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第4次継承権戦争: ハロウズ・サン戦2


ハロウズ・サン
 惑星“ハロウズ・サン”では、第8ゲイルダン連隊がウルフ竜機兵団のガンマ連隊とエプシロン連隊に、ベルヴォア要塞の周辺に建設された防御拠点への後退を強いていた。
 その1ヶ月後、ウルフ竜機兵団は第1次防衛線の放棄を強要された。惑星“ミザリー”で戦死したガンマ連隊のメック戦士に因んで“ブルースワン”とのコードネームが付けられた第2次防衛線は、惑星“ハロウズ・サン”に敵が来る前にウルフ竜機兵団が掘った塹壕陣地・たこつぼ壕・パリセードの連なりである。基地から約1km離れた場所に建設されたそれらの塹壕は、大部分のメックに遮蔽を与えるのに十分に深いだけでなく、最も長い脚を持つメック以外では跨ぎ越せない程に十分に幅広いものであった。
 ヴィクター・ニコラス将軍は、ゲイルダン連隊の戦闘機部隊に飛行してベルヴォア要塞の周辺の防御拠点を爆撃する事を命じた。しかし、ニコラス将軍は熟練の戦士であったが、気圏戦闘機部隊とそのパイロット達に対する姿勢に於いてはメック部隊の士官の多くを象徴する様な人物であった。メック戦士はしばしば、バトルメックこそが唯一の腕で決まる兵器であると見なしているが故に航空兵を見下すものである。ドラコ連合軍(DCMS)に於いては、それに性差別主義という要素も加わっていた。多くの女性達――平等の機会を掴むだけの為に自分達が優秀である事を証明しなければならなかった者達――は、気圏戦闘機を飛ばす事を選んでいた。そこでならば、そのより小柄な身体とより敏捷である反射神経は、女性達へ男性達に対する優越した立場を与えるからである。この気圏戦闘機大隊に対する軽視の為に、ニコラス将軍が新たな滑走路の建設は不必要であるとの決断を下した際、第8ゲイルダン連隊は戦闘から数百km離れた場所に自らの戦闘機部隊を残していた。結果、ニコラス将軍が気圏戦闘機部隊に命令を下した時、彼等はその大気圏内での作戦距離に限界を抱えていた。彼等の内のより重い戦闘機群は、目標に対する爆撃の実施の際にはその帰投限界時間までに僅かな時間しか持てない事になっていた。
 2月13日の黎明に開始された最初の爆撃は、ドラコ連合軍にとって惨憺たる失敗であった。ウルフ竜機兵団に付属されていた戦闘機群はベルヴォア要塞内の飛行場から飛び立ち、ゲイルダン連隊の戦闘機群が爆撃を開始しようとしている正にその時に彼等と激突したのである。その搭載物によって鈍重になっており、余りにも推進剤が減少しており、適切な機動をするのが不可能であったゲイルダン連隊の戦闘機群は、それらのウルフ竜機兵団の戦闘機には抗し得なかった。襲撃を実行した15機の戦闘機中、4機が撃墜され4機が手酷い損傷を受けた。そして、全機が目標に達する事なく引き返したのであった。
 以後の攻撃も、僅かにそれより効果的なものに過ぎない事を証明した。ドラコ連合の戦闘機の内の数機が爆撃機に指定され、一方、敵戦闘機群の接近時に投棄する外部推進剤タンクを搭載したその他の機体がそれを護衛して飛行した。しかし、この戦法は爆撃機の幾らかにその任務を完遂する事を可能としたが、それらが与えたダメージは最小限のものであったのである。
 ゲイルダン連隊のメック群は、2月から3月に掛けての間はそれより多少ましであった。彼等は、幾つかの戦術を試した。その内の1つは、暗闇を隠れ蓑にウルフ竜機兵団を予想外の方向から攻撃するというものである。そして、もう1つは、自軍を分割して2方面から攻撃をするというものであった。しかし、その何れも、クリタ人達が遮蔽物を持つウルフ竜機兵団に接近した際には脆弱になってしまうという事実を無にする事はできなかった。
 この気圏戦闘機大隊の失敗と多数の戦術的駆け引きの失敗により、ニコラス将軍は自らの2個中隊の戦闘工兵に頼る事とし、彼等に対してウルフ竜機兵団の方に向けてトンネルを掘削するのを命じた。歩兵と工兵達が敵への進撃路の作業をしている間、ゲイルダン連隊のその他の部隊は探査攻撃で以て彼等の行動の隠蔽をした。彼等がその距離のトンネルを掘るのには8週間を要した。
 6月25日の早朝、ウルフ竜機兵団は複数のトンネルを発見し、それらを爆破した。しかし、それでトンネルの1つは崩壊し1個小隊の歩兵を死亡させたのであるが、高度に訓練されたクリタの歩兵達は要塞内の他の7つのトンネルから躍り出たのであった。ドラコ連合の歩兵達は恒星連邦の市民軍を容易に片付け、要塞内部の複数の高所を占拠した。
 かくして、要塞の外辺部にいたウルフ竜機兵団は突然に背後からの脅威を受ける事となった。そして、彼等が内部の敵と交戦すべく向きを変えようとするや否やゲイルダン連隊のメック部隊が塹壕線を急襲した。ここでクリタ人達はその塹壕線の踏破に多少の困難を抱えたのであったが、それでもウルフ竜機兵団にはドラコ連合の歩兵部隊を無力化する時間や新たな防御地点を構築する時間がなかった。
 要塞内部の戦闘は、広範囲に渡る乱戦へと急速に悪化した。防御線が存在せず陣形も存在しなかったが故に、対戦するメック部隊は数時間に渡り互いを射撃し合い、それと同時にウルフ竜機兵団にとってのクリタの歩兵部隊についての問題も悪化していったのである。その日の夜と次の日の全日を通して、その戦闘は激烈であった。メック達は弾薬を使い尽くしその兵装システムが破壊された際には、接近しての格闘と瓦礫の欠片の棍棒としての使用を開始した。
 損害は非常に高いものであった。エプシロン連隊は、バクスター・アーバスノット大佐を含むその高級士官の全てを失った。ガンマ連隊の第4臨編中隊は、自らが殲滅されるまでの間にゲイルダン連隊の1個大隊全てを壊滅させた。
 建物から建物、通りから通りに渡って、ウルフ竜機兵団は宇宙港を保持するのみになるまで後退していった。ここで(宇宙港の)ウルフ竜機兵団の降下船群の砲火は戦闘機部隊を素早く追い散らし、ゲイルダン連隊に後退を強いた。生き残り達を乗船させた際、降下船群の乗員達は、かつては2個連隊であったもの――惑星“ハロウズ・サン”を巡る戦いを8個中隊で開始したものが僅か3個中隊の戦力にまでなっており、その大部分の戦士が負傷しメックも損傷していた――を見て悲しみに沈んだ。6月27日、ウルフ竜機兵団の降下船群は惑星“ハロウズ・サン”を離れ、惑星“クロッシング”へと向かった。


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