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第4次継承権戦争: チコノフ戦


チコノフ
 “チコノフ”は広大かつ大部分が乾燥している世界であり、人類が最初に植民した世界の1つでもあった。その多数の巨大な鉱床は、この世界を素早く産業の中心地へと変えた。そして、工業力が政治力をもたらした事により、最終的にチコノフ共和区の成立を導く事となったのであった。この惑星は、4つの主要な大陸――首都チコグラードの存在するカザン、プスコフ、ウファ、クラスノダルを持っていた。
 惑星“チコノフ”には6個メック連隊が存在しており、それらは特定の都市を守備するか、必要とされる場所へ移動する機動予備として行動していた。ここが自分の故郷の惑星であり非常に重要な地でもあったが故に、リジック大佐は惑星の防衛を相当に改めていた。彼は、恒星連邦の連隊戦闘団――1個メック連隊を中核とする装甲連隊、歩兵連隊、航空大隊の戦闘グループ――の使用についての賞讃者であった。3026年、彼は総計で約80個連隊という惑星の巨大な市民軍を、メック部隊を中心とする“戦闘団”に再編した。これらの“戦闘団”は惑星の天然/人工の要害と合わさり、“チコノフ”を攻略するのが極めて困難な世界へと変えていた。
 AFFSはこの惑星の防衛体制を知っており、そして、高官達が惑星の強襲に南十字星部隊の8個連隊戦闘団全てを割り当てたのはそれが理由であったのである。惑星“ミラ”の首都中で巨大なパレードを行いハンス国王とメリッサ・シュタイナーの結婚を祝った後、南十字星部隊は“ミラ”上の基地に引き下がり、行動が命じられるのを待った。その第1波侵攻への不参加により、彼等の存在は非常に目立っていた。カペラの分析官達は、彼等は反撃を撃退する為の予備として保持されているに違いない、とリャオ首相に対して断言していた。
 しかしながら、第1波の1週間後には航宙艦群が“ミラ”星系に出現をし始めており、これにより“狐”がもう1つの大胆な計画を抱いているのは明白となった。これらの航宙艦群の大部分は最初のAFFS部隊の戦闘への輸送で既に酷使されており、それらの多くがその任務による傷を見せていた。ここで実用に耐えられなくなった航宙艦の代替としては、民間輸送船が利用可能であった。“ガラハド作戦”初期の最中に徴用されたこれらの輸送船群は、その所有者達には全く戻されていなかったのである。カペラの戦略家達はこれらの船を計算に含めてはいなく、AFFSの兵員輸送能力を些か過小評価していたのであった。
 9月23日、100隻近くの航宙艦が“チコノフ”星系へのジャンプを行った。そして、彼等は即座に所定の手順を実行し、その切り離された300隻を越える降下船は惑星“チコノフ”に向かっての高速での突進を開始した。
 ダヴィオンの侵攻軍とカペラの防衛軍の最初の交戦は、このダヴィオンの大艦隊を惑星“チコノフ”まで2日の空間で“宇宙阻止部隊”(ナイトライダーズ)が迎撃した際に発生した。このナイトライダーズは、1隻のヴェンジャンス級空母“ロング・クロー”と戦闘機のみを搭載するように改装された2隻のユニオン級降下船で構成された部隊である。ナイトライダーズは、恒星連邦の降下船群に対して70機の戦闘機を送り込んだ。両陣営の戦闘機の損害は激しいものであったが、恒星連邦の降下船群の全ては生き残った。しかし、少数の降下船は多大な損傷を被り、その乗客を他の船に移動させなければならなかった。
 降下は、ナイトライダーズの生き残り達と惑星軍の航空大隊群の連合部隊を相手にしつつ行われた。幾つかの瞬間に於いては、通常は優勢であった南十字星部隊の戦闘機群の援護が失敗し、それにより、第6南十字星部隊第3大隊ブラヴォー中隊のメック群はハミルトン・ハイランダーズ戦闘団に付属されたトランスグレッサー戦闘機の群れによって破壊されるか無力化されたのであった。
 この困難にも拘らず、南十字星部隊はその降下地域――目標とされた敵の近くか、大体の場合に於いて宇宙港もしくは最低でも空港を持つ軽防備の都市を中心とした場所――への着陸に全体的に成功した。都市と宇宙港を確保してRCTの残りの部隊の着陸を可能にするのが、降下したメック部隊と兵士達の最初の仕事であった。
 この惑星の歴史と社会は、惑星上の主要都市の多くをフェロクリートの防壁と塔を完備した要塞へと変えていた。そして、かような防御地形から離れるのを望まなかったリジック大佐は、戦闘機部隊による嫌がらせ攻撃を除き着陸を妨害しない事を決定した。彼は自分のエリート8個戦闘団に、その防御地点を強化し、開けた地形で敵と戦闘するのを避けるよう命じた。



初期戦闘
 南十字星部隊は、最初に南方の港湾都市ブルンの近くのカペラ部隊を攻撃した。エリートの第7南十字星部隊は、愚かにも都市の防御施設外で自分達に戦いを挑んだカペラの歩兵/戦車連隊群を処理しつつ素早く都市を包囲した。
 この都市は、南十字星部隊の全てが程無く向き合う事となるものの典型であった。人口20000の港湾都市であるそれは、ジャンプ能力を持った豪胆なメックや兵士達以外による登攀を阻止するのに十分な高さと突破に集中的な作業が必要とされる十分な厚さを持ったフェロクリートの防壁によって囲まれていた。この防壁沿いには8つの塔が存在しており、そのそれぞれはオートキャノン、レーザー、ミサイル発射筒が散りばめられていた。それらの塔の内の6つは、都市に存在する3つのエントランス――1つは東に存在、1つは南に存在し、もう1つは南西の海岸沿いに存在していた――を防衛していた。それらの防御施設は、どれ程分厚いコンクリートでも破壊できるPPCや“シティー・バスター”爆弾の時代に於いては古臭く紙の様に薄く見えるものであったが、都市の防衛者達は南十字星部隊が都市の重要な産業にダメージを与える危険を敢えて冒しはしないであろう事を理解していた。彼等は、南十字星部隊が近接強襲という昔ながらのやり方で都市を攻略するであろう事を知っていたのであった。
 ブルンを防衛しているのは、3個連隊の装甲部隊、1個連隊の機械化歩兵部隊、2個連隊の通常歩兵部隊であった。また、防壁の内側には、都市の宇宙港を基地とする10機のスラッシュ戦闘機が存在していた。これらの防衛部隊は、マグレガー装甲偵察隊の1個メック大隊によって指揮されていた。
 9月27日、カペラの防衛部隊は、南十字星部隊が南東から攻撃を開始するつもりである事を示唆する通信を傍受した。自分達自身の独自の迅速な強襲でこの攻撃を失敗させるのを望んだ彼等は2個大隊の機械化歩兵部隊と2個大隊の装甲部隊を都市南方のゲートを通して出撃させ、南十字星部隊の1個連隊の機械化歩兵部隊と1個中隊の軽メック部隊と交戦した。
 南方での戦闘が激しくなるのと同時刻、1個装甲連隊、1個機械化歩兵連隊、中量級メック1個中隊は、都市東方の弧状丘陵の防御地点を占めているリャオの戦車連隊を攻撃した。ここで都市東方のエントランスの内側で待機し続けていたマグレガー装甲偵察隊の1個中隊は、そのカペラ部隊の側面に回り込み都市の防壁に達した南十字星部隊の縦列を遅滞させるべくそこから飛び出した。そして、マグレガー装甲偵察隊の予備中隊は、東方からの更なる攻撃に対する防衛をする為に都市中央部から東方のエントランスへ移動したのである。
 これこそが、ロバート・ステッドマン上級大将が起るのを望んでいた事であった――カペラ人達は気付かなかったのであるが、南十字星部隊の戦闘工兵の1個中隊が、カペラ人達が愚かにも伐採を怠っていた分厚いジャングルを隠れ蓑に海岸のエントランスへ忍び寄っていたのである。戦闘工兵達は、破壊用の爆薬をエントランスの2基の砲塔の基部に設置した。これらの爆薬は砲台の破壊をするつもりのものではなく、防壁の外部近くを走っている電力線と通信線の切断をする為のものであった。それらの位置を突き止め、その情報を南十字星部隊に連絡する為に、MIIOの工作員の1人(女性)がその生命を犠牲にしていた。
 南十字星部隊の戦車部隊とメック部隊の縦列は、このエントランスに向かって海岸沿いの道を疾走した。一方、海に於いては、重武装のホバー戦車群に護衛された、ホバーAPCに搭乗した1個機械化歩兵大隊が、南西ゲートの内側かつ都市の宇宙港の近くである都市部に向かって港湾を突進した。南十字星部隊の戦車群とメック群が都市のエントランスに到達する直前で、戦闘工兵達は爆薬を起爆し、2基の塔をそのレーザー群とPPC群の大部分を発射できない状態へとした。
 海岸のエントランスを防衛していたカペラの戦車大隊は、容赦なく蹂躙された。それと同時に、ダヴィオンのホバークラフトが上陸をし、勇敢なカペラのホバー戦車中隊の為に4輌のAPCを失ったにも拘らず、宇宙港に向かって移動をした。ここで南方ゲートと東方ゲートを防衛し続けていたマグレガー装甲偵察隊の2個中隊は、市庁舎を攻撃しようとしていた南十字星部隊と対決する為に移動した。
 かくしてメックとメックは、都市の南の外縁に向かい合う事となった。マグレガー装甲偵察隊は火力で劣勢であったが、都市に精通しており、高い建造物と狭い街路を使用して南十字星部隊の都市中央部に向けての進撃を遅滞させた。ここで軽戦車の1個小隊が、公園にてマグレガー装甲偵察隊指揮官キーラ・ダフーナ少佐の小隊を明確に捕捉した。そして、このダヴィオンの小隊は、ロバート・ステッドマン上級大将の指揮中隊が到着するまでの間、このメック部隊を拘束したのであった。包囲されたダフーナ少佐は降服の機会を一蹴し、攻撃を仕掛けた。彼女と彼女の小隊は、ステッドマン上級大将を戦闘から脱落させる事を望み、ステッドマン上級大将とその乗機のクルセイダーへ自分達の攻撃を集中した。しかし、彼女等はそれに失敗し、そして、ダフーナ少佐と彼女の小隊は壊滅したのであった。
 南十字星部隊は、都市の内外に存在する残りのマグレガー装甲偵察隊を整然と壊滅させていった。そして、マグレガー装甲偵察隊の崩壊のニュースがブルンに存在する他のカペラ軍に伝わっていった時、それらの部隊は次々と降伏していったが、少数は――特に第1ブルン歩兵部隊は――断固として戦闘を継続した。しかし、1週間が終る頃には、ブルンは南十字星部隊の支配下にあったのであった。
 第8南十字星部隊は、カザンのタウ・ケチ・レンジャーズ戦闘団の北東へ着陸した。リジック大佐は、このメック1個大隊と歩兵/戦車の11個連隊が、第8南十字星部隊の南方の首都チコグラードへの突進を阻止する事を期待していた。戦闘団が9月28日に南十字星部隊を失速させた事により、当初はこの彼の期待は正しいものである様に見えた。2日間に渡り、カペラ軍は漸進的な後退戦闘によって攻撃を遅滞させた。支援連隊群の間の損害は、両陣営に於いて大きなものであった。
 しかし、ここで南十字星部隊によって傍受されたリジック大佐からタウ・ケチ・レンジャーズへのメッセージは、タウ・ケチ・レンジャーズが当てにしていた支援を拒否するものかつ彼等に“最後の一兵まで戦って死ぬのを”勧告するものであった。その時から、タウ・ケチ・レンジャーズは追い詰められた時は激しく戦いはしたが、より素早く南東へ後退し、南十字星部隊の主進撃路から離れていった。そして、戦闘団の他の指揮官達にこの撤退を止めよと脅迫されたタウ・ケチ・レンジャーズ指揮官トムキンズ少佐は、自分の部隊の壊滅を防ぐという自らが持つ権利を引き合いに出したのであった。
 10月2日、南十字星部隊がカーン・サ村とコー・ソーン村の近くに塹壕を掘って立て籠もっている戦闘団に対する大規模な正面攻撃を準備している時に、タウ・ケチ・レンジャーズは自部隊に属する降下船群が待機している東へと逃走した。強力な予備隊となるメック部隊を欠いたカペラの戦闘団は、南十字星部隊がその攻撃を開始する前から打ちのめされた部隊となってしまっていた。そして、その時間が来た時、その攻撃はカペラ人達に混乱を作り出したのであった。1個大隊の強襲メックを支えようとしたチコノフ重戦車連隊の第2大隊の試みに代表される様に少数の部隊は気迫を見せたが、カペラの防御地点には崩壊が見え始めていた。その日が終る頃には、第8南十字星部隊は戦闘団を殲滅し、抵抗を受ける事なくチコグラードへ移動をしていた。



チコグラード
 惑星“チコノフ”の首都であるチコグラードはまた、惑星で最も工業化された都市でもあった。更に、カペラ大連邦国で最大のメック製造工業もその区域内に存在しているが故に、この都市は惑星で最も明白な目標であった――そして、この事こそが、リジック大佐自らに指揮された最高の戦闘団がそこを防衛している理由なのであった。
 都市は昔から3つの区域――行政区域、工業区域、居住区域、に分割されていた。それぞれが自らの防壁と塔によって他の区域と分かたれており、これらの3つの区域は限られた数の道路と地下道でのみ繋がれていた。この3つの複合都市全体は更なる防壁により取り囲まれていたが、それは内部のもの程は立派なものではなかった。
 カペラの計画は、装甲連隊群と機械化歩兵連隊群の戦闘団を外部防壁に配置し、要塞化された区域間に存在する草原地帯を防衛させるというものであった。また、歩兵連隊群は、都市の建造物と工場を守備するとされていた。
 都市を防衛するバトルメック部隊は、非常に不利な時でも勝利をするというその能力で高名なエリート部隊のハミルトン・ハイランダーズの第1大隊と、パーヴェル・リジック大佐の親衛連隊であるステイプレトン・アイアンハンドの1個中隊であった。彼等に与えられた命令は、戦車部隊の補強と来る攻撃の際に機動予備部隊として行動する事であった。
 第6南十字星部隊RCTはチコグラードの100km南方に降下し、その第1週を都市に向かってゆっくり移動する事で費やしながら、現地軍による破壊工作やテロ活動を慎重に回避していった。第6南十字星部隊の指揮官オーヴァル・ゴシエイジ上級大将は、都市への南方からの接近路を確保する事に甘んじ、援軍を待った。そして、10月3日、第8南十字星部隊RCTがチコグラードの北方に到着した。
 10月5日、この2つの南十字星部隊RCTの間接砲部隊は、外部防壁の北方区域と南方区域沿いに存在する重要な武装掩蓋陣地を狙った終日続く弾幕砲撃を開始した。ダヴィオンの戦闘機部隊には、都市の防壁内に駐留するカペラの戦闘機大隊の殲滅と爆弾や掃射による敵部隊への反復攻撃が割り当てられた。この爆撃は、幾つかの砲台と幾つかの防壁の崩壊という成果を挙げた。それから、南十字星部隊の縦列は暗闇を隠れ蓑に(その防壁に開けた)突破口へと向かって移動をした。
 戦車群、APC群、メック群が防壁に近づいた時、それらは次々と爆発し始めた――ここでリジック大佐が北方と南方の接近路に地雷を大量に敷設していた事が明白なものとなった。この大惨事に直面したゴシエイジ上級大将と第8南十字星部隊指揮官ニール・ワーゴ上級大将は、自分の部下達に後退を命じた。
 後に、両上級大将は、この地雷原の敷設を疑いもしなかった事で多大な非難を浴びた。それらの地雷は遥か昔に敷設されていたが故に都市防壁外の地面に変わった点は見られなかったのであるが、彼等が確保を試みている企業の内の1つがその振動爆弾で高名なキーロフ爆弾社であった事から鑑みると、地雷原の脅威は最優先で考慮すべきものであったのである。
 続く3日間は、衝撃砲弾や爆弾――地雷原の直上で爆発し、地雷の大部分を爆発させる圧力の波を作り出すもの――による地雷原の除去に費やされた。そして、この最中に、両南十字星部隊RCTの部隊群はその都市の包囲を完成していた。
 次に強襲は10月8日に行われ、メック部隊と戦車部隊が再び防壁に向かって進撃する一方で、戦闘機部隊が敵地点の頭上から掃射をした。自らのブライトブルーのオリオンに搭乗したリジック大佐は、第8南十字星部隊が都市の防壁に到達した時、ハイランダーズを率いて彼等に立ち向かった。ハイランダーズは、自らが受けたよりも多くの打撃を敵に与えた。例えば、1人の戦士――ヴァレクシー・ドーファン副指揮官(少尉)は、その乗機のストーカーを極めて巧みに操り、自分が戦死するまでの間に2機のメックを倒し2機のメックに損傷を与える事でダヴィオンのメック1個強襲小隊を単独で阻止したのである。
 しかしながら、この気迫に満ちた防御戦闘にも拘らず、両南十字星部隊RCTはチコグラードの防壁内に橋頭保を作り上げた。そして続いての3日間、AFFS部隊は自らが得た戦果の活用を試みた。しかし、あらゆる場所に同時に存在しているかの様に見えたリジック大佐と彼の1個中隊のメックが、南十字星部隊が突破しそうになった地点のどこにでも救援を与えた事により、彼等の進撃は僅かなものかつ犠牲の大きなものとなった。
 諜報工作員達はAFFSの士官達に、ダヴィオン軍が軍需区域の防御を突破したのならばリジック大佐は必ずや都市の軍事産業を破壊するであろう、と警告していた。惑星“チコノフ”を奪取したとしても巨大なアースワークス・バトルメック工場を含むその20の兵器工場を失ったのならば、それは恒星連邦にとって虚しい勝利となってしまう。この極めて重要な工場群を守る為には、何かをする必要があった。ここでの高官達による計画は、危険だが有望なものであった。――全ての局面に於いて稚拙な行動・連携・手際が1つでもあれば、全てが台無しになる可能性があるものである。
 10月11日の朝、第6南十字星部隊RCTと第8南十字星部隊RCTは、都市の居住区域と行政区域に対する大規模攻勢を行った。その朝にはまた、南十字星部隊の気圏戦闘機部隊がカペラの通信施設と深宇宙レーダー施設を攻撃していた。
 この突然の目標変更は、リジック大佐の疑念を深めた。彼は用心をして、自らのアイアンハンドの1個中隊とハイランダーズの3個大隊に工業区域へ入る事を命じた。この事はハイランダーズ達に衝撃を与えた――彼等は他の2つの区域を敵に明け渡すのに良い気分はしなかったのである。しかし、彼等は命令に従い、南十字星部隊が突破をし、その後に都市の行政区域と居住区域に侵入した時も苛立ちながら自制した。
 大佐のその疑念は正しかった。メック工場のすぐ外で待機していた彼の降下船の深宇宙レーダーが接近してくる降下船を感知したのである。リジック大佐は、都市の工業区域内部への敵メックの降下に備えよ、との緊急命令をハイランダーズに下した。
 エリートの第7南十字星部隊RCTのメック連隊、装甲連隊、機械化歩兵連隊は制圧した都市ブルンの外で自分達の降下船群に乗り込み、チコグラードの工業区域への直接降下を実行する為に降りてきたのであった。彼等は、第6南十字星部隊と第8南十字星部隊が2時間も早くその割り当てられていた攻撃を開始し、リジック大佐に警戒をさせてしまっていた事を知ってはいなかった。
 リジック大佐が自分の兵達へ工場の破壊開始を命令した正にその時、第7南十字星部隊の最初のメック群がその降下地域に着陸をした。第6南十字星部隊と第8南十字星部隊はそのタイミングが合ってはおらず陽動がうまくいかなかった事を悟り、第7南十字星部隊をハミルトン・ハイランダーズから守るべく都市の他の区域に背を向けて離れた。
 第7南十字星部隊の降下は、うまくいかなかった。メック連隊の全ては工業区域の南東に存在するアースワークス社工場の近辺に着陸したと考えられていたが、リャオの戦闘機部隊と劣悪な大気状況は連隊を散り散りにしたのである。メック工場の内部と周辺に降下した第7南十字星部隊第1大隊のブラヴォー中隊は、ハミルトン・ハイランダーズ第1中隊の真っ只中に存在してしまっていた。より軽量であるメックの内の数機は主組立工場の巨大で平らな屋根の上に降り立ち、それらはそこから高度の優位を生かして地上のハイランダーズ達を繰り返し攻撃した。より重いダヴィオンのメック群は、建造物外部のハイランダーズ達と戦い突破した。そして、建造物内に入ったダヴィオンのレベッカ・セラーズ大尉は工場のメイン・ドアを閉ざす機構を作動させ、その後は自分が持ち堪えられる事を祈ったのであった。
 ここで戦闘計画が無益になった事を悟ったゴシエイジ上級大将は、自分のメック連隊と装甲部隊へ工業区域の防壁を攻撃するのを命じた。彼がそれを行った同時刻、散り散りになった第7南十字星部隊は再集結と工場への到達を死に物狂いに試みていた。
 工場内部では、ブラヴォー中隊は扉を吹き飛ばしたハイランダーズのメック群に辛うじて持ち堪えていた。セラーズ大尉と彼女のメックは巨大な機械類を遮蔽に使用した戦闘にて、ハイランダーズが侵入してくるのを阻止した。ジャンプ能力を持ったハイランダーズのメック群は屋根に跳躍し、そこの空調装置と排気煙突の森の中にて南十字星部隊のメック群と戦闘をした。
 第6南十字星部隊のメック部隊と戦車部隊は、作戦が開始されてから90分後に工業区域を囲む防壁に突破口を開いた。メック工場に急行した彼等は、後方の貯蔵庫に隠れていたハイランダーズの1個中隊に奇襲された。しかし、このカペラ人達による激しい砲火にも拘らず、第6南十字星部隊は前進をしたのであった。
 セラーズ大尉と彼女の中隊は、全滅する寸前であった。彼女の残存するメックの大部分は激しく損傷していた。そして、過熱による爆発の危険なく動く事ができる少数のメックも、その重兵器の弾薬が枯渇していたのである。彼等はハイランダーズにも同様に大きな損害を与えており、彼等を工場外に抑えていた。第6南十字星部隊が盛大な爆発と共に工場に到着し、ハイランダーズを四散させた時、彼等はセラーズ大尉のサンダーボルトがその左腕を失い、その放熱器が文字通り白熱しているのを見出す事となった。
 至る所に存在するかの様に見える敵により、数の上で大いに圧倒されたハイランダーズは、工業区域の北方ゲートを通っての撤退を試みた。しかし、彼等がゲートに近づいた時、第7南十字星部隊の1個大隊のメック部隊と戦車部隊が彼等に追いついた。その後に続いて起きた戦闘は、第7南十字星部隊の1個戦車連隊が北方のエントランスにて集結するのに十分な時間を稼いだ。そして、ハイランダーズがゲートを通ってダヴィオンのメック部隊から逃れようとした時、彼等はダヴィオンのマンティコア戦車群とパットン戦車群の標的となってしまったのである。降伏をするのに十分な長さの時を生き延びる事ができたハイランダーズのメックは、極少数であった。
 自らの命と自分のメック中隊の生存が危機に瀕しているのを悟ったリジック大佐は、第6南十字星部隊の1個中隊と戦闘をしながら自分の降下船へ搭乗すると、それを即座に離昇させた。ここで侵攻の目標の1つを手の中から逃しつつあるのを見た3つのRCTの上級大将達は、全戦闘機に追撃を命じた。しかしながら、その暴風雨の天候は、カペラの降下船に味方をした。ダヴィオンの戦闘機群がリジックの降下船を取り囲む瞬間もあったのであるが、降下船は雲を出入りしてその追跡者達を撒いたのである。彼の降下船は惑星“チコノフ”を離れ、パイレーツ・ポイント付近に隠れていたスカウト級航宙艦とドッキングした。それから間もなく、このカペラ軍総司令官は、“チコノフ”から数光年離れた“エルギン”星系――当面は恒星連邦軍から安全である星系――に入ったのであった。
 このリジック大佐の離脱により、“チコノフ”での組織的な抵抗は間もなく崩壊した。10月14日、チコグラードの臨時政府は無条件降伏したのである。(その後の)都市の資産についての査定では、僅か2つの工場しか破壊されなかった事が明らかになった。最も重要なのは、アースワークス社のバトルメック工場は戦闘で多大な損傷を受けたのであるが、修復可能であった事である。



チコノフに於けるその他の戦闘
 チコグラードは惑星“チコノフ”の中心かつ最も血腥い戦闘の幾つかが行われた地であったが、他の5つの南十字星部隊RCTも惑星上で激しい戦闘に関っていた。
 第1南十字星部隊は、カザン大陸とプスコフ大陸を繋ぐ地峡をまたがるように存在している都市カラガンダの奪取を命じられていた。この都市は主要な商業センターとして機能しており、重要な科学研究所も存在していた。この都市を防衛するのは、第2アリアナ機兵隊のメック連隊とその戦闘団であった。第2アリアナ機兵隊は、第1南十字星部隊が都市を包囲しようとした時にそれを攻撃する事により、リジック大佐の命令を明らかに無視した。この予期されなかった攻撃は南十字星部隊を動揺させ、それにより歩兵連隊群と戦車連隊群の間には重い損害が発生した。続いての1週間、どちらの側が優位に立ったのかは不明な状態が続いたが、10月10日、第1南十字星部隊はアリアナ機兵隊の戦線を突破し、都市に侵入した。そして、第2アリアナ機兵隊の生き残りの2個大隊は、“チコノフ”から撤退したのであった。
 第2南十字星部隊は未熟な部隊を多数抱えているが故に、8つのRCTの中で最弱の存在であった。第2南十字星部隊は、都市ギジガ――アリアナ擲弾隊の1個大隊とその戦闘団により防衛された、山脈の高所に存在する鉱山都市――の奪取を命じられていた。その重戦闘機による攻撃は敵を弱体化させるのに寄与し、このRCTの指揮官に戦略を慎重に錬る為の時間を与えた。そして、10月9日の攻撃に於いて、新兵達は古参兵の様に戦い、アリアナ擲弾隊を圧倒し、2週間後には都市を奪取したのである。
 第3南十字星部隊は、第1チェスタートン軽機動部隊とその戦闘団からウファ大陸上の北方港湾都市ニューモスクワを奪取した。この戦闘に於ける頂点は、1個連隊のホバー戦車群とホバークラフトに搭乗した1個連隊の歩兵による、都市港湾部への強襲であった。
 第4南十字星部隊には、第2チェスタートン軽機動部隊からの南方都市ウランの奪取が割り当てられた。この都市ウランは広大なジャングルの縁に位置しており、動物毛皮・木材・食品の取引の中心地であった。ここで第2チェスタートン軽機動部隊もまた明らかに命令に従わず、都市外部にて南十字星部隊と会戦した。しかし、南十字星部隊は、森林・平地・丘陵・山脈といったその多様な地形を大いに楽しんだのであった。3週間にて、その優秀な機動と戦術で以て、第4南十字星部隊は都市を攻略し、その過程で第2チェスタートン軽機動部隊の第2大隊と第3大隊を壊滅させたのである。
 第5南十字星部隊には、大ウファ砂漠南端に存在するツェリナグラードの奪取が割り当てられていた。メック連隊を欠いている事でユニークな存在である第5南十字星部隊は、その目標を達成できる見込みが最も低いものであると思われていた。しかし、この悲観論にも拘らず、第5南十字星部隊はその保有する他のRCTの2倍の数の戦車連隊で以て、都市を防衛する第3チェスタートン軽機動部隊を打ち負かしたのであった。
 10月18日のウランの降伏により、惑星“チコノフ”上の主要都市の全ては南十字星部隊の支配下に入った。惑星“チコノフ”は恒星連邦にとって素晴らしい獲得物であったが、敵の活動はその鎮圧に更なる数ヶ月間と20個連隊の占領部隊を必要とした。
 


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