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第4次継承権戦争: プロキオン戦


プロキオン
 惑星“プロキオン”――相当な歴史と資源を持つ惑星――は、数世紀間に渡りカペラ大連邦国と自由世界同盟の闘争の原因となっていた。この両国は、惑星の状況を僅かでも変化させる事に多数の生命と大量の装備を費やしていた。
 リジック卿は、自分の新国家が資源を必要としていた為に、惑星“プロキオン”を断固として欲した。彼はこの貴重な惑星を勝ち取る為に、自軍のかなりの戦力を投入する事も厭わなかった。惑星“プロキオン”は豊富な資源を持っているだけでなく、工業力と人的資源も持っていた。そして、リジック卿は更に多くの事も望んでいた。彼の恒星連邦との親しい関係は、惑星“プロキオン”のクレーヴェブルクに存在する放棄されたブリゲイディア・コーポレーション社のメック工場にNAISとその失われた星間連盟技術の再生に於ける大きな進歩を組み合わせる、との構想を彼の脳裏に抱かせていたのである。
 カペラに共感を抱く2個連隊の山岳ゲリラは1年間に渡り、惑星の首都カルガリーの外縁の山嶺の丘陵地帯にて戦っていた。マーリックの歩兵部隊、第2シリウス槍機兵隊の重量級メック群と戦闘機群の最高の努力にも拘わらず、それらの山岳民達は生き残り、山岳内の宝石鉱山と都市を行き来するトラック輸送車隊を破壊する事によって生計を立てていた。
 これらのゲリラ部隊の忠誠の対象をリャオからチコノフに変えられるであろうと期待したリジック卿は、第1共和国連隊と第2共和国連隊、12個通常連隊を惑星“プロキオン”に投入した。シリウス槍機兵隊の戦闘機群は降下を妨害する為にベストを尽くしたが、チコノフ軍のあるグループは1隻のヴェンジャンス級空母“オマハ・ビーチ”と共に到来した。この巨大な降下船から来た40機の戦闘機は2個メック連隊に同行する戦闘機を増強し、シリウス槍機兵隊の東と西の降下地域の支配権を獲得した。
 一度空を確保した後、チコノフの降下船群は20隻の小型強襲艇――そのそれぞれが1輌の地上車輌と1個小隊の歩兵部隊を搭載していた――を発進させた。これらの小型艇は、惑星にとって死活的な経済的重要性を持つと見なされ、TFRAにとってカルガリー攻略に重要であると見なされた、3つの橋に向かった。リジック卿はこれらの小型艇とその兵員達に対して、曲がりくねるチャールズ河に架かる、ベイソン橋、チャールズ橋、ヴェイコール橋の確保を命じた。ベイソン橋とヴェイコール橋は、TFRAの降下地域に最も近かった。そして、チャールズ橋はカルガリーと第2シリウス槍機兵隊に最も近く、それ故に強襲艇の大部分はこの橋の奪取と保持に割り当てられていた。
 これらの橋の奪取の行動は困難なものであったが、ベイソン橋とヴェイコール橋は予定表の通りに落せた。しかし、チャールズ橋を奪取する為の行動は、より多くの時間を必要とした。敵の意図を推測したシリウス槍機兵隊の1個中隊が、橋の両端を封鎖していたのである。
 チコノフの兵士達は数輌の重戦車を持ち、そのミサイルランチャーにインフェルノ弾を持っていたが、メックに持ち堪える事はできなかった。
 ここで橋の奪取を任じられたチコノフ軍の指揮官サンドラ・シュタンコウスキー少佐は空襲を要請した。チコノフ戦闘機の一隊は即座に到着し、橋に損害を与える事なく槍機兵隊のメック群を四散させるという相当な技量を示した。その後、シュタンコウスキー少佐の部隊は間もなくして橋の支配権を獲得し、それから長期の攻囲に備えた。
 リジック卿は可能な限り時間を無駄にせずに自軍を動かした。第2共和国連隊が完全に集結する前でさえも、彼は既に自分の指揮中隊と共に動いていた。そして、彼と彼の中隊は、シリウス槍機兵隊のメック群と遭遇した最初の部隊となった。この彼の中隊とシリウス槍機兵隊の中隊の間の戦闘は、短時間かつマーリック軍にとって損害の高いものとなった。
 東からカルガリーに接近した第1共和国メック連隊とその歩兵/装甲連隊群は、地図にない沼沢地に嵌り込んでしまった。カーラ・ニソラ大佐は、腹立たしい程の遅さの行軍を経験する事となった。この不幸を更に重くしたのは、マーリックのホバークラフトの1個大隊が沼沢地の木々の間を勢い良く出入りしては彼女のメックを射撃し、如何なる反撃の砲火も彼等を捕えられる前に消え去っていった事である。
 チコノフ共和国軍が前進している時、シリウス槍機兵隊のメック部隊はチャールズ橋に戻っていた。しかし、戦闘機部隊は、共和国の強襲部隊に幾つかの防御地点の準備をするのと橋近くの建造物を占めるのに十分な時間を与えていた。この事は彼等にその地歩を保持する機会を与えたが、それでも尚、彼等はメック部隊に対しては長期間持ち堪える事は不可能であった。
 その間、リジック卿の部隊はヴェイコール橋を保持している強襲部隊を救援していた。そして、前に押し進む第2共和国連隊は、シリウス槍機兵隊の2個中隊と多数の支援部隊と遭遇した。ここでマーリックのメック群は建造物の群れが提供する遮蔽を用い、カルガリー周辺の部隊が緊密な防御を作り上げられるだけの時間、チコノフ軍を遅滞させる事を望んだ。しかし、リジック卿はそれを許さなかった。彼は自分の最高速の装甲部隊とメック部隊を敵の位置の正面に直接続くコンクリートのハイウェイに送り込み、それから建造物群の背後に回り込ませた。この共和国軍部隊が非常に高速で移動した為に、シリウス槍機兵隊は彼等が僅か200m先を通過した時も極僅かしか命中弾を出せなかった。その後、チコノフ軍はシリウス槍機兵隊の背後を急襲し、重い損害を与えて彼等に撤退を強要した。
 一方、第1共和国連隊は漸く沼地を踏破して、ベイソン橋の部隊を救援した。しかしながら、第2共和国連隊と連結するべく西に進んだ第1共和国連隊は、マーリックの戦車連隊の中に飛び込む事となった。この事は第1共和国連隊の前進を再び遅滞させたが、メック部隊は補給物資で回復した後にマーリックの戦車部隊を蹂躙し、調整の取れた進軍を行った。
 チャールズ橋を保持する為の努力は絶望的なものになっていった。シリウス槍機兵隊のメック群は、自分達を悩ますチコノフの射手達がいる建造物を破壊するという戦術を採ったのであった。これにシュタンコウスキー少佐は再び空襲を要請したが、この時は戦闘機群がまだ飛行できる準備を終えていなかった為にその要請は叶えられなかった。
 リジック卿の部隊は橋まで1km以下となった地点にて、シリウス槍機兵隊の1個大隊と2個装甲連隊に遭遇した。第2共和国連隊は、当初はシリウス槍機兵隊の迂回と橋への急行を試みたが、シリウス槍機兵隊はそれを阻止した。その結果として起きた戦闘にて、リジック卿のオリオンはマーリックの中佐であるジェニー・ツーフェザーズのマローダーと対戦した。共和国連隊が戦闘で優勢になり始めた時、そこがボクシングのリングであるかの様にオリオンとマローダーは自分達だけの勝負を闘った。その青のオリオンによる初期のミサイルの命中はマローダーを鈍くしたと思われる――その時点から、マローダーは自分が与えるよりも多くの損傷を受ける事となったのである。マーリックの大隊が東に逃走するのと同時に、そのマローダーは転倒すると爆発した。
 第1共和国連隊は最終的にチャールズ橋に到着し、シュタンコウスキー少佐と彼女の部隊であったものの残余が瓦礫と車輌の残骸の間で耐えているのを発見した。斉射に次ぐ斉射を浴びせていた、橋の片側の先に存在していた1機のマーリックのバトルマスターと橋のもう片側の先に存在していた1機のアトラスは、共和国のメック群が射程内に入った時にそれらに向き直った。そして、チコノフのメックが次々と到着した時、その最後に残った2人のマーリックの戦士は無意味な死を遂げるよりも降伏する方を選んだのであった。
 橋を失い、指揮官が戦死し、そのメックの大部分が手酷く叩かれた為に、残存するマーリック軍は丘陵に撤退した。しかし、そこにて彼等は2個連隊のゲリラの攻撃を受ける事となり、1週間後、彼等は纏まって惑星“プロキオン”を離れた。この時、戦闘のスリルに恍惚となったリジック卿は“エルギン”のソーテック将軍に対して短いが感情に富んだメッセージを送っている。そのメッセージはこう読めた――「我々は敵と交戦し、それを完全に敗北させた。全く素晴らしい一時だった」と。


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