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第4次継承権戦争: ウェイ戦


ウェイ
 惑星“ウェイ”は、AFFSにとって重要な目標であった。この惑星を防衛しているのは、スン重装機兵隊の重量級メック群と多数の市民軍連隊であり、また、この惑星の何処かに化学兵器の備蓄が存在する徴候があった。
 惑星“ウェイ”に存在する放棄された星間連盟の貯蔵施設には致死的なガスが収められている、という噂は数年間に渡りカペラ大連邦国を飛び交っていた。MIIOはそのガスを見つけ出す為に惑星へ工作員を送り込んでいたが、彼等が行えた最高の成果は3つの可能性のある地点の割り出しのみであった。
 第4次継承権戦争の初期段階の最中、MIIO奇襲部隊――“ラビッド・フォックス”との名で知られているチーム――の3個チームはガスが存在すると思われる場所を攻撃した。2つのチームは失敗をし、1つのチームは目標を破壊したが、そのチームもそこに化学兵器が収められていたのかどうかを確認する事はできなかった。
 惑星“ウェイ”攻撃の立案は、AFFS内に於ける大きな議論の源となった。幾人かの士官達は、スン重装機兵隊に対抗するべく少なくとも2個RCTを要求した。化学兵器を懸念するその他の士官達は、惑星“ウェイ”の迂回もしくは最小限の兵力での侵攻を要求した。
 少なからぬ名声を持つ傭兵部隊である第12ヴェガ特戦隊にこの仕事を持ち掛けた事に於いて、AFFSはこの任務の危険性について正直であった。AFFSは惑星“ウェイ”の奪取に対して、この傭兵部隊にその通常の3倍の報酬とその負傷者の治療用に最高の移動医療施設を約束した。そして、第12ヴェガ特戦隊はそれを応諾した。
 第12ヴェガ特戦隊のデルタ連隊と2個大隊のガンマ連隊は、3個装甲連隊と4個歩兵連隊を率いた。敵の化学兵器使用の可能性を警戒したデルタ連隊指揮官かつ侵攻軍の指揮官であるミッチ・ネルソン大佐は、惑星の南方大陸に分散する複数の降下地域を選択した。
 この行動はカペラの防衛者達を驚愕させた――彼等は広大で樹木の茂ったヴァンダンニス渓谷の保護地域に自分達の軍勢を集中しており、カペラの位置から風下である、その反対側へのヴェガ特戦隊の出現を予想していなかったのである。代わりに、ヴェガ特戦隊の戦闘機部隊が、重装機兵隊を1つの集団に抑え続ける事によって最初の血を流した。
 化学兵器の最初の使用は、7月3日に発生した。2機のカペラのトランスグレッサー戦闘機が低空を飛行し、傭兵部隊の第1スティジアン重歩兵連隊を高速で通過した。そして、その2機の戦闘機は兵士達の射撃を回避して頭上から急降下し、濃い緑色の煙を下の兵士達に撒き散らしたのである。最初の数瞬の内に100人の兵士が死亡し、最終的には更に100人が化学的な毒の為に倒れる事となった。
 ダヴィオン軍は多数の生命を失うという高い犠牲を払ったが、彼等はこの惨劇から重要な断片情報を幾つか得ていた。その場にいた衛生兵達は、水が化学物質を中和する事を知った。彼等は迅速に車輌と毒から逃れた人々の洗浄を開始した。彼等はまた、毒の飛沫が些か重く、それが風でそれ程遠くには運ばれないのを意味する事にも気付いていた。その化学物質は、UrbStryc-A――容易に洗浄できる様に設計された毒物――である事が後に明らかとなった。
 スティジアン重歩兵部隊へのガス攻撃についてのニュースは、ダヴィオン部隊に――特に剥き出しである歩兵部隊の間に大きな懸念をもたらした。しかし、衛生兵達による毒の制限についての発見はその懸念を減らす事に寄与し、ヴァンダンニス渓谷の漸進的な包囲は継続された。
 カペラ人達は化学兵器を更に2回使用したが、その各回の効果はより小さなものとなった。整備兵と衛生兵達は、効果の最小化に素早く熟達したのである。毒は、装甲車輌とメックに対しては異なる作用をした。車輌の空気フィルターは毒を遮断したが、毒が溶解した水の蒸発は空気循環路に致死的な物質の微小粒子を放出したのであった。数人の戦車乗員と1人のメック戦士が、この現象で死亡した。整備兵達はガス攻撃後に、全ての空気フィルターを変更する事を学習した。
 支援部隊が小道伝いに渓谷の両側に進入する頃には、ヴェガ特戦隊は首都ヴァンダンニス・シティーに続く主要な高架幹線道路伝いに渓谷の端を前進して昇っていた。小隊規模の部隊に分かれてヴェガ特戦隊は前方を分け進み、程無く他の部隊と合流した。
 重装機兵隊の2個大隊はダヴィオンの進軍に対抗する準備を進める一方、第3大隊は予備隊として保持された。重装機兵隊指揮官ケヴィン・スン大佐は、自分の援軍要請が応じられるまでの時間、ヴェガ特戦隊の大攻勢を鈍らせる事を望んでいた。
 カペラの大隊群は、惑星首都の北30kmの所に存在するボーガンヴィル村付近の長く伸びた道路を抵抗する為の地に選んだ。その地形は、高い木の並木・十字路・複数の小川によって表される、起伏の大きい草に覆われた丘陵である。そして、その真ん中は、主幹線道路(メイン・ハイウェイ)であった。カペラ人達は、主幹線道路沿いに砕いたコンクリートという間に合わせの防御施設を素早く構築した。
 “ボーガンヴィル・ハイウェイの戦い”は、7月18日の夜明け前に開始された。ヴェガ特戦隊の先導小隊は、その戦士達がハイウェイがずたずたに引き裂かれているのを認識する前に、バリケードへ到達していた。カペラの2輌のマンティコア戦車はヴェガ特戦隊に向けて射撃を開始し、数分間で2機のメックを破壊した。その他のメックは機会を最大限に利用し、高架幹線道路の脇にジャンプした。それらのメックは落下から生き残りはしたが、カペラの歩兵部隊からのインフェルノ・ミサイルの斉射を浴びる羽目になった。
 ミッチ・ネルソン大佐はこの遭遇戦についての報告を受け取った時、彼は自分が主力の敵陣と向かい合っている事と、更なるガス攻撃の危険があるにも拘らずダヴィオン軍の結集が必要である事を悟った。そして、彼は残りの朝を自分の部隊を編成する事に費やした。
 正午、ヴェガ特戦隊、2個装甲連隊、3個歩兵連隊は、朝の射撃戦のあった地に向かって移動した。ダヴィオンの戦闘機群は、ガス攻撃を阻止するべく頭上の空を行き来した。
 AFFSのメック部隊と地上部隊は、ハイウェイ沿いで激しい抵抗に遭遇した。ハイウェイと並行して流れる2つの広大な河はヴェガ特戦隊に高架道路へ向かう事を強い、そこにてカペラの戦車群は皺だらけになった道路による遮蔽と高さを利用して一層大きな打撃をもたらした。
 それから、間接砲の砲弾がダヴィオン兵達の間に降り注ぎ始めた。その大部分は高性能炸薬弾であり泥濘の地面に巨大なクレーターを生じさせるものであったが、幾つかの爆発は空気中にもくもくと立ち上る緑色の煙を送り出した。
 ネルソン大佐は自分の兵達に対して突撃を命じ、支援航空部隊に対してはカペラの間接砲部隊の位置の発見と破壊を命じた。そして、ダヴィオン軍は、カペラ人達の位置に向かって殺到した。
 しかし、その砲撃は突然に停止した。ヴェガ特戦隊は知らなかったのであるが、ガスを搭載した間接砲砲弾は当座の間に合わせのものであったのである。1基の間接砲にて、ガス砲弾は早発を起して爆発し、周辺の全ての者を死亡させていた。また、ダヴィオンの戦闘機群は他の2つの間接砲の陣地を沈黙させた。
 その後、スン重装機兵隊はバリケードを乗り越え、高架道路上に存在するAFFSの軽戦車群と歩兵達を一掃していった。そして、この新たな勢いを利用して、重装機兵隊のメック群は下方のヴェガ特戦隊に向かい駆け下りて突撃した。ネルソン大佐とその戦士達は、カペラのガスが自分達の乗機のフィルターに凝結している事を知っていた。ここで水と毒素の飛沫が蒸発して空気供給装置に毒を解き放つまで自分達に時間が余りない事を承知していた彼等は、重装機兵隊に逆襲をした。
 続いての30分間に渡り、戦場はオートキャノンの射撃・レーザー・炎の槍・高く鋭い音を出すミサイルの叫び声で賑わった。優越している訓練度、優勢な数、毒が間もなく解き放たれるのを知っている事による内心の恐怖は、ヴェガ特戦隊をスン重装機兵隊よりも遙かに強力な部隊へとした。そのカペラ人達は逃走し、翌日には惑星“ウェイ”を離れた。惑星政府も素早く降伏した。
 “ボーガンヴィル・ハイウェイの戦い”はヴェガ特戦隊のほぼ2個大隊を犠牲にしており、恒星連邦にとってはこの戦争に於ける最も犠牲の大きな戦闘の1つとなった。


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