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第4次継承権戦争: ハロウズ・サン戦1 |
ハロウズ・サン
9月12日、第8ゲイルダン連隊は惑星“ハロウズ・サン”に降下した。誤った情報の所為でヴィクター・ニコラス少将に指揮されたドラコ連合軍は、ウルフ竜機兵団ガンマ連隊とエプシロン連隊の300km南方に着陸していた。そして、出だしから敵の咽を締め上げるのが不可能となった事に激怒した第8ゲイルダン連隊の重メック群は、AFFSの1個戦車大隊を退けると、降下地点の側に存在した小さな農業共同体であるトレントンの一般市民達を虐殺した。
更なる一般市民達の死を阻止するべく、アーサー・デューモント少佐に指揮されたガンマ連隊の2個中隊はベルヴォア要塞の周囲の丘陵に準備していた防御地点を離れ第8ゲイルダン連隊と交戦した。彼等はドラコ連合軍を徐々に北方へと、村々から離れておりウルフ竜機兵団の残りが存在している方向へと、引き付けていった。
ジンクソール河沿いの入り組んだ丘陵であるジンクソール・クロッシングの真北にて、交戦は勃発した。ドラコ連合のメックの1個大隊は河を渡りきり、輸送車輌の部隊は水を掻き分けて進み、他の部隊は自分達の番が来るのを待っていた。デューモント少佐は自らの中隊にこの渡河をした大隊への攻撃を命じ、彼等を河岸から引き離した。
メック群が戦闘を行っている時、ドラコ連合の輸送車輌群は必死になって河を渡り脇へ退ける事を試みた――そうすればゲイルダン連隊の他のメック部隊も河を渡り戦闘に加入する事ができるようになるからである。その最初のメックが河に進入した正にその時に、ウルフ竜機兵団の第2中隊は攻撃を仕掛けたのであった。彼等は最初に北の輸送車輌群を破壊し、その後に、河の中央に立ちその身を晒しているメック群へ向き直った。デューモント少佐の中隊を追跡しているメック部隊が戻ってくるまでの間に、第8ゲイルダン連隊は11輌の輸送車輌と2機のメックを失っていた。そして、ウルフ竜機兵団は北に姿を晦ましていた。
ニコラス将軍は、デューモントの2個中隊を捕捉するべく自らの連隊を急き立てた。彼は、ニューキャッスルのストリング森林にて彼等をほぼ捕捉した。“ハロウズ・サン”原産の連なる木々の群れは、その枝から長く太い粘着性の巻きひげを生やしていた。それらはメックの移動を実際に妨害する事はできないものであったが、非常に鬱陶しいものであった。ニコラス将軍は、デューモント少佐がその森林を通り抜ける際には速度を落すであろう事を正確に予測していたのである。自身の連隊に全速進撃を命じたニコラス将軍は、ウルフ竜機兵団が森林から正に出ようとしていた時に追いついた。ゲイルダン連隊はその優越した火力を使用し、ウルフ竜機兵団の不意を衝いた。そして、数瞬の間ではあるが、前進するドラコ連合のメックの大隊はウルフ竜機兵団を包囲するかの様に見えた。しかしながら、最後の瞬間、デューモント少佐は4機のメックを犠牲にしつつも見事な一撃離脱機動を実施し、自分の部下達を敵から無事に逃したのであった。
ユースティス間道では、デューモントの2個中隊のウルフ竜機兵団はゲイルダン連隊を、ガンマ連隊とデルタ連隊の両指揮中隊による待ち伏せ攻撃の中に誘い込んだ。ウィルヘルミナ・コルシュト大佐とバクスター・アーバスノット大佐の重中隊群は、間道の両側の防御の施された地点から砲撃をしてゲイルダン連隊を奇襲した。そして、ゲイルダン連隊が反応をするまでの間に、その2機のメックが破壊され4機のメックが撃破されていたのであった。やがてドラコ連合のメック群の優越した火力が高い損害をもたらし始めた時に、デューモント少佐の中隊群はウルフ竜機兵団の重中隊群の後退を援護する為に舞い戻った。
9月後期、ゲイルダン連隊はベルヴォア要塞周辺の最初の防衛線に到達した。その急速建設された砲台群と地雷原の複合施設――それらの多くは1日前に完成したばかりであった――を突破する為の試みは、続いての月の多くを費やすものとなり、ドラコ連合の連隊に高い代償を払わせた。この砲台の多くはウルフ竜機兵団の歩兵達が配置に就いており、彼等の断固たる決意はドラコ連合メックを何機も打ち倒していったのである。
AFFSはウルフ竜機兵団に、1個戦車連隊、2個機械化歩兵連隊、3基のスナイパー間接砲を提供していた。この事はゲイルダン連隊を不利な立場に置いた――彼等は1個機械化歩兵連隊しか伴ってきておらず、彼等の戦闘機部隊は余りにも遠く離れた場所に配置されておりウルフ竜機兵団の戦闘機部隊を素早く阻止する事はできなかったのである。
10月後期、ニコラス将軍は戦術を変更し、その防御の突破を試みるよりも、ベルヴォア要塞とウルフ竜機兵団を包囲する方を選択した。これこそが、アーバスノット大佐とコルシュト大佐が恐れていた事であった。正面ゲートを防衛するのは容易い事であった――しかし、ドラコ連合はその残された8個中隊のメックを非常に広範囲の地域に分散させる事をウルフ竜機兵団に強いたのである。そして、それは敵の突破の勢いを削ぐのに少数の予備しか存在しない事を意味していたのであった。
ここで惑星を回る長大な楕円軌道に存在していたウルフ竜機兵団の降下船群はベルヴォア要塞からの撤退準備をせよとの命令を受け取ったが、彼等が着陸をする為の低軌道に到達するには数週間が必要であった。両大佐共に、第10デネブ軽機隊を(援軍に)呼び寄せるのは遅きに失したものである、と考えていた。
第8ゲイルダン連隊はウルフ竜機兵団の守備位置の包囲を完成させた後、小休止をした。この小休止の理由は未だに不明であるが、チー将軍がこの時点でようやくゲイルダン軍管区の指揮権を掌握したが故に、第8ゲイルダン連隊は公式の続行許可が下るのを待っていたからではないかと思われる。
ウルフ竜機兵団は、この休止期間を自らの部隊の再編と再配置に利用した。中隊群はそれぞれが層を成す小隊へと分割された。第1層は重い火力小隊で構成され、第2層は打撃小隊で構成され、そして、防衛の最終ラインは指揮小隊で構成された。戦車部隊と歩兵部隊――その時までにインフェルノ・ミサイルのみで武装させられていた――は、ウルフ竜機兵団の握る唯一の予備部隊となった。
最初の大規模な攻撃は、12月11日の夜に開始された。ゲイルダンの強襲メック群の2個中隊は、ニコル中隊に攻撃を行った。この時に偶々その防衛区域を哨戒していたダヴィオン歩兵の1個小隊は、ドラコ連合のメックの内の2機をインフェルノで以て燃やす事を為し遂げた。夜の空気の中で巨獣が松明の様に燃え盛るこの光景は、ウルフ竜機兵団に砲手達に容易な目標を与えた。2つのトーチカと1基のスナイパー間接砲は、程無くしてその両方のメックを破壊した。
しかしながら、ドラコ連合のその他のメックは砲台群を破壊し、ニコル中隊を攻撃すべく前進した。火力小隊の4機のメック――2機のアーチャー、1機のシャドウホーク、1機のグリフィンは、自らの長射程兵器を使用してドラコ連合の巨大なメック群との乱打戦を回避した。ウルフ竜機兵団のこのメック部隊は、彼等が打撃小隊の1機のフェニックスホークと3機のスティンガーと遭遇する事になるまで後退を行った。
それらの軽量級メック群は、ドラコ連合メック部隊への接近を試みた。そのスティンガーに搭乗したメック戦士ボズウェルは、ジャンプをしてゲイルダンのドラゴンの真後ろに着地した。そして、この巨獣が向き直る前に、彼女は自機のレーザーをその腰関節部に向けて射撃した。以前の戦闘で既に損傷していたその腰部の装甲は剥がれ散り、腰部の機構を剥き出しへとし、やがてそれは赤熱して爆発した。それから2度に渡り彼女はこの戦法を遂行し、1機のウォーハンマーと1機のマローダーに対して重大な損傷を与えた。しかし、その4度目のジャンプに於いて、1機のサイクロプスのオートキャノンは彼女のメックの胴部を捉え、そのスティンガーを空中で破壊したのであった。
この彼女の喪失にも拘らず、ニコル中隊はゲイルダンのメック部隊を遅滞させていた。ここで、ダヴィオンのエンフォーサーの内の1機を操縦しているニコル大尉と彼女の指揮小隊が戦闘に加入した。そして、彼女の小隊の4機のメックは、敵の進撃を停止させた。日が昇る頃には、ドラコ連合軍は撤退中となっており、ウルフ竜機兵団戦闘機部隊による追撃を受けていた。ドラコ連合は5機の重量級メックを失っており、一方、ニコル中隊は3機のメックを失っていた。
次の週の全ての夜に渡り、ドラコ連合はウルフ竜機兵団の防衛地域の方々に同様の攻撃を行い、それらは同様の結果に終った。それらの戦闘に於いてドラコ連合は30機以上のメックを失ったにも拘らず、ウルフ竜機兵団が12機のメックとその歩兵支援の多くを失っていた事から、ニコラス将軍は自分が優位に立っていると感じていた。
アーバスノット大佐とコルシュト大佐は、自分達の軍が現在の防衛戦を維持するには余りにも薄く広がり過ぎている事を理解していた。1月5日の夜、ウルフ竜機兵団はベルヴォア要塞のすぐ外に存在するもう1つの砲台線に後退した。その後退を守る為に、戦闘工兵達は後方に地雷原と遠隔探査装置を設置していった。この文章を書いている現時点では、ウルフ竜機兵団は尚もクリタ軍に対して持ち堪え続けているものである。