者達を沈黙させているものである。

エヴァン・ケル
称号/地位: ケル・ハウンド大佐
生誕年: 3083年(59歳、3142年時:死亡)


 かの高名なケル一族は、多数存在する貴族の名家の1つというだけでなく中心領域で最も尊敬されかつ称賛されている傭兵部隊の1つの後援者でもあるという特別な地位をライラ共和国にて長年に渡り保持している。モーガン・ケルによって始められて以来、この一族の有力なメンバー達は自分達の故郷の惑星“アークロイヤル”の統治者とケル・ハウンドの指揮官という2重の役目を保持し続けているのである。モーガンの娘のケイトリンから双子の息子(エヴァンとマーティン)が生まれた事は、この伝統をその1世代で2つに分ける機会をもたらし、それによりエヴァンが軍の経歴を追求し、マーティンが政治の道を追う事となった。
 ナーゲルリンクの卒業後、エヴァンは一族の歴史や名声から距離を置いて自分を確立する為に正規軍を選び、LCAFでの軍務に就いた。彼はジェイドファルコンの襲撃に対する多数の防衛戦闘を戦い、ケル・ハウンドの指揮官の地位を引き受ける為に31歳でライラ軍から退役をするまでは、ライラによる元・自由世界同盟の幾つかの星系の征服に従軍した。ケル・ハウンドにて、彼は再びその名を揚げ、マリア・アラード大佐に次ぐ第2の地位にまで素早く昇格していった。そして8年後、惑星“イェグアス”でのジェイドファルコンとの戦闘の最中にかの大佐が戦死した後には、エヴァンがケル・ハウンド指揮官という一族の地位を引き受けた。
 先の数十年間そうであった様に、エヴァンの指揮の下のケル・ハウンドの任務はジェイドファルコンの攻撃から国境を守る事を主としていた。この時期(惑星“アリーナ”への長距離浸透襲撃――この最中にエヴァンは負傷して右眼を失った――を含む)に於いては、ケル・ハウンドはウルフ竜機兵団と密接に協力した。
 エヴァン・ケルは決して結婚をせず、自分の後に(男女両方の)傷心者の群れを残す放蕩者という名声を博した。3142年のジェイドファルコンの侵攻の最中に彼が戦死した時には、かのケルは7件の父親認知訴訟の対象にされていた。そして、その指名後継者が全く存在しなかった事により、残存するケル・ハウンドの少数の生き残り達の指揮権は彼の姪のカランドレイの手に移る事となった。

カランドレイ・ケル
称号/地位: ケル・ハウンド大佐
生誕年: 3106年(39歳、3145年時)


 カランドレイ・ケルは、その人生の大半を自分に期待されるものと正反対の事を行う事で過ごしてきている。マーティン・ケル大公爵の娘かつケル・ハウンド指揮官の姪として誕生したカランドレイは、自分の直系一族の名声だけでなく更により高名である先祖のモーガン・ケルの名声にも恥じない行動をせざるを得なかった。バトルメックの操縦ではなく装甲車輌を専門にするというその決断から3129年のナーゲルリンクからの退学処分にまで渡る、その彼女の行動の全ては、時折、自分の一族に最大限の苛立ちを発生させる為に計算されたものであるかの様に見えるものである。そして、(ガラポートでの途轍もない酔っぱらった馬鹿騒ぎの結果としての)傭兵部隊カークパトリック・インベーダーズのキース・ランジェンハース大尉との短期に終わった激情に満ちた結婚も彼女の一族を更に酷く腹立たせるだけのものになり、彼女に“カラミティ”という常に親愛に満ちているものではないニックネームをもたらす一因となったのである。
 しかしながら、近年、カランドレイは一連の破滅的な出来事に襲われたが故に、彼女は成熟せざるを得なかった。ジェイドファルコン氏族に対して惑星“ターカッド”を失いかけた事は如何なるケル一族にとっても打撃であったであろうが、ケル・ハウンドのほぼ完全壊滅こそが彼女をその狂気の瀬戸際に追い詰めたものである。ケル・ハウンドの生き残り達の中核を集め、自分の友人や一族達からのケル・ハウンドの戦力再建まで時を待てとの助言を無視し、彼女は向こう見ずなジェイドファルコン占領地域との新たな国境線沿いでの戦闘に突入した。ここで新・国家主席からの要請にも拘わらず、ジュリアン・ダヴィオンは自分の近衛隊から離れてその復讐の追求の旅に赴くカランドレイに同行した。しかし、恒星連邦に於ける事態進展は、3144年10月に彼女の側から離れさせる事を彼に強いた。全ての報告に於いて、かの2人の友人達の別離は友好的なものであり、カランドレイは自分達の両方に機会があった場合の彼との再開を約束した、とされているものである。
 非常に多くのジェイドファルコンの部隊が“ヘスペラス”攻撃の為に配置換えをされて以来、カランドレイのケル・ハウンドはより大きな成功を享受し続けている。しかしながら、この事が彼女の激しい心の中の傷と怒りを和らげる事になるとは思えないものである。

ドラガン・フレッチャー
称号/地位: ウルフハンターズ・アルファ
生誕年: 3104年(41歳、3145年時)


 “聖戦”に於いてヘルズホース氏族はデヴリン・ストーンの連合軍と共に戦い、スフィア共和国の建国の際にはその初期に幾らかの兵士達を贈ってさえもいる。そのヘルズホース氏族の唯一の包領は惑星“ルクバー”の北方草原に位置しており、それはRAFで最も尊重される歩兵の幾人かの生まれ故郷であった。しかしながら、ドラガン・フレッチャーはこの包領の出身ではなく、しかもその上、スチール・ウルヴズの軍務には相当な回り道を経て就いているのである。
 惑星“ハーヴェスト”の1つのシブコに生まれたドラガンは地位の神判を3機撃墜で通過し、スターキャプテンの階級を獲得した。彼は22歳の時にブラッドネームを勝ち取り、その氏族の中で重要な役目にまで昇り詰める目前にあると見なされた。しかしその時、彼の経歴は狂い始めた。3127年、惑星“ズーテルメール”のウルフ氏族の補給物資集積所の1つへの襲撃に於いて、ドラガンはボンズマンにされた。その2年後、惑星“バリーニュル”にてベータ銀河隊の一員として彼は戦い、今度はエグザイル・ウルフ氏族によって再び捕虜にされた。ドラガンの技量は再び彼にそこのタウマン内での地位を彼にもたらし、続いての4年間、彼は自分のボンドホルダーであった者――最近になりブラッドネームを得たアナスタシア・ケレンスキー――の下でエグザイル・ウルフ氏族として戦った。ケレンスキーが姿を消し、後にスフィア共和国に姿を現した時には、フレッチャーはフェトラドラル族長によって彼女の意図を確かめるべく派遣された1個星隊の一員であった。そして、ケレンスキーがカル・ラディックからスチール・ウルヴズを奪った正に直後にそこに到着したフレッッチャーは、自分の元・指揮官の傘下に熱望を持って加わった。
 フレッチャーは、その続いての数年間に渡るスチール・ウルヴズの様々な浮沈の全般を通じて忠実な追随者であった。自分の戦友達の多くとは異なり、彼はウルフハンターズの結成を支持した。そして、ライラ人達による彼等の雇用は、彼に自分の元・所属氏族の全てと戦ったり協力したりする機会を彼に与えた。(その後)ウルフ氏族によりケレンスキーが捕らえられた事はウルフハンターズの内部にそのリーダーシップを巡っての闘争を発生させ、そして、フレッチャーがそのトップとして立った。彼がその忠誠を確約しているにも拘わらず、LCAF内の多くの者達は長期的に見ての彼の忠誠に対しては疑いを抱いている。


BACK