空を飛べなかったアホウドリ――“グーニーバード”
2390年、ジョンソン=アルディス兵器産業は、“戦場を革命”すると称する戦闘車輌を開発した。この“ソーリザー”(惑星“ソーリン”の飛行肉食獣の名)との名称が付けられた車輌は、大型のホバー車輌とジェット戦闘機の合の子と言えるものであった。“ソーリザー”は、その大部分の時を普通のホバー車輌として過ごすが、必要な時には隠蔽型の翼とノズルを展開して航空機になり、そして、必要な時間を飛行した後に地面へ降り立ち、ホバー車輌に戻れるのである。
しかしながら、歴代のハイブリッド兵器の多くと同様に、この“ソーリザー”も然程の活躍はできなかった。敵を驚愕させたのも初戦――(その時、敵軍は追跡中の“ソーリザー”がいきなり空を飛ぶのを見て度肝を抜かれ、追跡を中断した)――だけで、その後は鳴かず飛ばずであった。何しろ、“ソーリザー”は、ホバー車輌としては装甲が極めて不十分で戦闘に耐えられず、戦闘機としては速度が当時の最鈍足戦闘機の半分しか発揮できずに射的の的といった趣だったのである。故に、“ソーリザー”は、その乗員からも“グーニーバード”との自嘲的な愛称を奉られる存在となったのであった。
結局、“ソーリザー”は僅か20年しか制式兵器として運用――(しかも、その運用した部隊の大部分は予備戦力扱いの市民軍であった)――されず、その大部分が倉庫に仕舞い込まれる事となり、誰からも忘却される事となった。
―コムスター・アーカイブ、3028年
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