エンドースチール

 

 

ガウスライフル

 

 

LB 10−Xオートキャノン

 LB 10−Xオートキャノン(AC)。この兵器の些か奇妙なその名称が何に由来するものであるかについては諸説あるが、現在では、それは“Class-ten Light Barrel, Extended Range Automatic Cannon”の略称である、という主張が定説となっている。
 26世紀、星間連盟はオートキャノンの事を発展の余地が少なく技術的な限界が来ている将来性のない兵器と見なしていた。しかしながら、“再統合戦争”の過酷な戦場の現実からオートキャノンの持つダメージ能力と高い信頼性/汎用性は再評価される事となり、“クロアタン”計画の名の下に新型オートキャノン技術の開発は再開された。これにより誕生したのが、“LB 10−Xオートキャノン”である。
 その滑腔砲身への新型の軽量放熱合金と多重装填機構の採用により、LB 10−Xオートキャノンでは最大射程距離を伸ばしつつその本体重量と射撃時の発熱量の削減に成功していた。また、専用のクラスター弾を開発した事により、それは対空戦闘や対歩兵戦闘でも従来型のオートキャノンを凌ぐ性能を発揮するに至っていた。それらの新機軸の採用の代償としてその本体価格と運用コストは増加したが、その利点は欠点を上回っているものであるとして用兵側は熱烈にLB 10−Xオートキャノンの出現を歓迎した。そして、2680年には、星間連盟構成国の全てがLB 10−Xオートキャノンを製造する様になっていたのであった。
 LB 10−Xオートキャノンの完成度が余りにも高かった為に開発の必要が認められず、星間連盟末期に至るまで他の口径のLB−Xオートキャノンの開発が進展する事はなかった。星間連盟崩壊後、中心領域に於いては2840年にLB 10−Xオートキャノンの製造能力は失われた。それから中心領域にLB 10−Xオートキャノンが復活するのは、3035年の事となる。

 

3脚メック

 2602年、第1次星間連盟の最初にして最後とも言える3脚メックが開発された。当時、星間連盟防衛軍は、索敵能力、情報通信能力、機動力、耐久力に優れた指揮メックを欲していた。そして技術陣は、この要求に極めてユニークなデザインで応えたのである……3脚メックというデザインで。
 運用テストの結果、この機体は優れている事が判明した。通常のメックとは違い胴体に抱え込むように配置されたコクピットは生存性に非常に優れており、搭載された電子機器の能力も申し分なかった。また、意外な事に格闘能力も優れていた。その特異な3脚メック構造からもたらされる運動性や「第三の脚」によるキックは、通常型メックのパイロットにとっては今までに経験した事がないものであるが故に対処が容易ではなかったのである(それは実戦テストにて、対戦相手のアーチャーの頭をキックで叩き潰して撃墜するという戦果を挙げている) この機体は、随所から突き出たその多数のアンテナがハリネズミを連想させたことから、愛称は“ヘッジホッグ”と決められた。
 ヘッジホッグの運用実績は良好であり、星間連盟軍以外の国家も本機の導入を望んだ程である。しかし、独特の構造からもたらされる操縦性の悪さやコストと兵站面での負担から大量配備はされず、その後の研究開発も立ち消えになっていっき歴史の中に埋もれていった。
 3025年では、稼動状態にあるヘッジホッグは存在しておらず、戦場での伝説となっている。そして、3脚メックが再び戦場に立つ姿を見るのには、32世紀半ばまで待たなければならなかったのであった(しかしながら、インダストリアルメックの3脚メック・デザインは一部が生き残り、民生面で細々と活躍が続けられはしていた)

 

大口径パルスレーザー

 星間連盟のパルスレーザー開発プロジェクトはERレーザー開発プロジェクトと同時期に並行して推進されたものであるが、その努力が結実するのはERレーザー・プロジェクトよりも遥かに早いものであった。“火星”での研究開発により、高性能のキャパシターを複数配列し、それらから極短時間で少量のエネルギーを順番に取り出すという方式により、マシンガン並の速度でレーザーを連続発振する事が可能となった。そして、これにより完成した“パルスレーザー”は通常型のレーザーよりも長い発射時間を有しており、その射撃手に掃射射撃を可能とさせると同時に高い命中精度と高いダメージを実現したのである。
 パルスレーザーは通常型レーザーよりもダメージ能力が高くERレーザーよりも発熱が低かったが、短時間で多数のレーザーが発振される事によるサーマルディストーション問題等々の影響を解決できずに射程が短くなっていた。その為、パルスレーザーは、主として高速のユニットに搭載されて使用された。また、パルスレーザー自体の改良や大口径以外の口径のパルスレーザーの開発は、その必要性が疑問視されたのと予算問題や技術的困難さから長年に渡り停滞し、星間連盟末期にようやく進展が見られるのみに留まった(それらの最終的な研究成果は、ケレンスキー将軍の“エクソダス”と共に中心領域から離れる事となった) その製造に高度な技術が必要であった事からパルスレーザーの製造企業は少数に限定されており、継承権戦争でそれらが破壊されていった事から、2950年には中心領域に於けるパルスレーザーの製造は完全な停止に追い込まれた。中心領域でパルスレーザーが復活するのは、かなり後の3030年代になってからの事となる。

 

ER大口径レーザー

 ER(射程延長型)レーザーの開発は、従来型レーザーの射程を延長するべく開始されたものである。レーザーの有効射程を減少させる大気中の微粒子や熱光学効果への対策として、技術者達は複数のレーザーをナノ秒単位でタイミングをずらして発振する事を考え出した。それは、最初に照準用の低出力のパルスレーザー、次に射線上の微粒子等々を焼き払うレーザー、最後に本命の高出力のレーザーを発振する、という方式のものであった。そして、この方式は成功を収め、完成したER大口径レーザーの射程は通常型と比較して約3割向上していた。しかしながら、その代償として射撃に必要なエネルギーや発熱は増大して価格も上昇しており、決して手放しで誉められる兵器ではなかった。
 星間連盟防衛軍は大口径以外のERレーザーの必要性を認めなかった事から、中口径や小口径のERレーザーは星間連盟の末期になるまで開発が進展しなかった。氏族の手により、中口径や小口径のERレーザーは完成をみたのであった。中心領域に於いては2950年にER大口径レーザーの製造能力が失われ、3030年代になるまで復活する事はなかった。

 

ウルトラAC/5

 LB 10−Xオートキャノンの完成後も星間連盟の新型オートキャノンに関する研究開発は継続された。無重力工場により精錬された超軽量アルミニウム合金や発泡チタンを使用する事により、その新型オートキャノン用の弾薬は軽量化が成功し高い初速と射程を保有した。また、その薬莢自体に鉄ベースの磁性金属を使用し、それと磁力式装填機構を組み合わせる事により、新型は通常のオートキャノンの数倍の装填/発射速度を得るに至ってもいた。この星間連盟による“ウルトラ”オートキャノン(略称UAC)開発プロジェクトは2640年に完了し、SLDFのバトルメック群は順次それを装備していった。
 しかしながら、配備から程無くして、ウルトラ・オートキャノンの欠点は明るみになる事となった。それは高レートの射撃速度で射撃をした場合、装弾機構が熱膨張により低確率とはいえ装弾不良を起こしたのである。戦場での不慮の戦力低下要因を嫌う慎重派のメック戦士達はこの装弾不良を問題としてウルトラAC/5の使用を敬遠した為に、ウルトラAC/5は決して通常型のACに取って代わる事はなかった(通常型AC用の特殊弾薬が改修を加えない限りは磁力式装填機構に非対応な為に使用不可能という事実もその敬遠に拍車を掛けた) また、この結果に些かの失望を覚えたSLDFもウルトラAC/5の技術独占に余り熱意を抱かなかった所為で、他の星間連盟構成国にも比較的早い段階からその技術は流出していき彼等の間でも配備がされていった。そして、ウルトラAC/5の期待程ではなかったその運用実績はクラス5以外のクラスの開発がされるのを妨げ、星間連盟末期まで他のクラスの開発は大きな進展を見せなかった。
 星間連盟崩壊後、2915年にウルトラAC/5は中心領域からその姿を消した。ウルトラAC/5が中心領域に於いて復活するのは、3035年の事であった。

 

パワー・コンバット・アーマー

 星間連盟は複数のタイプのパワー・コンバット・アーマー(PCA)――後に‘バトルアーマー’と呼称されるものの元祖――を開発し、偵察任務、鈍重なメックの直協任務に従事する機械化歩兵用の機材として使用した。
 しかしながら、星間連盟の崩壊はPCAを歴史の奥底に埋没させる事となった。高度な電子・精密工作技術が必要なPCAは、高度産業が崩壊した中心領域には荷が重すぎたのである。加えて、星間連盟の盟主である地球帝国はPCAの存在や機密を他の加盟国に明かさなかったのもそれに更なる拍車を掛ける要因となった。
 人々は、PCAの存在を忘却していった……。コンバット・アーマーが歴史に再び登場するのは、実に3050年――氏族の侵攻が開始されるまでを待たねばならなかった。そしてその時、中心領域のメック戦士達は、氏族の使用するバトルアーマー部隊に大いに苦しめられる事となったのである。

 3050年代に星間連盟製のパワー・コンバット・アーマーは再び日の目を見た。――高名なる傭兵部隊、グレイ・デス軍団が、自由ラサルハグ共和国領惑星“カルバラ”の星間連盟貯蔵施設より多数のPCAを発掘したのである。
 発掘されたPCA――“Mk XXI ナイトホーク”は、軍団の技術者の手により2つの種類に改造され、戦闘用・偵察用機材として大いに活用された。後に、アレックス・カーライルの窮地を救ったのも、このPCAであった。思えば、中心領域で最初にバトルアーマー(NAIS製のもの)を使用したのもグレイ・デス軍団である。グレイ・デス軍団とPCAの関係は真に数奇なものと言えよう……。

 

4脚メック

 “4脚メック”は、星間連盟末期に提唱された新メック・デザインの1つであり、Dr.ハリソンが中心となったチームにて開発が進められたものである。
 彼等は、4脚構造がもたらす安定性・機動力が、火器のプラットフォームとして極めて有効だと確信していた。だが、星間連盟防衛軍は彼等の熱意は認めたものの、メックを制式に採用する事には躊躇した。
 (試作4脚メックであるクサントスにて失敗した経験を生かして作られた)最初の実戦型4脚メック――スコーピオンは、底部が脆いとの構造的な弱点から支援・歩兵直協能力は優れていたものの主力として使うには不安があった。続くメック――ゴリアテは、鈍重さが疑問視され、特殊メック――ライノは、その性質上、表舞台に上がることはあり得なかった。結果、発注は少数に留まったのである。しかしながら、辺境での戦闘で納入されたゴリアテは素晴らしい活躍をしてみせた。
 この事実は、ハリソン博士にとって追い風となった。追加予算は認められ、彼の最高傑作――“キメラ”は、完成の運びとなったのである。キメラは、スコーピオンの機動力、ゴリアテを凌ぐ遠距離火力、ライノ譲りの頑強さを併せ持つ、正に最強の4脚メックであり、ハリソンの夢の結実したものであった。
 しかしながら、星間連盟は崩壊。そして、続く継承権戦争の勃発は彼のメック達に不利に働いた。製造工場の破壊は、ゴリアテの生産を少数に留まらせ、キメラに至っては数十機程しか生産がされなかったのである。
 そして、4脚メックは時代の闇に埋もれていった……これ以後、3040年代になるまで、4脚メックの新規開発は殆ど停止状態であった。

 

バイナリーレーザーキャノン

 バイナリーレーザーキャノン(ブレイザーキャノンとも呼称されている)は、歩兵用携帯火器のブレイザーのコンセプトをそのまま拡大して大型兵器に適用しようとした事から誕生した兵器である。最初にライラ共和国、後に自由世界同盟にて行われたその開発研究は一定の成果を収め、それの試作品は比較的短期間で完成した。しかし、試作品の試験結果は、寄せられていた期待には程遠いものであった。それは射撃時に通常の大口径レーザーの2倍の熱を発したのであるが、与えられるダメージは大口径レーザー2発分よりも劣っていた。また、共用部分を活かしつつ2基の大口径レーザーを合体させた事により生じると思われていた重量軽減効果も僅かであった。最後に、その製造コストは全く下がらず、単純に大口径レーザー2基分となっていたのである。これに両国家の兵站/調達担当の部局は良い顔をせず、バイナリーレーザーキャノンはその当時は制式兵器としては不採用となった。それでも、この兵器の持つPPCを凌駕する威力自体は評価できるものであり、熱狂的な信奉者を生むに至っていた。結果、バイナリーレーザーキャノンは存在が完全に忘れ去られる事はなく、思い出されるかの様に試作や研究が行われては中止されるというのが数十年周期で繰り返された(例えば、ライラでは2900年代にゼウス、自由世界同盟では3000年代にマローダーにバイナリーレーザーキャノンが搭載されてテストされた)
 3067年、ワード・オブ・ブレイクの“聖戦”の勃発により、バイナリーレーザーキャノンに対する風向きは変わった。あらゆる兵器が各方面で不足した事から戦争に役立ちそうなものは何であっても投入が正当化されるようになり、そのどさくさでバイナリーレーザーキャノンは誰にも止められずに製造/運用がされたのである。そして3077年にはバイナリーレーザーキャノンは制式化され、その後もニッチ兵器として使われていく事となるのであった。

 

ミネソタ・トライブ

 2825年、ドラコ連合の辺境に位置する星系“スベルヴィク”に突如、艦隊が出現した。彼等は現地駐屯軍に攻撃を開始、撃破した後、多数の補給物資を奪った。彼等の装備は極めて良好であり、練度も高く、正規軍に匹敵する戦術能力を持っていた。
 また、彼等は全ての交信を拒否。その上、戦闘で擱座したメックや、重傷を負って戦場に取り残されたメック戦士を自らの手で処分、捕虜・証拠を一切残さないようにしていた。
 彼等の正体は?……目撃情報によると、メックには「北米大陸・ミネソタ州を象ったもの」のマーキングがされていたとの事。ドラコ連合上層部は、恐怖した。情報の通りならば、彼等はSLDF第331近衛バトルメック師団“ミネソタ・トライブ”である。星間連盟防衛軍が帰ってきたというのか? 彼等は帰還して来たSLDFの先遣部隊なのか?
 ……しかし、彼等の後続部隊は現れず、第331師団自体も連合の星系を3つ攻撃して資材を強奪したのみであった。彼等は、最後に星系“リッチモンド”を攻撃、刑事施設に隔離されていた数千人の政治犯を解放・収容した後、辺境に離脱、追跡を振り切り深宇宙に消えていった。
 それ以来、彼等の消息はしれない。連合の上層部は、この事に安堵した。あの程度の戦力なら対処は可能である。星間連盟軍は銀河のどこかで遭難し、あれが最後の生き残りであろう、と。
 一連の騒乱の結果、残されたのは僅かばかりのメックの残骸のみであったが、連合の技術者は意外な発見をした。残骸の中にあったECMシステムは非常に優れており、また装甲の材質も興味深いものがあったのである。この情報が後に氏族への対抗を可能にする、各種電子機器や装甲の再開発の萌芽に繋がったのは歴史の皮肉と言えるのかもしれない。

(後に判明した資料によると、恐らく彼等は粛清されたウルバリーン氏族の生き残りであろう、と推測された。彼等は今も辺境のどこかに潜伏、氏族社会への報復の機会を窺っているのかもしれない。それとも、密かに中心領域内に戻り、隠れているのであろうか?)
(氏族内では、3052年のツカイードの敗戦は、ウルバリーン氏族の暗躍の所為だと疑う者も多い……これが後に喜劇的な“Bloodright”の神判に繋がった)

 

フェニックス計画

 惑星“ホフ”にて発見された星間連盟期の技術解析と、それを応用した新兵器群の開発計画。
 NAISより派遣された科学者達により計画は順調に進み、新型放熱器、ミサイル、新型砲が完成した。また、それらを搭載したメックも開発され、プロトタイプの運用にまでこぎつけた。最終的には、発掘メック“デヴァステイター”のコピー機の製作を目標としていたようである。しかし、3022年、“ホフ”はドラコ連合の攻撃を受け、計画は停滞を余儀なくされたのであった。

 

“フリーザー”放熱器

 惑星“ホフ”にて発見された星間連盟期の技術解析により、ダヴィオン家の科学者達が作り上げた実験的な放熱器が、この“フリーザー”放熱器である。
 “フリーザー”放熱器は、通常の放熱器の2倍の放熱効率を誇る画期的なものであった。それ故に、恒星連邦と対立する各陣営は相当な努力を傾けて“フリーザー”放熱器技術の取得を図った。その結果、カペラ大連邦国は、第4次継承権戦争の末期には企業のスパイ活動で奪取した“フリーザー”放熱器の改造型を装備したBJ-3ブラックジャックの配備を少数だが為し遂げていた。また、それから僅かに遅れてドラコ連合も“フリーザー”放熱器技術を入手し、後にMAL-1Rモーラーに搭載した(この時、自由世界同盟は技術の入手に失敗している。そして、以後の放熱器開発に於いて大いに遅れを取る事となった)
 しかし、“フリーザー”放熱器は非常に歩留まりが悪く生産性が低く、その上、腐食性の強い液体金属を冷却材として使用する事から整備性も悪かった。それ故に、単価も後の量産型と比較して5倍〜7倍にも達した。そして、“フリーザー”放熱器は通常の放熱器との混載が可能という優れた長所があったものの、星間連盟期のダブルヒートシンクと違ってエンジンへ直接搭載する事が不可能というその短所は非常に問題であった。
 3041年、惑星“ヘルム”で発見されたメモリー・コアを研究したNAISのジョージ・ベラスコ博士は最終的な問題を解決し、(エンジンにも装備可能な完全版の)ダブルヒートシンクの量産を可能とした。かくして、“フリーザー”放熱器は“3039年戦争”で大規模に使用されたのを最後に姿を消していく事となったのである。

 

コロッサス級降下船発掘

 星間連盟末期に惑星“フェクダ”に墜落した“コロッサス級降下船”には、多数のメック、車輌が搭載されていた。“フェクダ”の自然環境は、これらの保存に偶然だが非常に適していた。結果、スノード・イレギュラーズが3024年に発掘した際には、メックは機能の殆どを維持し、良好な状態だったのである。この時にライラに引き渡された発掘メックの中には失われた設計のものも存在しており、後のメック開発に大いに参考となった。

 彼等は、通常型のメックはライラ共和国軍に引き渡したものの、(ウルフ竜機兵団からの指示もあった為)遺失装備搭載機は将来に備えて隠匿した。
 そして、将来の氏族侵攻に対抗する意図を持って、3030年代後半に遺失メックの技術資料をライラ側に提出したのであった(この際には、既にウルフ竜機兵団の指示を無視していた様である)

 

ブラックボックス (恒星連邦、ライラ共和国)

 同盟を締結する事となった恒星連邦とライラ共和国が共有した最高機密の1つが、“ブラックボックス”と呼称された超光速通信技術である。この“ブラックボックス”の技術は、アレッサンドロ・シュタイナーの魔の手から逃れる為にカトリーナ・シュタイナーがアーサー・ルフォン、モーガン・ケルと共に辺境へ姿をくらましていた時期にそこで発見したものが基礎となっている。
 “ブラックボックス”技術の起源は不明であるが、26世紀後期から27世紀初期に掛けて地球帝国が行った幾つかの超光速通信技術の調査/研究の成果の1つではないかと推測されている。これらの研究は27世紀にHPGが登場したが故に放棄される事となった――研究者達にとってそれらの技術はHPGに比べると非効率であり発展性のない袋小路のものに見えたからである。また、“ブラックボックス”技術を使用した送信はハイパースペースに間断の無い“波”を起しながら広がってゆくものであり、KFドライブやHPG通信に悪影響を与えるのではないかと懸念された事も大きかった。
 しかし、ライラ共和国にとってそれは神の贈物であった。コムスターに頼らない独自の通信網を持つ事はライラ共和国にとって悲願の1つであったし、商業/軍事面に利用できた場合それは凄まじい効果をもたらすものである事は確実であった。また、“ブラックボックス”機器自体のコンパクトさも魅力的なものであった。それは、必要とされる動力は大きかったが、機器自体は大型のブリーフケースぐらいの大きさに収まるものであったのである。
 “ブラックボックス”の研究は進められ、恒星連邦と同盟が締結された後はNAISが研究に加わる事によりその速度は増した。そして、間もなく“ブラックボックス”の原理は完全に解明され、装置の複製にも成功した。3027年11月、“ブラックボックス”には恒星間通信能力がある事が実証され、続く数ヶ月間で60基以上の“ブラックボックス”(K−1型)が製造されてライラ共和国軍と恒星連邦軍の主要部隊/司令部に配備された。
 第4次継承権戦争にて、その有効性は証明される事となった。HPGに比べるとその機能はかなり限定されており、僅か数百キロバイトのテキストやイメージ・データしか送れず(これが古代の“地球”にて使われていたファックスと似ていた為、“ブラックボックス”には“ファックス・マシーン”との愛称が付けられる事となった)、届くのにも数日を要し最大通信距離も短かったが、軍の命令を伝えるのには十分であったのである。戦争の後半でコムスターが恒星連邦のHPG通信を遮断した際、恒星連邦軍が作戦行動を続けられたのも、“ブラックボックス”のお蔭である(K−1型の通信波の速度は1日あたり25光年、その最大到達距離は200光年というものであった)
 この“ブラックボックス”の存在を秘匿するのには、細心の注意が払われた。各“ブラックボックス”には自爆装置と追跡装置が組み込まれ、両国の防諜組織の厳重な監視下に置かれた。そして、第4次継承権戦争中に幾つかの“ブラックボックス”は失われたのであるが、その際に各機器の完全破壊の確証が得られた為に、機密保持は完璧であるとされた(これが功を奏して、コムスターでさえも“ブラックボックス”の存在にはかなり後になるまで気付かなかった程である)
 しかし、実際には、ドラコ連合は第4次継承権戦争の終盤に“ブラックボックス”を少なくとも1基は確保するのに成功しており(セオドア・クリタが奪取していたとの説が有力である)、3030年以降は連邦=共和国の“ブラックボックス”通信を傍受していたのである。連邦=共和国は“ブラックボックス”通信の際に傍受されるのを恐れて暗号を使用する事を義務付けていたが、それは必ずしも厳密に守られるものではなく、ドラコ連合に暗号を破られる隙を与えてしまった。そして、“3039年戦争”が勃発した際には、“ブラックボックス”通信はそのかなりが最初から筒抜けとなっており、連邦=共和国が戦争に敗北する原因の1つとなった。
 “3039年戦争”後、連邦=共和国はドラコ連合が“ブラックボックス”技術を取得したのではないかとの傍証を掴み、運用面での改善をしつつ“ブラックボックス”通信の安全性を保護する為にハードウェア面での更なる発展を行った。3042年には、ハードウェア的な暗号化が為されたK−2型が出現した。そして、3051年にドラコ連合が“ブラックボックス”を所有している事を連邦=共和国に明かした際に、その予防的処置が正しかった事が証明されたのであった。
 “ブラックボックス”はそれ以後もその改良が継続され、3061年には性能が大幅に向上されたK−6型が出現している。

 3067年現在、“ブラックボックス”技術を持つ国家は、ライラ同盟、恒星連邦、ドラコ連合の3国のみである。

 

NAIS襲撃

 3029年、連邦の厳重な警戒網をすり抜けて、惑星“ニューアヴァロン”にリャオのデス・コマンドが出現、NAISを襲撃した。彼等は、NAISの破壊を目的としていた様であり、容赦無い攻撃を施設に加えた。
 しかし、現地にいた国王ハンス・ダヴィオンがバトルマスターに搭乗し、自ら防戦の指揮を取りつつ果敢に侵入者に立ち向い、警備システムも混乱から立ち直った事もあって、2時間の戦闘の後、侵入者側のメックは1機残らず、全滅。連邦はNAIS防衛に成功した。損害は一部の研究施設が破壊されたのみで、NAIS全体からみれば比較的少ないものと言えた。これにハンス・ダヴィオンは報復を誓った……第4次継承権戦争後半にて、リャオが激しく攻撃されたのは、これが遠因なのかもしれない。

(注:デス・コマンド……マクシミリアン・リャオ直属の特殊部隊。ドラコ連合のDESTに相当する部隊と言える)

 実は、このNAIS襲撃は、コムスターの手によるものだった。コムスター司教のミンドー・ウォータリーは、最近の失策により、グレイ・デス・メモリー・コア……星間連盟の知識が銀河に広まり、コムスターの優位が崩れるのを危惧していた。
 彼女は、全てのグレイ・デス・メモリー・コアのコピーは破壊されるべきであるとした。その一環として、彼女はNAISに運び込まれたメモリー・コアの破壊を第4次継承権戦争末期に第1系列に対して提案したのである(他のメモリー・コアに関しても、言うまでも無い。グレイ・デスについても……)
 その場で、コムスター軍の一部をリャオのデス・コマンドに偽装させた上で、NAISを襲撃。メモリー・コアのある建物を破壊するという計画は承認された。この計画が失敗したとしても、恨みを買うのはリャオでコムスターの懐はさほど傷まない。リャオとしても連邦の力を削げるのならば万々歳といった所であり、事の次第を追求はしないであろう……。
 だが、結果は大失敗であった。コムスターの部隊は、全滅。ダヴィオンの嫌疑はコムスターにも向けられた……。後の、コムスターによる“スコーピオン作戦”の失敗は、この時に決定づけられたのかもしれない。
(ちなみに、同時期に行われた、グレイソン・デス・カーライルの暗殺も失敗している)

 

スノード・イレギュラーズ、コムスター施設よりバトルメックを奪取

 3037年、傭兵部隊スノード・イレギュラーズが星間連盟製のバトルメックを入手したとの噂が流れた。そして、噂は事実であった―スノード・イレギュラーズは先進的なバトルメックを複数所持していたのである。ここで問題となったのは、彼等がメックの入手先をコムスターの部隊と仄めかしていた事である。
 当時、コムスターが進める武装化に対しては、継承国家の全てが警戒心を抱いていた。コムスターは“地球”の工業生産力とHPG通信事業がもたらした莫大な資金で以て、誰もが予想だにしなかった速度で戦力を増強していたのである。しかも、スノード・イレギュラーズが奪取したと仄めかしたバトルメックは、当時の継承国家が持ち得なかった技術が使われていた。継承国家にとって、これは看過できない事実であった。
 かくして、各国は更なる技術開発の加速をすると同時に、歩調を揃えてコムスターの軍拡に対する非難を行ったのであった。そして、これにより、コムスターは各国を慰撫すべく様々な妥協をする羽目になったのである。この事件は中心領域の技術開発を早めたものと言えよう。

 実は、これはスノード・イレギュラーズの策略であった。彼等は、“フェクダ”等で回収した星間連盟の発掘機材を使う為に、コムスターを利用したのである。この際どい工作で以て、彼等はコムスターの軍拡への警鐘を鳴らす事と、発掘バトルメックの由来を誤魔化す事の2つを同時に為し遂げたのである。

 

リスン=キル・ミサイル

 3030年代、星間連盟の知識の再発見は激しい兵器開発競争を招いた。そして、数多のシステムが開発されてはテストされ、消えていった。その初期の兵器システムの1つが、この“リスン=キル・ミサイル”である。
 “リスン=キル・ミサイル”は、弾頭のシーカー部分を改良してミサイル本体の重量と価格を(それ程は)増加する事なく誘導性能を高めたものである。このタイプの弾頭はSRMとLRMの双方に使用が可能で、ミサイルの命中精度を1〜2割程上昇させたのであった。
 “3039年戦争”の連邦=共和国の初期の攻勢に於いて、“リスン=キル・ミサイル”は猛威を振るった。しかし、程無く“リスン=キル・ミサイル”の弱点は(それを捕獲した)DCMSに明らかとなった――このミサイルは、電子妨害に対して極めて脆弱だったのである。DCMSは、3039年の7月には“リスン=キル・ミサイル”用の妨害キットの開発をし、前線部隊への配備を開始した。そして、同時にミサイル本体自体も7月中にコピーの生産を為し遂げ、9月には全軍に供給したのである。
 かくして、連邦=共和国軍は僅か数ヶ月で“リスン=キル・ミサイル”をほぼ無効化されたのみならず逆に自軍に対して向けられる事となり、この事態を想定していなかった事から対抗手段の装備は遅れ、(妨害キットの配備がされた)3040年の2月まで“リスン=キル・ミサイル”に対してかなりの被害を被ったのである。
 また、“3039年戦争”の終結後、ドラコ連合は自由世界同盟やカペラ大連邦国にその技術を供与し、その結果、中心領域全体に“リスン=キル・ミサイル”の安価な対抗手段は広まってしまったのであった。――こうして、当初は革新的な兵器であった“リスン=キル・ミサイル”は僅か数年で価値を失い、姿を消す事となったのである。
(後に、“リスン=キル・ミサイル”は氏族の軍勢相手に使用されたものの、先進的なオムニメックのECMの前に容易に無効化され、全く役に立たなかったとの事である)

 

VRPP

 VRPPとは、Virtual Reality Piloting Pod の略称である。そして、VRPP計画に基づきNAISの一部門が開発した、メックの新操縦機構を指すものでもある。
 それは、神経反応ヘルメットの形状をポッド型にして、その内部に周囲360度の映像を映し出すスクリーンを配置、様々な情報を統括して表示するシステムであった。また、戦闘情報の一部をパイロットの脳に直接的に伝達する機構も搭載されており、戦闘時におけるパイロットの反射速度を上昇させる事にも成功していた。
 だが、パイロットに掛かる負担が激しく、システム慣熟に要する時間も長い為、メック戦士には不評であった(その結果、さほど普及はしなかった様である)

 

エクスカリバー計画

 格闘メック――ハチェットマン、アックスマンを開発したチームの手による、新型格闘兵器・開発プロジェクト。
 エクスカリバー・システム(メックの機動を最適化するコンピューター、OS)、エクスカリバー(従来型よりも命中率が上昇した剣)、マイアマー・ウィップ等が開発され、テストされた。

 

DNI

 DNIとは、Direct Neural Interface の略称である。これはメックと人間との融合――人機一体をめざした、VRPP計画の完成形と言えるものである。計画では、今までの操縦機構と違い人間とメックを物理的に繋ぐ事により、圧倒的なパフォーマンスを得る事が目標とされた。
 当初、開発は難航していたが、捕獲した氏族メックの技術/操縦機構を参考にする事により、3051年以降は順調に進んだ。DNIを使用した新・操縦機構とは、人間の頭部にジャック・イン端子を埋め込み、ケーブルで以てメックと直接接続をするという、氏族のEI技術よりも別種の意味で洗練されているものであった。
 ……システムは、テストにおいて予想を遥かに超える性能を発揮した。が、問題もあった。メックの被弾時に発生する電子的ノイズが、メック操縦者の脳に逆流し、操縦者の脳に過大な負荷をかけ、死に至らしめてしまうというものである。
 この問題は、特殊な薬物“XA−3”を操縦者に投与する事で解決が計られた(“XA−3”には、脳を活性化させ、刺激に対する耐性を持たせる効果があった――副作用も強かったが) そして、3053年、システムは9割方完成し、実戦での使用を待つばかりとなった。
 しかしながら、この段階でNAIS上層部による監査が入り倫理的な問題点等々から計画は凍結されそうになったが、計画の主任は独自にシステムの研究を強行しようとした。 だが、NAISの追跡部隊により主任は捕らえられ、事態は収拾されたのであった。
 このDNIの情報は後にワード・オブ・ブレイクの手に渡り、彼等によって改良されて“聖戦”にて使用される事となった。DNI技術で強化されたワード・オブ・ブレイクのマネイ・ドミニのメック戦士は、“聖戦”の戦場にて猛威を振るった。

 

ATM(アドヴァンスト・タクティカル・ミサイル) (コヨーテ氏族)

 3053年の初頭から、コヨーテ氏族の科学者達は幾つかの新技術のプロジェクトを開始していた。しかし、プロジェクトの多くは、新たな兵器と2機のバトルメックの開発の為に中止されていった。そして、コヨーテ氏族族長のサリヴァン・コガは、ATMの呼称で開発されている兵器の方がより柔軟性に優れていると感じ、ハイブリッド・レーザー・プロジェクトの中止を命じたのであった。

 このATMは、そのルーツを29世紀の主任科学者リチャードが構想したものにまで遡る事が可能である。リチャードの時代には技術的制約により構想は実現しなかったが、今や、その制約は消えていた……。かくして、コヨーテ氏族の科学者達は研究に邁進した。
 ATMは、異なる種類のミサイルを1つの発射基で使用可能としたものである。弾頭の種類は、通常弾頭、HE弾(高炸薬弾頭)、ER弾頭(長距離弾頭)の3つである。そして、用途に応じてスイッチ1つで弾頭を切り替えられるATMの柔軟性は、戦場でコヨーテ氏族の戦士達に圧倒的な優位をもたらしたのであった。
 スモークジャガー氏族の旧領を巡った戦闘の際には、コヨーテ氏族の新型オムニメック“サヴェッジ・コヨーテ”に搭載されたATMはその威力を遺憾無く発揮し、対戦相手を驚愕させた。しかしながら、皮肉な事に、ATMの威力はそれを欲した氏族との間に新たなる神判を勃発させる要因ともなったのである。

 

ライト・オートキャノン (恒星連邦)

 NAISでは3050年頃からLB−Xオートキャノンをモデルにして、新たな軽量オートキャノンの開発が進められていた。そして、3055年、NAISの技術者達は、一定の成果を挙げた。LB−Xオートキャノンよりも軽量で安価なオートキャノン――ライト・オートキャノンの開発に成功したのである(開発に成功したのはクラス2とクラス5の2種)
 だが、この新兵器は、軍とメック戦士達の双方から好意的な評価は受けられなかった。この兵器は重量の軽減と引き換えに長射程での命中率を犠牲としていたからである。故に、恒星連邦軍需局はライト・オートキャノンの大量生産中止を命じたのであった。――この兵器の命運は事実上、一時は絶たれたのである。しかしながら、この試みの全てが無駄だった訳ではなかった。ライト・オートキャノンの技術は、後の新兵器であるロータリー・オートキャノンの開発に生かされ、恒星連邦に新たな力をもたらす礎となった。
 そして、3068年、予想外の事に、ライト・オートキャノンは制式化され量産が承認される事となった。皮肉にもワード・オブ・ブレイクによるNAISの広範な破壊が、一度は命脈を絶たれたこの兵器の復活を招いたのである。ワード・オブ・ブレイクを“ニューアヴァロン”から駆逐すべく、投入可能なあらゆる兵器の製造は正当化された。また、ライト・オートキャノンはRACやウルトラAC、LB−Xでは使用不可能な特殊弾に対する互換性を保持していた事も、兵站が不安定なかの状況下に於いては多少有利に働いた。かくして、済し崩し的にであるが、ライト・オートキャノは恒星連邦、後には他の継承国家に於いても使用されていく事となったのであった。

 

ライト・ガウスライフル (自由世界同盟)

 3052年、6月、自由世界同盟総帥トーマス・マーリックは、インペレーター・オートマチック・ウェポンリー社とコリアン・エンタープライゼス社に対してガウスライフルの軽量化の研究開始を命じた。彼は、将来の為にも自由世界同盟で氏族製のガウスライフルに匹敵する性能のものを開発し、生産する事を欲したのである。
 当然の事ながら、開発は難航した。ガウスライフルの軽量化には電磁コイルの重量削減が効果的であったのだが、それはガウスライフルの砲弾の初速を低下させ、射程・威力を共に減衰させるものだったのである。軽量化したコイルに従来のものと同様の性能を付加するには、基礎技術の蓄積・発展を待つしかなかった。要するに、この問題は当面は解決不可能だったのである。しかし、総帥の要求には早急に応えなければならない……。それ故に、コイルの重量削減により発生したガウスライフルの初速低下問題は別のアプローチで――射出する砲弾の改良で、解決が図られる事となった。
 両社は射撃演習場で様々な材質・形状の砲弾を試し、総発射弾数は万に達したという。3056年、6月、最終的に重量を従来の砲弾の半分に落としたものが選ばれた。その砲弾を使用した場合、威力は従来のガウスライフルと比べて40%低下したが、射程は氏族製のものを凌駕するという結果が得られたからである。
 3056年、8月、2ヶ月の評価試験を経た後にトーマス・マーリック総帥は、この兵器――ライト・ガウスライフルの正式採用を決定した。彼は、自由世界同盟軍に射程面でのアドバンテージを与えるライト・ガウスライフルの開発成功に満足したとの事である。

 

ケースレス・オートキャノン (連邦=共和国)

 3055年、オートキャノンの戦場での射撃可能時間を長くするべく研究を続けていた連邦=共和国の技術者達は、小銃弾等々で使用されているケースレス技術をメック用のオートキャノンに応用する事を試みた。彼等は、薬莢を使用しない分、砲弾の重量を低下させる事ができ、1tあたりの砲弾数量を増加させる事ができるのではないか、と考えたのであった。それからしばらくして完成した、メックグレード・オートキャノン用のケースレス弾の性能は申し分ないものに見えた――砲弾重量軽減の成功により、それは何と(装弾不良による爆発のリスクがあるものの)通常の2倍もの弾薬の搭載を可能としていたのである。しかしながら、このケースレス弾の使用時に従来のオートキャノンの給弾システムは不具合を見せ、それ故に専用の給弾システムを備えたオートキャノが一先ず製作される事となった。こうして、ケースレス・オートキャノンは誕生したのである。
 ケースレス・オートキャノンの完成から1年後の3057年、技術者達はケースレス弾の通常型オートキャノンでの射撃を可能にする解決策を見付け出した。この解決策は、余り大きな改修を必要とせずに通常型オートキャノンをケースレス弾対応のものにできるという優れたものであった。その結果、ケースレス・オートキャノンの存在意義は事実上失われ、登場から僅か1年で消えていく事となった。

 

AAAシステム (自由世界同盟)

 Accelerated Arm Actuator Systemの略称。これは、著名な兵器製造企業であるアースワークスFWL社(自由世界同盟アースワークス社)の惑星“ソラリスVII”に在る部門が開発したものである。
 これは、MASC技術を脚の代わりに腕の駆動機構に使用し、格闘戦でのダメージを飛躍的に高める事を目論んで開発されたものである。そして実際、このシステムを使用した時に出せる通常の数倍の速度に達する腕の振りは、腕を用いた格闘攻撃のダメージを2倍に高めた。しかし、このシステムは腕のマイアマーに掛かる負荷が大きく、使いこなすのが難しかった為、闘技場惑星“ソラリスVII”でさえも広く普及はしなかった。

 

MRM (ドラコ連合)

 3030年から開始されたドラコ連合軍の急速な規模の拡大は、新たなるバトルメック/車輌群とそれに装備する新たなる兵器の需要を高めていた。努力の結果、3050年頃には新兵器群の配備はかなり進んでいた。しかし、新兵器は強力だが問題点も多かった――特にコスト面に於いて。当時のドラコ連合は新兵器の供給を主にコムスターと自由世界同盟に頼っており、各兵器は輸入時に割高なものとなったのである。この事を憂慮した時の管領(後のドラコ連合大統領)セオドア・クリタが採った方策は、可能な限りの兵器の国産化と生産性/費用対効果に優れた新兵器の開発であった。
 こうして、MRM(ミディアムレンジ・ミサイル=中距離ミサイル)は生産性/費用対効果に優れた新たなる兵器を目指して開発が開始されたのである。
 技術陣は(兵器としての安定性は悪いが)破壊力に優れていた、当時開発中であったプロトタイプのデッドファイアー・ミサイルを参考に開発を進めた。そして、MRMはミサイル本体付属のセンサーを排除する事によって誘導性能/命中率/射程自体は低下したが、LRM並みの破壊力を維持しつつミサイル・サイズの縮小とコストダウンに劇的に成功したのである。また、このミサイル・サイズの縮小により、MRMはそれまでには不可能であった、より大きな多連装ランチャーに纏める事が可能となり、最大で40連ものミサイル・ランチャーが製作された。
 3058年、MRMはドラコ連合軍に正式採用が決まり、急速に各部隊に普及していった。信頼性と破壊力に優れ、安価かつ製造の容易な兵器として、MRMはドラコ連合の全兵士に愛される存在となった。

 

HVオートキャノン

 HVオートキャノンは特別なゲル化装薬の砲弾を発射する事で、通常のオートキャノンよりも高初速と長射程を実現した新型オートキャノンである。しかしながら、その特別な装薬の砲弾の発射に耐えるにはより重く頑丈な機構が必要とされた為に、HVオートキャノンは非常に重く嵩張る兵器となってしまった。また、その低確率で発生する装弾不良は兵器本体の爆発を引き起こすものであり、その射撃時に不可避で発生する大量の砲煙も問題であった(しかし、この砲煙に戦術的利点を見出す者達も存在した) その結果として、3059年にプロトタイプは完成したものの、HVオートキャノンの制式化と普及は以後も長年に渡り進まなかった。
 HVオートキャノンが制式化されるのは、“聖戦”の後期、3079年になってからの事であった。

 

ソード (ドラコ連合)

 3023年、新型の格闘戦用メック、“ハチェットマン”の登場は、ドラコ連合のメック技術者と用兵家達にとっては大いなる驚きであった。彼等は、自分達こそがメックの近接戦闘の最先端を走っており、どの国家も追随は不可能であると思っていたのであるが、その自負が崩されたのである(ドラコ連合軍はハチェットマンとの最初の遭遇戦で敗北していた) 故に、ドラコ連合は捕獲したハチェットマンの分析を即座に開始すると同時に、並ならぬ熱意で以てコピー機の量産を目論んだのであった。
 それから数年後――ドラコ連合の優秀な技術者達の奮闘により、ほぼ完璧と言って良いハチェットマンのコピー機が完成した。しかしながら、機体の評価試験で問題は発生した。テスト機に搭乗したパイロット達は、ハチェットマンが装備している(その機体の存在理由とも言うべき)“ハチェット”に対して極度の嫌悪感を示したのである。パイロット達は口々に、「ハチェットは蛮族の使う武器である。サムライには、全く相応しくないものである」と非難した。その上、機体への搭乗を拒否する者も出てきたのであった。
 この問題に対し技術者達は“サムライ”に相応しいよりエレガントな武器であるメック用の“ソード”の開発をする事で解決を図った。その開発は難航した。最初期に製作されたソードは強度が不足しており、標的に振り下ろされたソードは最初の一撃で脆くも折れてしまう傾向があったのである。結局、最新の製造法によりソードの脆弱性の問題が最終的に解決したのは、実に開発が始まってから数十年が経過した3058年の事となった。

 ソードは、ハチェットよりも威力は落ちるが扱いやすく命中率に優れた武器となった。そして、ソードを装備したメック・ノダチの“大拒絶”に於ける活躍は特筆すべきものであった。この武器は、真にドラコ連合の魂を体現したものであると言えよう。

 

プロトメック (スモークジャガー氏族)

 歴史的に、スモークジャガー氏族は氏族本国宙域の地理的要因(氏族本国宙域は資源の採掘に容易な惑星や資源帯が少なかった)から資源面で貧乏であり、その創設期からそれに悩まされてきていた。3050年、侵攻によって資源の豊富な中心領域に広大な占領地域を得た事でそれは解決されるかに見えたが、占領地域行政を失敗した事により状況は変えられなかった。武断的なスモークジャガー氏族は中心領域の貨幣経済を無視して氏族の流儀を強要しようとして占領地域のドラコ連合国民の反感を買い、安定的な資源供給を得るどころか逆にリソースを消費してしまう多数の反乱を誘発したのである。結果、スモークジャガー氏族の資源的な危機は収まらなかった。そして、この危機に直面したスモークジャガー氏族の科学者階級は、資源消費の少ない新たな戦闘ユニットの開発に動いたのであった――これにより完成したものが“プロトメック”である。
 プロトメックはバトルアーマーとバトルメックの両者の特性を持った中間的存在のユニットであり、製造の際の資源消費が比較的少なかった。その全高はバトルメックの1/2、その重量はバトルメックの1/10で、単純計算ではバトルメック1機分の価格で10機のプロトメックが製造できたのである。その開発にあたって最も難航したのは、コクピット機構であった。プロトメックはバトルメックの半分のサイズである事からメックのコクピットをそのまま流用するのは重量的に不可能であり、バトルアーマーのものでは能力に不足があったのである。そして、プロトメック用のコクピット開発はしばらく停滞した。そのブレイクスルーが訪れたのは、有効だが危険な氏族のEI技術の使用を前提とした操縦機構の採用と遺伝子的に生来小柄である氏族気圏戦闘機パイロットの採用により、劇的なコクピットのサイズ縮小に成功した時であった。
 プロトメックは氏族の戦闘の名誉規範に沿うかどうか不明であるその過激な急進性からスモークジャガー氏族上層部に受け入れられるかが疑問視された事から、スモークジャガー氏族科学者階級はスモークジャガー氏族上層部に黙ったまま秘密裏にそれの開発とテストを継続した。そして3060年、スモークジャガー氏族の本拠惑星である“ハントレス”にサーペント任務部隊が襲来した時には、完成した量産型プロトメックが約100機とそれらを操縦する秘密裏にリクルートされていた元・気圏戦闘機パイロット達が存在していた。
 かの“ハントレス”防衛戦にて予定外に実戦に投入される事になったものの、プロトメックは恐るべき戦果を挙げた。全くの初見のユニットであった事から奇襲効果が大きかったとは言え、プロトメックと対戦したサーペント任務部隊の各部隊は大損害を被った。実に、自由世界同盟のナイツ・オブ・ジ・イナースフィアは戦力の50%を完全喪失、カペラ大連邦国傭兵部隊キングストン軍団は戦力の70〜75%を完全喪失、ノースウィンド・ハイランダーズのマクラウド連隊は戦力の50%を完全喪失したのであった。“スーパーエレメンタル”、“ミニチュアメック”、“ハーフメック”、“ボガート”とそれぞれの部隊の感性によりバラバラの名称を付けられたそれらのプロトメック達は、惑星“ハントレス”のジャングルの中でその真価を十全に見せ付けたのである。
 後に、プロトメックと科学者階級のその無許可プロジェクトの存在を知る事となった時のスモークジャガー氏族族長かつ氏族大族長のリンカーン・オシスは激怒したが、そうであってもプロトメックの実力と存在は認めざるを得なかった。――不利な状況下でも戦果を挙げられ、その上、資源消費も少ないプロトメックは、追い詰められたスモークジャガー氏族の戦力再建の希望に成り得るが故に。しかし、まもなくしてスモークジャガー氏族は滅亡。スモークジャガー氏族科学者階級の元々の願いは成就する事なく、プロトメック技術は他氏族に流出していった。

 中心領域に於いては、氏族との技術的な格差が大きい為にプロトメックは長年に渡り概念研究/予備研究に留まっている。中心領域版プロトメックの実現を妨げている最も大きな原因は、氏族のEI技術の複製ができていない事、遺伝子調整された小柄な体格のパイロットを確保できない事にある。それらなしでは、中心領域技術プロトメックでは非効率な大型コクピットやジャイロを組み込まざるを得なくなり、結果、とても実用に耐えないユニットになるであろうと試算されていた。詰まる所、中心領域にとってプロトメックは依然として手に余る存在なのであった。

 しかしながら、一部の倫理観を捨てた企業は、中心領域版プロトメックの実現は十分に可能であるとの結論を3067年に出しているものである。それによると、パイロットに子供(戦災孤児等々で大量に確保可能)を採用する、EI技術の代わりにDNIを採用する、との方法で問題は解決可能であるとされていた。また、ワード・オブ・ブレイクは、マキナ・ドミニ・インターフェースの開発により、プロトメックに必要な基礎技術の全てを事実上手に入れていた。中心領域の闇の中で、中心領域版プロトメックは既に存在しているのかもしれない。

 

複座型LAM“イビル・ツイン” (ジェイドファルコン氏族)

 ジェイドファルコン氏族の科学者階級は、“ツカイード戦”が終了したしばらく後からLAMに興味を抱き研究を開始していた。一説によると、“ツカイード戦”にて出現した少数機のコムスターのLAMが科学者階級の琴線に触れたのがその理由との事である。
 一般的にLAMは氏族の戦闘方や慣習には全くそぐわない存在であり、氏族創設後はブライアン・キャッシュに死蔵されていた。ブライアン・キャッシュから引き出されたそれらのLAM(1個星隊分=5機)は惑星“ハントレス”のジェイドファルコン氏族の研究所に運び込まれ、そこにて研究/開発は続けられた。
 しかし、氏族の技術力を以てしてもLAMの改修は手に余るものであった。LAMの機構的な脆弱性から噴出する様々な不具合は5年を経た後も完全な解決が不可能であり、また、そのパイロットをどうするかも問題であったのである。最終的にそれなりに有望な機体となったのは、複座コクピット機構を採用してLAMの気圏戦闘機モードとバトルメック・モードの操縦を2人のパイロットで分担する事にした“イビル・ツイン”(1つの機体を2人で操縦する事から、こうあだ名が付けられた)である。
 このイビル・ツインには2機種が存在し、イビル・ツイン・ワンはフェニックスホークLAMを改修した50tの機体で、イビル・ツイン・ツーはスティンガーLAMを改修した40〜45tの機体であった。そして3059年、当時の惑星“ハントレス”での奇妙な事件の成り行きにより、この2機のイビル・ツインはスモークジャガー氏族との神判を戦う事となった。
 理論上、2人のパイロットでイビル・ツインは最大限の力を発揮できる筈であったが、ここでジェイドファルコン氏族の戦士で一般的な我の強さがマイナスに働いた――神判の戦闘中にも拘わらず、気圏戦闘機パイロットとメック戦士はどちらが主導権を握るかで対立し危うい状況に陥ったのである。この神判自体はイビル・ツインの特攻によりジェイドファルコン氏族側の勝利に終った。しかし、神判終了後にイビル・ツインは修理不可能な程の損傷を受けていた一方で、対戦相手のサモナーとウォーハンマーも大破はしていたもののそれらは時間さえ掛ければ修理は可能な状態であった。LAMは戦闘には勝てたものの、戦争には敗れたのが明白であった。
 神判終了後にLAMに対して下された結論は、「LAMを戦闘で使うのは危険に過ぎる」、「2人のパイロットを使うというコンセプトは、ジェイドファルコンの戦士にとって難問に過ぎるものである」、「その変形がメックに負荷を掛け過ぎるものである」というものであった。結果、ジェイドファルコン氏族のLAMプロジェクトはお蔵入りになり、残存するLAMはどことも知れぬ場所へしまい込まれる事となった。

 

ヘビーレーザー (スターアダー氏族)

 氏族は既知宇宙で最も優れた兵器技術を保持している。しかしながら、2868年にエレメンタル・バトルアーマーを開発して以来、これといった革新的な発展は起こらなかった。これについての理由は幾つか存在しているが、一番の原因は必要性が無かった事にある。――各氏族の対戦相手は常に同等の武装であり、同じ戦術、同じ名誉的規範の元に戦闘は行われていた。故に、軍拡/兵器開発競争を促す要因が少なかったのである。
 これが変化したのは、氏族が中心領域に侵攻を行ってからしばらく後の事であった。中心領域の軍勢と戦闘を行った侵攻氏族達は、当初は楽観していた。彼等の軍事技術は中心領域を圧倒していたのである。しかしながら、それにも拘わらず、侵攻氏族は幾つかの戦闘で敗北を喫し、その上、中心領域側は氏族の技術を参考に独自の発想/技術を加えて改良した兵器を次々と戦場に送り出してきた。ここに至り、ようやく中心領域側の軍事技術開発速度を侮っていた事に各氏族は気付いた。そして、脅威を感じた各氏族の族長達は自氏族に新兵器開発を命じたのであった。
 その努力が実を結び、最初に出てきた新兵器が、スターアダー氏族の“ヘビーレーザー”である。

 スターアダー氏族は苦労の末、砲身とクリスタルのサイズを拡大・延長したレーザーの開発に成功した。このレーザーは、発熱は通常のものの2倍に達し、射程も中心領域並みに低下し、また解決不能な電磁障害をセンサーに発生させていたが、倍の威力を叩き出せるものであった(尚、レーザー発射の際に発生する電磁波は、パイロットの健康にも好ましくないとの結果が出ていた)
 しかし、多少の欠点はあったが、伝統的に兵器の威力を重視するクルセイダー派の氏族の気質に“ヘビーレーザー”は非常にマッチしており、広く受けいれられていったのである(ただ、パイロットの生命を重んじるウォーデン派の氏族にはあまり好評ではなかったという)

 

ライトエンジン (ライラ同盟)

 ライトエンジンに関する技術は、もともとは3053年にウルフ竜機兵団とGM/ブラックウェル・コーポレーションが共同で独自に開発をしていたものである。ウルフ竜機兵団はストックが減少しつつある氏族製のXLエンジンの代替として、このライトエンジンを開発したのであった。(開発には、“ソラリスVII”のメック闘技場の観戦客を保護する為に存在している独特の電磁シールド網の技術が使われたとの事である)
 このXLエンジンと通常型エンジンの中間物と言えるライトエンジンについての情報は程無く広まった。そして特に、氏族の脅威への対処に熱心であった連邦=共和国国王ヴィクター・シュタイナー=ダヴィオンの目を引きつけた――彼には氏族と中心領域の間に存在する技術的間隙を埋めるのにライト・エンジンは非常に適していると思えたのである。故に、彼は熱意を持ってGM/ブラックウェル社に連邦=共和国への技術の売却・供与を働きかけたのであった。
 しかしながら、GM/ブラックウェル社の反応は芳しいものではなかった。彼等は過去の関係からウルフ竜機兵団以外の者にライトエンジンを売る気は全く無かったのである。――交渉は頓挫した。

 この状況が変化したのは3062年の事であった。――3058年に発足したライラ同盟の国家主席キャサリン(カトリーナ)・シュタイナー=ダヴィオンは自国の軍隊をより強化すべくライトエンジン技術を欲し、GM/ブラックウェル社と交渉を持った。だが、彼等には依然として技術を売る気は薄く、交渉は難航した。そこで、キャサリンは諜報組織“ロキ”に命じてそのエージェントをGM/ブラックウェル社に派遣、ライトエンジン技術を秘密裏に奪取させたのである。
 ここで、奪取に成功したとはいえ、キャサリンはライトエンジンの大量生産を即座に開始する事はしなかった。彼女は事が露見した場合、ウルフ竜機兵団を完全に敵に回して兄――ヴィクター・シュタイナー=ダヴィオン――の側に追いやる結果になる事を熟知していたからである。
 故に、彼女はデファイアンス・インダストリーズ社に資料を回して“研究”を行わせて独自にライトエンジンを完成させたとの体裁を整えようとした。そして、3062年、デファイアンス・インダストリーズ社はライトエンジンの“開発成功”を発表。彼女の隠蔽工作は完成を見るかに思えた。
 しかしながら……ライラ同盟の“ライトエンジン開発成功”から間もなく、ウルフ竜機兵団は星間連盟評議会に対してライラ同盟を「詐欺・窃盗、及び他の12の罪状」で以て告訴。ライラ同盟の犯罪行為は世界に知れ渡ってしまったのである。しかも、ウルフ竜機兵団は訴訟を行いつつ自由世界同盟/ドラコ連合に対するライトエンジンの売却を即座に開始し、両国に数年間の契約で1000以上のライトエンジン・ユニットを供給する事に合意したのであった。

 結局、ライトエンジンの独占によってもたらされる筈のライラ同盟の優位は全て、とは言わないまでもかなりの部分が失われ、キャサリンは手痛い教訓を学ぶ羽目になったのである。

 

ヘビー・ガウスライフル (ライラ同盟)

 星間連盟期の技術の復興以降、ライラ同盟軍はガウスライフルの射程と威力に魅せられ、自らの設計するメックに好んで採用した――実に、旧来のバンシーから新型のデヴァステイター、ナイトスター、ガンスリンガー、サンダーホークと言った、新旧の多くの機体の武装にガウスライフルが採用されたのである。しかしながら、ライラの最高司令部内の(幾許かの)人員は、敵――特にジェイドファルコン氏族――から国家を防衛する為には、より強力な兵器が必要であると感じていた。そして、彼等は敵との技術的な間隙を埋めるものではなく、敵の技術よりも優越した兵器を求めたのであった。――実験で無数のプロトタイプを破壊し、巨額の費用を費やし、10年以上の開発期間を経て、ライラ同盟の技術者達は作動する“ヘビー・ガウスライフル”の開発に成功した。こうして、ライラ同盟は中心領域で最も強力な砲熕兵器を手に入れたのである。

 しかしながら、“ヘビー・ガウスライフル”はサイズが大きすぎ、作動させるには大出力を必要とするとの欠点があった。これは、ICEで動く大部分の車輌には“ヘビー・ガウスライフル”の搭載が不可能である事を意味し、兵器としての活用を狭めるものであった。その上、核融合エンジンでも、“ヘビー・ガウスライフル”の作動に十分な出力とは言えなかった――その結果として、通常のガウスライフルよりもその初速は低く、飛翔距離が長くなるに従い威力も減少した。更に、“ヘビー・ガウスライフル”発射時の反動は凄まじく、移動射撃を困難にし、車輌では砲塔への搭載を、メックでは胴部位以外への搭載を不可能としたのである。他の国家なら、これだけの欠点があれば、この兵器の運用を再考したかもしれない。しかし、ライラ共和国時代から流れるライラ軍部の“重兵器信仰”は、その威力に比べれば、これらの欠点は取るに足らないものであるとし、“トールハンマー”との愛称を付けて“ヘビー・ガウスライフル”を採用したのであった。
 製造や輸送の費用が高価な“ヘビー・ガウスライフル”は、ライラ同盟軍内に行き亘る速度は遅かったが、配備された部隊では好評を博した。そして、3064年のジェイドファルコン氏族の侵攻、連邦=共和国内戦で、この“トールハンマー”は戦場に恐怖を振り撒いたのである(“ヘビー・ガウスライフル”を装備した“ファフニール”、“バーゲスト”、“ハウプトマン”等の姿が現れただけで、戦況が変わった例もある)

 尚、この“ヘビー・ガウスライフル”は、ライラ同盟の“ライトエンジン”に関する犯罪行為に怒り狂ったウルフ竜機兵団が報復として“技術を取得”(リバースエンジニアリングをしたのか、ライラ同盟から非合法に技術の奪取をしたのかは不明である)して独自に生産を開始した事により、ライラ同盟の独占体制は後に崩された。そして、星間連盟議会により、「ライラ同盟とウルフ竜機兵団の両者が互いの技術を保有するのを認める」との和解が勧告されて受け入れられるまで、両者は互いへの非難合戦を繰り広げたとの事である。

 

ロータリー・オートキャノン(RAC) (恒星連邦)

 3050年代中盤、NAISはLB−Xオートキャノンをベースに、より軽量のオートキャノン(“ライト・オートキャノン”)の開発を試みた。しかし、開発はうまくはいかなかった。試作品は確かに軽量化には成功していたものの、射程・命中精度が共に低下しており、軍需局により開発中止が命じられる事となったのである。
 しかしながら、NAISの科学者達は諦めなかった――彼等はこの失敗を次の新兵器の開発に生かそうとしたのである。彼等は、LB-Xオートキャノンの多砲身機構に注目した。過熱と機構への負荷により、LB-Xオートキャノンは、高レートの射撃は不可能であった。しかし、最初から多砲身を前提に設計したのならば、ウルトラ・オートキャノンを越えるレートでの射撃が可能なのではないか?

 “ロータリー・オートキャノン”の開発コンセプトは、ここから誕生したのである。

 NAISは苦闘の末に、クラス2とクラス5のオートキャノンで評価用の“ロータリー・オートキャノン”を作り上げる事に成功した(残念な事に、クラス10、クラス20といった大口径砲では研究室レベルでも動作モデルを作り上げる事は困難だった)
 クラス2とクラス5のオートキャノンの“ロータリー・オートキャノン”開発が成功したのは、ストックされていた“ライト・オートキャノン”を用いた事により、過熱と機構への負荷の問題が解決したからである。ウルトラ・オートキャノンを越えるレートでの射撃を実現させた“ロータリー・オートキャノン”は、恒星連邦の底力を体現した恐るべき存在と言えよう。

 

ロケットランチャー (マリア帝国)

 3048年、父であるマリウス・オレリィが(公式には)事故で死亡した後に玉座を継承した“シーザー”シーン・オレリィが最初にした事は、国軍の規模の拡大と新兵器の開発であった。自らを古の英雄“シーザー”になぞらえ、国を古代ローマ帝国の再来であるとした彼は、宇宙の一角を制する皇帝になる事を欲したのである。
 “シーザー”シーン・オレリィは新兵器の開発にあたって、帝国の技術者達に「高度な技術を必要とせず、直ちに大量生産が可能で、容易にメック/戦車への装備が可能なもの」との要求を出した。そして、帝国の技術者達は試行錯誤の上に、ドラコ連合が開発したMRMに似たコンセプトの兵器を開発したのである。
 その兵器――“ロケットランチャー”は、誘導装置を一切搭載せず小型化に成功したロケット弾を多連装ランチャーに纏めるという、単純かつ明快な設計のものであった。皮肉にも、帝国の高度な電子機器製造工場の欠如、全体的に低い技術水準・整備能力といったネガティブな要素が技術者達に思い切った取捨選択を行わせ、このような兵器開発の成功へと繋がったのである。
 基本的にロケットランチャーは、一度撃ったら終りのワン・ショット兵器である。だが、その一撃の威力は(当たりさえすれば)極めて高く、戦場でも人力で再装填が可能で使用/整備に高い技術力を必要としない、辺境に於ける正に理想の兵器なのである。故に、ロケットランチャーは、出現から程なくして辺境に広まっていったのであった。

 

新型装甲、新型ミサイルのテスト (ライラ同盟)

 航宙艦装甲を使用したメック、インフレート・ミサイル等、画期的な発明がこの時期に行われた。
 だが、暗い側面もあった――テストの際に、初期不良による事故で犠牲となったメック戦士が多数存在したのである。

 

プロジェクト・フェニックス

 3063年、遂に開始された連邦=共和国内戦は、次第に激しさを増していっていた。そして、この内戦の影響は当事者である国家のみに留まるものでは無かった――内戦が契機となって、アーロン・サンドヴァル公爵の暴走によるドラコ連合との国境紛争、カペラ大連邦国の“ケイオス・マーチ”への大規模侵攻、ライラ同盟へのジェイドファルコンの侵攻、といった様々な戦役が発生したのである。故に、氏族戦争の終結以来数年振りに、戦争用の機材の必要性は爆発的に高まったのであった。
 各企業は需要に応えようと、当初は新型機の開発と供給を中心に計画を組み立てていた。しかしながら、それに必要とされる費用は極めて高額であり、戦争の当事者達でさえも資金の提供には難色を示した。各企業の計画は、初動から躓きをみせたのであった。しかし、ここで突然、新たな企業が表舞台に出現した――その企業の名は、ヴィコア・インダストリー社というものであった。
 この新興の企業であるヴィコア・インダストリー社は、老舗の大企業とは全く違う方策を採用した。彼等は新型機を新規に開発するのではなく、今では旧式化しているローカストやバトルマスターといった旧来のメックを最新の技術を用いて徹底的に再設計し、開発費用を抑えて現代に有力なメックとして甦らそうと考えたのである。――この構想は、“プロジェクト・フェニックス”と呼称された。
 彼等はワード・オブ・ブレイクと接触し――(或いは、当初から協力体勢にあったのかもしれないが)――、構想に基づいて開発した新型機を彼等に大量に供給して実戦テストまで行った(この実戦テストの場には辺境が選ばれた。コンパス座連邦に攻め込んだマリア帝国は、突然戦場に出現した新型メック群に叩きのめされ、その野望を当面は潰えさせる事となった) それから、彼等は新型機の巨額の開発費用に悩む各国の大企業と接触し、(ワード・オブ・ブレイクから提供されたバトルROMの記録映像を見せながら)その他の旧メックを再設計するという自らのアイディアを精力的に売り込んでいった。そして、交渉は次々に纏まり、ヴィコア・インダストリー社は各種のプロジェクトに関与して巨額のパテント料金/ライセンス料金を得る事に成功した。また、彼等の成功を見て、ヴィコア・インダストリー社の関与しない所でもその構想に追随する企業が続々と現れた。ここに、“プロジェクト・フェニックス”のムーブメントは中心領域全体に広がったのである。

 「Arisen from The Ashes」……灰の中から甦ったプロジェクト・フェニックスのメック達は、次に来る時代――“聖戦”を象徴していたものなのかもしれない。

 このヴィコア・インダストリー社の行動には、不可解な点も多い。何故、彼等は旧式メックの再設計に執拗に取り組んだのであろうか? “デメーテル”の統治者かつ、ヴィコア・インダストリー社の最高経営責任者でもあるジョバンニ・ド・ラ・サングレこそが、この謎の中心にいる人物である、とコムスターのROMは見ている。彼がワード・オブ・ブレイクのエージェントであるとの説もあるが、今の所、真実は不明である。

 

ヘビーPPC (ドラコ連合)

 3067年初期、ドラコ連合は形式の異なる複数の新型PPCの開発に成功した。その内の1つがこのヘビーPPCである。
 ヘビーPPCは氏族のER PPCの破壊力と同等のものを持たせるべく開発されたPPCであり、その実現に見事に成功している。しかしながら、その破壊力と引替えにヘビーPPCは氏族ER PPCよりも射程が減少し、武器本体の重量も増加してしまっているのであった。
 その開発終了後、自由世界同盟との秘密の技術交換協定に基づき、ヘビーPPCは自由世界同盟に供与された。そして、自由世界同盟を経由して各国に広まっていった。

 

ライトPPC (ドラコ連合)

 ライトPPCは、より軽量化/小型化したバージョンのPPCを作り出すのを目標にドラコ連合で開発されたものである。
 ライトPPCの成功は限定的なものであり、発熱は半分、サイズも半分、ダメージも半分、と正に通常型PPCを半分にした性能であった。しかしながら、その射程がER中口径レーザーよりも若干長い事から、この兵器にはニッチ兵器としての価値と需要が生じており、特に軽量級メックのメイン・ウェポンとして愛され始めている。
 ライトPPCも自由世界同盟との秘密の技術交換協定に基づき、自由世界同盟に供与された。そして同様に、“聖戦”を戦う中心領域に広まっていった。

 

スナブノーズPPC (ドラコ連合)

 スナブノーズPPCは、元々は星間連盟末期に実験されていたPPCの1つである。スナブノーズPPCはは通常型PPCのサイズの減少とその最低射程問題の解決を目標に開発が為されたものであるが、その結果は成功と失敗が相半ばするものであった。――スナブノーズPPCの射程は通常型よりも減少しその威力も距離と共に減衰するようになってしまっていたが、その一方でサイズと最低射程問題は解決されていたのである。
 不幸な事に、スナブノーズPPCは大規模な量産に移る前に星間連盟が崩壊し、闇に埋もれていく事となった(しかし、その成果は後にウルバリーン氏族が開発した氏族版ER PPCに生かされたと思われる)

 3067年、ドラコ連合の技術者達はこのスナブノーズPPCのコンセプトの再生に成功し、ヘビーPPC、ライトPPCと共にそれを自らの武器庫に加えている。

 

MML(マルチ・ミサイルランチャー) (傭兵部隊バトルマジック)

 3067年後半、バトルマジック傭兵部隊(氏族技術をマスターした技術者達が集まって結成した異色の傭兵部隊。軍や傭兵部隊に対し、メックのアップグレードや整備/補修等のサポートを提供して生計を立てていた)は、惑星“アウトリーチ”にてLRMランチャーで多様な弾頭を使用する実験をしていた。この実験を主導したのは、バトルマジック傭兵部隊指揮官のイェーナ・ナキツ技術大尉である。彼女は氏族のATMを入手した際それにインスパイアされ、SRMとLRMの両方の弾頭を使用できるミサイルランチャー、MML(マルチ・ミサイルランチャー)の開発を思い立ったのである。
 このMMLは、優れた特徴を持っていた。それはSRMとLRM、双方の通常弾頭を使用できるだけでなく、それらの特殊弾頭も使用可能であった。そして更に、アルテミスIVとも互換性があったのである。MMLは、氏族のATMを中心領域技術でアレンジするのに見事に成功したものと言える。

 3067年の10月に惑星“アウトリーチ”で起きたワコー特戦隊の反乱の際、反乱部隊の攻撃からバトルマジックを守るべくMMLのプロトタイプの幾つかは急遽戦場に投入されたが、バトルマジックの壊滅を防ぐのには成功しなかった。そして皮肉な事に、このMMLはその後の“アウトリーチ”を巡る一連の戦闘にてブレイク教徒達に回収され、その価値を見出され、ワード・オブ・ブレイクの手により大量生産が行われて彼等が効果的に使用する武器の1つとなったのであった。しかし、中心領域にとって幸運な事にワード・オブ・ブレイクのMMLの独占は長くは続かなかった――ワード・オブ・ブレイクに立ち向かうほぼ全ての勢力は、3070年までには自分達独自のMML開発に成功し、戦場に配備したのである。

 

コンパクト・エンジン (ライラ同盟)

 コンパクト・エンジンは、連邦=共和国内戦の最中にノンディ・シュタイナー将軍の認可により開発が進められたエンジンである。コンパクト・エンジンは「小型かつ破壊され難いエンジンを開発する」という難題に挑戦し成功を収めたものであり、過去にライト・エンジンをものにしたライラの技術者達の技術力の高さを再び示したものと言える。
 コンパクト・エンジンはそのサイズを通常の核融合エンジンの半分以下にダウンさせる事に成功しているが、重量自体は通常の50%ほど増加してしまっている。しかしながら、小型化による機体のスペースの増加とエンジン自体の被弾確率の減少はその重量増加という欠点を補うものであり、用兵家や設計者達にとっても選択肢が増えるのは悪い事ではないものであった。
 当初、コンパクト・エンジンはライラ同盟が独占していた技術であったが、“聖戦”の勃発によりライラ同盟軍最高司令官アダム・シュタイナー将軍が同盟相手へのコンパクト・エンジンの技術供与を決定した為、その名目上の同盟国家群(コムスター、ドラコ連合、恒星連邦)に普及していった。不幸な事に、コンパクト・エンジンはワード・オブ・ブレイクが戦場で捕獲したもののリバースエンジニアリングに成功した為、ワード・オブ・ブレイクにも普及してしまっている。

 

プロトメック・マイアマーブースター (ブラッドスピリット氏族&アイスヘリオン氏族)

 このプロトメック・マイアマーブスターは、MASCのコンセプトをプロトメックに適用したものである。3066年にアイスヘリオン氏族によって行われていたバトルアーマーとプロトメック用の派生型MASCの研究が、この技術の源流となるものである。依然としてMASC技術につきものの使用時の負荷による機体中枢破損の危険性は存在しているが、プロトメックのサイズと構造の為にメック用のMASCとは異なり、プロトメック・マイアマーブースターは連続使用時の負荷が非常に少なくなっている。その登場以来、プロトメック・マイアマーブースターの技術は徐々に広まっていき、プロトメックを活用する各氏族に行き渡った。

 

コンパクト・ジャイロ (恒星連邦&ライラ同盟)

 コンパクト・ジャイロはコンパクト・エンジンと同様の構想で以て開発されたものであり、そのサイズ自体を減少させる事には成功しているが重量は5割増となっているものである。しかし、デメリットがあるとは言え、それの使用による、メックの急所の1つであるジャイロの被弾確率の減少、利用可能胴体スペースの増加といった効果は魅力的なものがあるものである。
 コンパクト・ジャイロは、ライラ同盟のターヘス・インダストリーズ社とコベントリー・メタルワークス社によって3067年後期には市場への投入が目前となっていた。しかし、“聖戦”勃発の混乱によりその投入は遅れ、本格的に普及が始まったのは3068年の事であった。そして、その頃には恒星連邦も自分達独自のバージョンのコンパクト・ジャイロの開発に成功しており、ライラ同盟のそれの技術独占は崩されたのである。中心領域にとって残念な事に、委託されてコンパクト・ジャイロの評価試験を行っていた傭兵部隊がワード・オブ・ブレイクに離反した為、ワード・オブ・ブレイクもこの技術を保有する事となってしまっている(そして、そこから他の勢力に広まってもいる)

 

マシンガン・アレイ (恒星連邦)

 ワード・オブ・ブレイクの艦隊が惑星“ニューアヴァロン”のNAISを軌道爆撃した際、恒星連邦の多くの開発計画が打撃を受けた。その開発計画の中には、完成したばかりのこのマシンガン・アレイ・システムも含まれていた。そして皮肉な事に、マシンガン・アレイは開発国である恒星連邦ではなく、混乱の最中にその研究成果を盗み出しリバースエンジニアリングに成功したタウラス連合国の手により最初に実戦配備される事になったのであった(恒星連邦もそれから多少遅れて実戦配備を開始している)
 マシンガン・アレイは複数のマシンガンの射撃を同調させ、1つの目標に対して火力を効果的に集中させる事を可能とする射撃管制システムである。恒星連邦がダイヤモンドシャーク氏族との技術交換協定に従いマシンガン・アレイ技術を彼等に供与した為に、その開発完了から約1年後には氏族内でもマシンガン・アレイの普及が開始されている。

 

プラズマライフル (カペラ大連邦国)

 プラズマライフルは、元々はカペラ大連邦国が開発した歩兵用の支援火器である。しかし、3068年、カペラ大連邦国はメック/ヴィークル用のプラズマライフルの開発と配備に成功し、攻め込んできた恒星連邦カペラ境界域軍に対する反撃にそれは用いられたのであった。
 カペラ大連邦国に於けるプラズマライフルの開発は、当初はメックの火炎放射器の長射程化を目指して進められていた。しかし、、程無くカペラの技術者達は同時期に登場した歩兵用のプラズマライフルの発展/応用性に気付き、それの大型化に努力を傾注した。そして、彼等の努力は報われ、完成したメック・サイズのプラズマライフルは戦場にて、熱とダメージの両方を与えるというその特性により威力を発揮したのである。特に、3070年、“シーアン”に襲来したワード・オブ・ブレイクの軍勢の撃退に、プラズマライフルは大きな助けとなった。
 プラズマライフルはカペラ大連邦国の独占兵器であったが、ワード・オブ・ブレイクの違法コピー等により中心領域に広まりつつある。

 

HAG(ハイパーアサルト・ガウスライフル) (ヘルズホース氏族)

 ヘルズホース氏族は3063年に中心領域から撤退した後、将来の雪辱戦に備える為に大規模な軍事技術の開発を行った。そして、その成果の1つが、この“ハイパーアサルト・ガウスライフル”――HAGである。
 HAGは、その開発の際にライラ同盟のヘビー・ガウスライフルの影響を受けた所が大きいものと思われる。しかし、ヘビー・ガウスライフルとは違い、HAGは複数のキャパシターを採用しつつ使用砲弾の軽量化と射撃レートの高速化で威力の増大を図っており、オリジナルのガウスライフルが持っていた長大な射程の維持に成功している。それが作動する時の様子は“ロータリー・ガウス”と言ったものであり、対バトルメック、対車輌、対航空機、とその有効性の幅は広いものがある。結果、この兵器の頭文字であるHAGは登場から程無くして、戦場に於いて不吉な言葉として語られ始めているのであった。
 HAG開発に於いてのヘルズホース氏族の機密保持は非常に固く、3068年にヘルズホース氏族がそれを初めて使用した際に対戦相手となったウルフ氏族は全くの驚きを感じる羽目になったとの事である。また、その初登場から余り時間を置かずにコヨーテ氏族やダイヤモンドシャーク氏族内でもHAGは姿を見せ始めており、ヘルズホース氏族とその両氏族の間に何らかの協定が存在する事を示唆している。

 

APガウスライフル (ジェイドファルコン氏族)

 3069年、ジェイドファルコン氏族は対人用途を特に重視した新型軽量ガウス兵器である“APガウスライフル”の配備を開始した。このAPガウスライフルは、当初はジェイドファルコンのエレメンタル達によって使用されていたが、その威力が認められ程無く車輌やメックでも使用されるようになっていった。
 APガウスライフルは、基本的にはニードルガンにガウス技術を使用したものであり、多数の金属の矢を超音速で発射するという恐るべき兵器システムである。APガウスライフルの超音速で飛ぶ矢は進路上のあらゆるものを引き裂く事が可能であり、その出現は中心領域のバトルアーマー部隊にとって正に災厄であった。更に厄介な事に、その超音速の矢はその運動エネルギーによりバトルメックの装甲も傷つける事も可能なのである。APガウスライフルは汎用性を持つ、優秀な兵器と言えるであろう。
 また、噂によると、他氏族の間でもAPガウスライフルの普及は始まっており、ブラッドスピリット氏族はその新型プロトメックにAPガウスライフルを装備させているとの事である。

 

プラズマキャノン (ダイヤモンドシャーク氏族)

 長年に渡り、ダイヤモンドシャーク氏族の技術者達はプラズマを長距離兵器として利用する事を試みていたが、そのあらゆる努力は失敗に終わり開発は停滞していた。しかし、3068年後期、カペラ大連邦国のプラズマ兵器についての情報が彼等に届いた。即座にダイヤモンドシャーク氏族は手を尽くして研究に必要な量のカペラのプラズマ兵器を入手し、それのリバースエンジニアリングと分析を行った。
 3069年中期、ダイヤモンドシャーク氏族は彼等独自のバージョンのプラズマ兵器――“プラズマキャノン”の製造に成功した。このプラズマキャノンは中心領域のプラズマライフルと比べて対装甲効果は劣っているが、若干の射程の延長と重量低減/小型化に成功している。プラズマキャノンは、相手に熱を加えて焼き尽くすのに極めて優れた兵器であると言えるであろう。

 

マグショット・ガウスライフル

 3050年代後期、恒星連邦の新鋭の先進小火器メーカーであるフェデレーテッド=バレット社(老舗の軍事企業であるフェデレーテッド・インダストリーズ社によって創設されたハイテク小火器事業部門)は、連邦=共和国諜報部によるバトルアーマー/軽装甲車輌用の「高い命中精度とそれなりの対装甲能力を持った長射程の実体弾兵器」の開発の要求に応じた。当時、フェデレーテッド=バレット社は既に個人用携帯型ガウスライフル“サンダーストローク”の成功により名声を得ていたが故に、ガウスライフル技術兵器で以てその要求に応えるのは彼等にとって自然な事であった。その結果として3058年に完成した“マグショット”ガウスライフルの性能は申し分のないものであり、45kgの重量かつ高価格でありながらも長射程と重機関銃に匹敵する打撃力を持たせる事に成功していた。そして、マグショット・ガウスライフルは無事に正式採用される事となり、特殊部隊の分隊火器として使用されたりインフィルトレイターMk.IIバトルアーマーの主力武装となったりした。
 それから間もなくして、当然の事であるが、このマグショット・ガウスライフルのメック/ヴィークル搭載型が用兵側から求められた。マグショット・ガウスライフル自体はそれ程大きな改設計をせずにメック/ヴィークル搭載型が開発できると見込まれ、それは事実でもあったのである。しかしながら、3061年、ジョンストン・インダストリーズ社から“ポーランド”マグショット・ガウスライフルが唐突に登場した際に事態は混迷していく事となる。ジョンストン・インダストリーズ社の“ポーランド”マグショット・ガウスライフルはメック/ヴィークル搭載専用に幾らかの改良がされていたとはいえ、それは明らかにフェデレーテッド=バレット社のものと本質的には同一のものであったのである。これに即座にフェデレーテッド=バレット社はスパイ行為と知的窃盗の罪で法廷に訴え、両社は泥沼の法廷闘争にもつれ込んだ。そして、その長きに渡る裁判の過程で明らかになったのは、AFFCの高官とフェデレーテッド=バレット社の一部社員が共謀してジョンストン・インダストリーズ社にデータを流し不正な利益を得ていた事であった。3065年、両社は和解金の支払い(金額は非公表)とクロスライセンスを締結する事で最終的に和解した。しかし、この事件により本来ならば3060年代の初期には制式化され軍への納入が始まっていた筈であったそのメック/ヴィークル搭載型の調達計画は遅れに遅れていた。また、訴訟で軍への納入ができない為にメック/ヴィークル搭載型のマグショット自体の大量製造がされる訳もなく、それはソラリスの闘技場や民間軍事企業向けに細々と販売されるのみに留まった。
 そして3067年、“聖戦”の勃発により、更なる兵器行政上の混乱と遅延が生じた事から、マグショット・ガウスライフルが制式化されるのは3072年と完成から遥か後の事となった。その後のメック/ヴィークル搭載型のマグショット・ガウスライフルの使用実績はそれなりのものであり、主武装にはならないもののハード・ターゲットにも打撃を与えられる副武装として重宝された。

 

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