「よろしい、候補生諸君。今日のディスカッションの題目は防衛要塞――言い換えると、帝国の“キャッスル・ブライアン”についてだ。最初に、現在の要塞の数について私に答えられるかな? ジャクソン候補生?」
「昨年の時点で、120以上の“キャッスル・ブライアン”が存在しております。惑星“ランブレヒト”には6つの“キャッスル・ブライアン”があります――1つの惑星に存在するものとしては最大でしょう」
「非常によろしい、ジャクソン候補生。では、要塞の平均火力と単体の強さについて私に答えられるかな? アイヴィー候補生?」
「個々の“キャッスル・ブライアン”には、各種の兵装とミサイルが搭載された重装甲砲塔が最小でも20基あります。更に、その20基の砲塔に加えて、より小型の50基の砲塔と100の対人掩蓋陣地も存在しております。個々の“キャッスル・ブライアン”は、平均で10の階層と、1個戦車連隊を完全に収容できる格納空間を持ち、戦車連隊は少なくとも5つある独立/隠蔽された出口の1つから出る事が可能です。これらの稼動施設に加えられるのが、要塞自体の受動的な強さです――これらは、通常、山の奥深くに建設されており、集中的な核攻撃を除くほぼ全ての攻撃から要塞を実質的に難攻不落のものへとしています」
「素晴らしい解答だ。さて、ここで重要な問いに答えてもらおう。“キャッスル・ブライアン”の目的とするものは何かな? グリーン候補生?」
「帝国の惑星を、侵略や略奪から守る為ではないのでしょうか?」
「全くの誤りである。要塞が敵の侵略から、その周囲の土地を防衛し侵攻を阻止できると信じる戦略家が常に犯す失敗だ。もし、国を守る為に国境線上に完全な要塞線を建設したとしても、要塞に為せる事は僅かである。“マジノ線”がフランスにもたらした惨劇を見たまえ。フランス人達は、巨大な要塞網はドイツ人達を締め出せると考えた。問題はここだ――彼等は自分達の要塞線に自信を持ち過ぎ、大西洋沿岸の事を考えもしなかった。ドイツ人達がフランスへの侵攻を望んだ時、彼等がやる必要があったのは“マジノ線”の北端を迂回してフランスに入る事のみであった。フランス人達は自らの要塞群に信頼を置きすぎ、“マジノ線”の砲塔をフランス国内に向けて旋回させて砲撃できるように設計する事を考えもしなかった。否――“キャッスル・ブライアン”は、自らを防衛する事以外を想定してはいない。グイリアム候補生?」
「“キャッスル・ブライアン”は、惑星を奪取しようとする敵軍に対して半永久的な障害となる事を意図したものなのではないでしょうか?」
「君は、その考えを詳しく説明できるか?」
「“キャッスル・ブライアン”は、武器・食料・人を備蓄しており、惑星の支配権奪取を試みる如何なる敵にとっても不変の脅威として存在します。国境の惑星の大部分に1つ以上の“キャッスル・ブライアン”が在るのは、敵軍へほぼ意のままに攻撃可能な多数の隠密部隊を配備しておく為なのでしょう。もし、敵軍が本当に“キャッスル・ブライアン”によって守られている帝国の惑星の奪取を望んだとしましても、攻略に莫大な人員と装備の部隊が必要でしょうし、部隊はその惑星にかなりの長期間に渡って拘束される事になるでしょう。これは、大部分の敵軍にとって許容するには厭わしい損失であります」
「素晴らしい解答だ、グイリアム候補生。誰かが資料を研究しているというのがわかるのは、良い事である」
―2423年、マーズ軍士官学校
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