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第4次継承権戦争: バソールト戦


バソールト
 惑星“バソールト”に於ける戦闘は、都市コントロッサと都市ザンダーズ・ディライト――両都市共にこの巨大で湿度の高い惑星の山の多い南方大陸に存在していた――を中心に行われた。マスキロフカの諜報員達は、AFFSが2つの貯蔵所を建設した事を突き止めていた。その内のザンダーズ・ディライトに存在する方は、巨大な湖の辺に建設されていた。コントロッサに存在する方は、宇宙港の近くに建設されていた。
 合計でほぼ完全1個連隊となる数個大隊と数個中隊が、それらの補給物資集積所の破壊を割り当てられていた。惑星“バソールト”のカペラのメック部隊を支援するのは、3個歩兵連隊と4個装甲連隊であった――彼等は他の攻撃部隊の2倍の戦力を受け取っていたのである。
 第1カール襲撃隊の1個中隊、マックリモン軽機隊の1個中隊、マグレガー装甲偵察隊の1個中隊は、1月8日の早朝にザンダーズ・ディライトの北方に降下した。そして、カペラの歩兵1個連隊と1個軽戦車連隊は北東に着陸し、一方、ホバークラフトで完全に構成された2つ目の戦車連隊は何kmも離れている人気のない島に着陸した。
 カール襲撃隊のダヴィナ・クレヴェーラ少佐によって立案された作戦計画では、歩兵部隊とホバー戦車部隊が最初に攻撃を掛けるとされていた。そして、クレヴェーラ少佐が1個連隊の歩兵部隊と戦車部隊に過ぎないと考えていたダヴィオンの守備隊が南と北東に向きを変えた間に、カペラのメック部隊は攻撃を行って任務を達成するのである。しかし、この作戦計画は惨憺たる失敗に終ったのであった。
 壮観な雷の暴風雨をついて行われたカペラの歩兵連隊と軽戦車連隊による最初の突撃は、第4ダヴィオン近衛隊RCTの1個機械化歩兵連隊と衝突する事となった。ここで荒れ狂う天候による劣悪な通信状況により、カペラの歩兵部隊は敵を攻撃するべくその島を出発したホバークラフトを止められなかった。第4ダヴィオン近衛隊の1個大隊のホバークラフトと3025年にAFFSへ貸与された4隻のライラの水中翼船は、島から数km離れた地点にてカペラのホバークラフト部隊を奇襲し、ザンダー湖の打ち寄せる波の只中で1個大隊を壊滅させた。そして、これを生き残った者達は、湖岸で彼等を待ち構えていた1個重戦車連隊と軽メック1個中隊の砲列に遭遇する事となったのであった。その陽動攻撃が北東では膠着状態となり南方では粉砕された事により、ザンダーズ・ディライトの攻略を試みるメック部隊の状況は更に悪化していた。荒れ狂う雷の放電がその通信を妨害した為に、カペラの戦士達は、全ては計画通りに進行している、と決め込んで前進をしたのである。彼等は最初に、第4ダヴィオン近衛隊の1個小隊の軽メックと遭遇した――その小隊は戦友達に警報を伝えるべくフレアを打ち上げた。
 ダヴィオンの警戒部隊を脇へ押しやりつつも最悪の事態を懸念したクレヴェーラ少佐は、敵が反応をする前に自分のメック部隊が貯蔵所に辿り着く事を願った。しかし、第4ダヴィオン近衛隊のメック部隊はその素早い反応で著名な存在であり、カペラ人達が目標へ接近をした時には第4ダヴィオン近衛隊のメック群が次々にフレアの合図に反応してきており、その敵の前進を妨害したのであった。
 10分間の機動戦の最中に、カペラ人達はそのメックの半数以上を失っていた。残るメック群も多大な損傷を受け、包囲され、貯蔵施設群の端で身動きが取れなくなっていた。
 第4ダヴィオン近衛隊のメック部隊の指揮官であるラソス大佐は、カペラ人達に降伏の機会を与えた。これに対してクレヴェーラ少佐は、自分の個人的な名誉は最低でも任務の一部を果たすのを要求しているものである、と話してそれを丁重に断った。ここでラソス大佐は自らのメックを脇にどけ、彼女に最も近い貯蔵施設がはっきりと見える視界を与えた。クレヴェーラ少佐はそれを理解するとミサイルの斉射を放ち、貯蔵施設の扉を破壊した。そして、煙が収まった時、彼女は広大で空っぽであるその内部を目撃したのであった。――彼女と残りのカペラ人達は、降伏をした。
 同時期、2個歩兵連隊と2個装甲連隊と共に第1ニューヘッセン・イレギュラーズの5個中隊とイジョーリ家の歴戦の18機のメックが、コントロッサの貯蔵所の破壊を試みていた。
 イジョーリ家のイショカ少佐によって立案された彼等の作戦計画は、カペラ軍では“アヴァランチ・ドロップ”と呼称されるもので開始されるものであった。“アヴァランチ・ドロップ”とは、その全てのカペラの部隊がその目標の真上に降下をするというものである――たとえ、この事が守備隊の牙の中に飛び込む事を意味したとしても。この作戦の戦士達――中でも特にイジョーリ家の戦士達――は、それを成功させる事を断固として決意していた。この“アヴァランチ・ドロップ”の直接さは、彼等の琴線に触れるものであったのである。
 コントロッサの貯蔵所を防衛していたのは、第4南十字星部隊であった。彼等はより伝統的な攻撃が行われるものと予想しており、自らの部隊を防衛線に分散配置していた。降下が開始された時、追跡システムはカペラ人達がその大胆な降下地域の選択により全てを危険に晒している事を南十字星部隊に警告した。チャールズ・ダンカン中将は南十字星部隊へ防御陣地から戻る事を命じたが、それは遅きに失したものであった。南十字星部隊が何とか対応を開始し始めた時には、最初のカペラのメック部隊が既に地面を踏んでいた。
 カペラ人達の優先順位は先ず防御陣地の確保をする事であり、その後に補給物資を求めて貯蔵所の略奪を開始する事であった――彼等は近くの宇宙港に着陸する降下船群で補給物資を運ぶ事ができたからである。
 降下船群が着陸をし、ダヴィオンの対応が尚も数分も先の事であった所で、カペラ人達は貯蔵所が空っぽである事に気付いた。彼等には、宇宙港に辿り着き惑星“バソールト”からの脱出をして後日の戦闘の為に自らを温存する為の時間が尚も残されていた。しかし、カペラ人達は余りにも激昂しており、ダヴィオンの守備隊に自分達を騙した代償を支払わせる事を選択したのであった。
 彼等は北へ向かい、1個大隊のメックと戦車を激しく攻撃した。南十字星部隊の第2メック大隊の指揮官であるサンドラ・ファロラク少佐は、自らが火力で圧倒されている事と怒り狂っている敵と対戦している事を悟り、後退を決断した。
 彼女の部隊がゆっくりと後退を始めた事により、カペラ人達は宇宙港から遠くへ遠くへと引き離されていった。ここで南十字星部隊の他部隊は、第2大隊の救援をする事よりもカペラ人達をその降下船から遮断する事の方を選んだ。第2大隊は可能な限り遠くへとカペラ人達を引き離していったが、イショカ少佐は最終的には宇宙港への帰還を命令した。しかし、ここでカペラ人達はメック・戦車・歩兵があらゆる方角を塞いでいるのに気付く事となった。ダンカン将軍は自らの立場に自信を抱きつつ、カペラ人達に降伏の機会を与えた。これに対し、彼等は逆にダヴィオン軍の降伏を求めるというもので返答を行った。
 かくして、爆発と走り回るメックの騒音は20分間続き、カペラのメック群の全ては動きを止めた――そして、その大部分は永遠に動きを止める事となったのであった。


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