星間連盟の怪兵器


空を飛べなかったアホウドリ――“グーニーバード”

 2390年、ジョンソン=アルディス兵器産業は、“戦場を革命”すると称する戦闘車輌を開発した。この“ソーリザー”(惑星“ソーリン”の飛行肉食獣の名)との名称が付けられた車輌は、大型のホバー車輌とジェット戦闘機の合の子と言えるものであった。“ソーリザー”は、その大部分の時を普通のホバー車輌として過ごすが、必要な時には隠蔽型の翼とノズルを展開して航空機になり、そして、必要な時間を飛行した後に地面へ降り立ち、ホバー車輌に戻れるのである。

 しかしながら、歴代のハイブリッド兵器の多くと同様に、この“ソーリザー”も然程の活躍はできなかった。敵を驚愕させたのも初戦――(その時、敵軍は追跡中の“ソーリザー”がいきなり空を飛ぶのを見て度肝を抜かれ、追跡を中断した)――だけで、その後は鳴かず飛ばずであった。何しろ、“ソーリザー”は、ホバー車輌としては装甲が極めて不十分で戦闘に耐えられず、戦闘機としては速度が当時の最鈍足戦闘機の半分しか発揮できずに射的の的といった趣だったのである。故に、“ソーリザー”は、その乗員からも“グーニーバード”との自嘲的な愛称を奉られる存在となったのであった。

 結局、“ソーリザー”は僅か20年しか制式兵器として運用――(しかも、その運用した部隊の大部分は予備戦力扱いの市民軍であった)――されず、その大部分が倉庫に仕舞い込まれる事となり、誰からも忘却される事となった。

 ―コムスター・アーカイブ、3028年

 

ポチョムキン級輸送巡洋艦――“トウモロコシ巡洋艦”

 リガ・インターステラー・シップヤーズ社によって設計/建造されたポチョムキン級巡洋艦は、星間連盟海軍の中で最も奇妙な艦であった。“再統合戦争”後、星間連盟軍は護衛が不十分な事から脆弱な兵員輸送降下船を多数失った事を教訓とし、新たな降下船輸送用戦闘艦の建造を決定した。この新たな艦に求められたのは、降下船を守れる防御力、敵の攻撃を突破できる程度の火力と機動力を持つ事である。そして、リガ・インターステラー・シップヤーズ社は再設計を繰り返した後に、25隻の降下船を収容できる150万tの巡洋艦建造プランを提案し、このプランが最終的に承認されたのであった。

 この“ポチョムキン級輸送巡洋艦”と呼称された艦は、その筒状の船体側面に降下船25隻を収容できるドッキング・リングを取り付け、その合間と艦首・艦尾に武装を配置するといったデザインであった。そして、降下船を搭載した時、それが正にトウモロコシの如き外観であった事から、兵士達は程無くこの艦に“トウモロコシ巡洋艦”という愛称を付ける事となったのである。

 その奇妙な外観にも拘らず、“ポチョムキン級輸送巡洋艦”の戦闘での実績は良好であった。しかし、25隻の降下船が必要とする推進剤の量は莫大なものであり、それを満たす為にはポチョムキン級巡洋艦1隻につき最低でも2隻のタンカーが必要であったのである。これは当時の星間連盟軍が重視していた自己完結性の高いユニットを揃えるという“キャメロン・ドクトリン”を真っ向から覆すものであった。結局、ポチョムキン級巡洋艦は106隻が建造されたものの、“地球”解放作戦後にはその大半が解体されるか予備艦に指定されるかする羽目になった。そして、状態の良い艦はその輸送能力を買われてケレンスキー将軍の“エクソダス艦隊”に編入され、中心領域から姿を消す事となったのである。

 ―コムスター・アーカイブ、3028年

 

センチュリオン・ウェポンシステム――“自滅兵器”

 28世紀後半、SLDFのケレンスキー将軍とドシュヴァリエ将軍は、高度技術兵器を傷つける事なく無力化できる非致死的な兵器の開発を技術者達に命じていた。そして、研究者達は様々なテストとシミュレーションの結果、高度技術兵器を無力化するにはそれが搭載している電子機器の動作を妨害するのが最適であるとの結論に至った。“センチュリオン・プロジェクト”の始まりである。

 EMP兵器の一種であるこの“センチュリオン・ウェポンシステム”は、その幾つかの試作装置が実用レベルには達したが欠点があった――その射程は極めて限定されたものであり、事実上至近距離でないと効果がなかったのである。ここで、技術者達は兵器にトランスポンダーを取り付け、遠距離でもセンチュリオンの効果を増幅させるというアイディアを出した。そして、テストに於いて、そのトランスポンダーは受け取ったセンチュリオンのウェーブを増幅させ、それを装備したユニットは見事にシャットダウンした。これにより、センチュリオンの開発続行は決定され、その兵器としての未来は明るいものであるかに見えた。

 しかし、間もなくして、センチュリオンはトランスポンダーを装備したユニットに対してもその効果が不安定であり射界も狭く使い難いものである事が証明された。結局、多くのリソースを費やした上で、センチュリオン自体はほぼ葬り去られる事となり、その優れたトランスポンダーのみが限定的な目的(バトルメック等が盗難された時などに強制的にシャットダウンさせられるコードを受信する等々)の為に改造されて用いられた。

 だが、この緊急時の安全装置である筈のトランスポンダーがSLDFに大きな災厄をもたらす事となった。現場の大佐以上の階級の指揮官にしか使えないように厳重に管理・秘匿されている筈のシャットダウン・コードがそれ程間を置く事なく漏洩して敵の手に渡り、SLDFがトランスポンダーの利用を停止するまでの間に2個大隊以上の新品のバトルメックが無為に失われたのである。この事件後、センチュリオン・ウェポンシステムは全てがお蔵入りとなり、トランスポンダーも順次取り外されていった(しかし、現在でもトランスポンダーを装備したままののバトルメックが結構な数で存在しているとの事である。また、地球帝国メモリー・コアの発見で明らかになったデータを利用して、センチュリオンの新規製造・開発・改良を行っている勢力が存在するとの噂もある)

 

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