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第4次継承権戦争: トール・ツリーズ戦


トール・ツリーズ
 惑星“トール・ツリーズ”は、恐らく第4波に於ける最も重要な目標とされた惑星であった。長年に渡り、その惑星に多数存在する森林の中にカペラの秘密の生化学研究所がある、との噂を恒星連邦は耳にしていた。その驚異的な背丈にまで育つ遺伝子組換え作物についての噂と300kgの重量を持つ巨大鯨鱒についての噂は、この惑星を戦略家と科学者達の双方にとっての重要目標へとしていたのである。しかし、これらの素晴らしい噂は、一般市民の間で流れる謎の疾病についての噂と惑星の僻地を歩き回る恐ろしいモンスターについての噂によって相殺されてもいた。そして、AFFSは最悪の事態に備えたのであった。
 第4デネブ軽機隊RCTに同行したのは、ニューアヴァロン有害物質緊急対応部隊(New Avalon Hazardous Materials Emergency Team)であった。このHazMETは、工場での化学物質の流出から戦場での生物兵器にまで渡るあらゆるものに対処する為の訓練をされた部隊である。全ての惑星と全てのRCTはそれ独自のHazMETを保有していたのであるが、このニューアヴァロンの部隊はその科学者・技術者・兵士達がNAISの出身であった為に最高のものだと考えられていた。
 諜報報告は、第4デネブ軽機隊指揮官のフレデリックス上級大将に惑星“トール・ツリーズ”では僅かな抵抗しか予想されていない事を伝えていた。その大部分が歩兵部隊である30個連隊は惑星の5つの大陸に分散しており、バーガンディ大陸に存在しているものが最も強力であった。この諜報報告はまた、バーガンディの真南のニューティエラ・デル・フエゴ島が、カペラの研究施設の所在地である可能性が最も高い事を伝えてもいた。
 第4デネブ軽機隊は、バーガンディに降下した。3個市民軍連隊はデネブ軽機隊に立ち向かったが、殆ど結果を出す事はできなかった。優越している敵を阻止する事ができなかった市民軍は、敵の前進を止める事を試みて一撃離脱戦術の採用を選択した。
 ダヴィオン軍は南へ進撃し、惑星の最も大きな2つの都市ファ・スーラとヘレナを奪取した。しかし、この惑星の約10億に達する巨大な人口は、デネブ軽機隊にとって大きな障害である事を証明した。橋・通信ラインの破壊、更には医療施設もの破壊と言ったパルチザン活動は、デネブ軽機隊に自分達独自の補給にほぼ完全に頼る事を強いたのである。
 ダヴィオン軍は前進をした際、秘密のカペラの研究施設の探索を行った。(その間の)捕虜の尋問は、研究施設に手を出すと重大な結果を生むという漠然とした警告を得るのみに終っていた。
 惑星守備隊の10個連隊は、ニューティエラ・デル・フエゴ島に最も近い都市であるバスーラ・クロッシングにて最終決戦を行った。ここで彼等は山脈と複数の小川を使用してダヴィオン軍の裏をかく事を試みた。しかし、ダヴィオンの戦闘機群が彼等の移動を妨害し部隊の位置を追跡し続けた為に、この彼等の努力は失敗した。2週間が過ぎ、都市外縁でのクライマックス的な戦闘が行われた後、その抵抗は崩壊した。
 最初のダヴィオンの部隊がニューティエラ・デル・フエゴ島の狭い海峡を渡ろうとした時、彼等は島の森林内で一連の爆発が起きるのを目撃した。このダヴィオンの部隊の指揮官であったリチャーズ少佐と彼の歩兵大隊は島へ前進した。彼等は程無くして、煙を上げる研究施設の瓦礫と研究施設を爆破した3人のデス・コマンド――リャオ首相の暗殺部隊――の隊員の死体を発見した。
 この爆発から数時間を経ずして、リチャーズ少佐の大隊内の最初の死者は発生した。そして、兵士達は吐き気を感じる事を訴えた後に、昏睡状態へと陥っていった。大抵の場合に於いて、最初の症状から10分以内に死が続いた。1時間で、この大隊の大部分は死亡した。
 彼等の必死の要請はやがてHazMETのチームに届いた。このチームのリーダーであるNAIS出身の生体工学者ヘレン・ソーヤーズ教授はフレデリックス上級大将を探し出し、彼にニューティエラ・デル・フエゴ島で何が起っているかを伝えた。ここで彼女は、フレデリックス上級大将へ自分のチームにこの状況を担当させる事を求めた。そして、フレデリックス上級大将は、それに応諾した。
 ソーヤーズ教授の最初の行動は、バーガンディ沿岸に存在する部隊へ島から離れる事を試みる全ての者を射殺するのを命令する事であった。それから、彼女は特別な探知航空機複数を島の上空に飛ばし、空中の病原体を探索させた。幸運な事に、その航空機群は何も探知する事はなかった――そして、この事はその疾病が接触によって感染するのを意味したのであった。分厚い対生物防護を施したHazMETチームの一部は、島へ落下傘降下した。チームの残りは、バスーラ・クロッシングにて自分達の実験室を設置した。
 彼等は現在もそこに留まり続けている。科学者達は、まだ疾病の特定をしてはいない。それが寿命の短いバクテリアやウィルスなのではないかという如何なる希望も、船一隻分の修道僧と修道女達が最初の死から1ヶ月を過ぎて生き残っている僅かな生存者達を救援すべくバスーラ・クロッシングを発った時に消え去った。彼等は程無くして疾病に罹り、彼等の大部分は即座に死亡したのである。今や“リチャーズ・リグレット”と名付けられているこの疾病の本土への拡大阻止に、全ての努力は傾注されている。
 惑星“トール・ツリーズ”上のダヴィオン軍にとっての唯一の明るいニュースは、彼等が如何なるモンスターとも全く遭遇しなかった事である。


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