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第4次継承権戦争: カリソン戦


カリソン
 ファルコンズ連隊が惑星“カリソン”から引き抜かれ、恐らくマーリックの侵攻の為の開始位置に就いている、との諜報報告を受け取った時、レジス将軍は自機のカタパルト・メックを出撃させてシェン・ホットヘッズを惑星“カリソン”に引き連れていった。この作戦の主要目標は惑星の征服ではなく、そこに残留しているマーリックのメック連隊――決して行われる事のなかったマーリックの攻勢の為に惑星“ヴァン・ディーメンW”から移動してきていたマーリック防衛軍のエリート軽量級メック部隊――に、可能な限り激しく損害を与える事であった。
 レジス将軍は、ライラ共和国がこの連隊――この宙域に於ける傑出した部隊であり自由世界同盟にとって相当な軍事的/社会的重要性を持つ部隊――に打撃(敗北)を与えられたのならば、その敗北は自由世界同盟全域に波紋を起すであろう、と確信していた。シェン・ホットヘッズはマーリック防衛軍と同等の格を全く持ってはいなかったのであるが、レジス将軍は奇襲を計算に入れており、シェン・ホットヘッズがその撃墜表にマーリック防衛軍の徽章を誇示する事ができるであろうし、シェン・ホットヘッズが3倍の危険手当を受け取れる事になるであろう、と誘惑してもいた。
 危険な非正規ジャンプポイントに出現し、慎重にアステロイド・ベルトを航行した後、降下船群は疾走を開始した。レジス将軍はほぼ即座に、マーリック防衛軍の惑星“カリソン”への存在についての自分の諜報報告が正確であった事を知った。ここでマーリック防衛軍の3機の戦闘機が、降下中のシェン・ホットヘッズのメック群と交戦するべく飛び上がった。傭兵連隊の司令船である派手に塗装された“レイミング・スカル”の降下機構によって自分のメックが射出された時でさえも、レジス将軍は何故たった3機のマーリック戦闘機しか攻撃して来ないのか他の戦闘機がどこにいるのかを不思議に思っていた。
 (この時)混乱が惑星“カリソン”を包んでいた。マーリック防衛軍は惑星上に確かに存在していたのであるが、彼等は惑星“カリソン”を発ち惑星“タリタ”に戻ってチコノフ自由共和国軍と戦闘をする為の準備の只中であった。連隊の半分は既にその降下船群に収納されており、連隊のもう半分も忍耐強い旅行者の如くファローシャ宇宙港の滑走路上で列を成して待っていたのである。更に、一連の通信のエラーと突然の変更にも責任があった――マーリック防衛軍の出発の所為で惑星の追跡ステーションを運用する男女達は接近してくる降下船群がマーリック防衛軍用のものだと思い込んでしまったのであった。
 空襲警報が漸く鳴らされた時、滑走路上にいたマーリックのメック群は約1個大隊の戦力を持つ1つの部隊に纏められた。マーリック防衛軍を異例の存在にしていたのは、LAMがこの連隊の3/4を占めていた事である。これらのランド=エア・メックは、気圏戦闘機とメックの特性を混ぜ合わせ、その両親的存在のどちらにも劣った戦闘マシンとして生み出されたものである。しかし、それでも尚、それらは準備のできていない敵手を混乱させる能力を持つものでもあった。マーリックのメック群の大部分は予測されたシュタイナーの降下地域に向かって東に進んだ。タケイ・ブライス=マーリック大佐は、連隊の残りが降下船から降りて戦闘に加入するまでの間、ライラ人達を遅滞させる事を望んでいた。
 彼は自部隊の半分を空中に送り、残りを空港に続く狭い峡谷に入らせた。空に上がったLAM部隊は自分達に可能な限り降下してくるメックを多く落す事を試みた。しかしながら、シェン・ホットヘッズの戦闘機部隊はメック群を護衛しており、僅か1機のメックを損傷させた後に彼等よりも弱体であるLAM部隊は撤退を強要された。
 一度地上に着いた後、レジス将軍は敵に向かって進軍する際に通常使われるものよりも広がった隊形に自部隊を改めた。また、多数のミサイル発射筒を持つメックや先進的な照準コンピューターを持つメックが、この隊形のあちこちに散らばった。この両戦術は、レジス将軍が予想したマーリック防衛軍によるほぼ間断なく続くであろう空襲を撃退する為に考案されたものである。
 実際、シェン・ホットヘッズの一歩一歩が、マーリックのLAM部隊の出現と素早い退散――それらは大抵の場合シェン・ホットヘッズに新しい損傷を刻んでいった――によって印が付けられているかの様に見える程であった。シェン・ホットヘッズの対空射撃と戦闘機部隊はそれらのLAM部隊に高い損害を与えたが、それでも十分な数のLAMが突破をして戦闘機の1機を撃墜し、その後に2機のシェン・ホットヘッズのメックを破壊していた。
 これらのLAMにも拘わらず、シェン・ホットヘッズはマーリックのメック部隊へ比較的無事に到達した。この戦闘は、LAMの群れが存在しなかったとしても不適当な組み合わせとなったであろう。より軽量であるマーリック防衛軍のメック群はシェン・ホットヘッズのメック群に損害を与え脱出する事を試みたが、彼等は余りにも弱体で余りにも少数であった為に素早く逃走する事はできなかった。そして、地上で戦った装甲の薄いLAMの多くは、戦闘の最初の数秒で戦闘不能になっていたのである。
 宇宙港に向かって押し進むシェン・ホットヘッズは速度を上げた。彼等は、滑走路に積み上げられている補給物資の山――その中には珍しいLAMの予備部品も含まれていた――を狙ったのである。ここでマーリック防衛軍と降下船群の砲手達は傭兵部隊の阻止を試みたが、戦場は彼等にとって途方もない価値を持つ補給物資の山が余りにも散乱し過ぎており、敢えて自分達の戦力を使用する事はできなかった。
 両陣営が箱とコンテナの群れの中で互いに対する考慮を巡らせた事により、宇宙港を緊迫した静けさが覆った。最終的に、レジス将軍が戦闘終結の提案をした――マーリック防衛軍は惑星“カリソン”を離れ、シェン・ホットヘッズが補給物資を保持し、ライラ共和国が惑星を獲得する、という。(この時)未だに一部が降下船に搭載されており、シェン・ホットヘッズの突進により宇宙港に散らばっているメック群とLAM群を回収できる見込みが殆どなかったマーリック防衛軍には、選択の余地がなかった。ブライス=マーリック大佐は提案に同意し、急いで自分の苦闘している部下達を掻き集めると、惑星“カリソン”を離れた。


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