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第4次継承権戦争: アルゴット戦


アルゴット
 第2アリアナ機兵隊の第3大隊は、小さく肥沃な惑星である“アルゴット”とその2つの補給センターを攻撃するという名誉を得た。マスキロフカの1人のエージェントは、その惑星のコンピューター・ネットから廃棄されたと彼が推測したアクセス・コードを通してそれらの補給物資集積所の所在地を見つけ出していた。このエージェントによって収集された情報が伝える所によると、それらの2つの貯蔵所――1つ目のものは砂漠都市カッソールの近くの北方に存在し、2つ目のものはオチバ湖の近くに存在していた――は、重要な降下船と戦闘機の部品で埋め尽くされているとの事であった。そして、これらの補給物資を防衛しているのは、1個歩兵連隊のみである、と。
 この攻撃任務にその大隊を指揮する事を許される特権を与えられたサミュエル・スターク少佐は、自らにそれを任される価値があるとは見なしていなかった。惑星“チコノフ”でアリアナ機兵隊が被った敗北の事でスターク少佐は自分自身を責めていた――彼こそが、アリアナ機兵隊が防御態勢を取り待ち構えろとの命令を受けていたのに、接近するダヴィオン軍への攻撃をするのを連隊の今は戦死している指揮官に納得させた者であったからである。その敗北後、スターク少佐の部下達は彼の自殺を阻止した。彼は自害ができなかった代わりとして、自らの辞表を提出していた。
 リャオ首相はその大隊への命令書の中で、彼の辞任を却下し、 “自らの部隊の敗北の復讐をし、カペラ大連邦国の為に大打撃を敵に与える”という スターク少佐の能力を自分が断固として確信している事を述べた。そして、その自らの信任を更に示すものとして、リャオ首相はスターク少佐に機密の試作メックであるカタフラクトの操縦権を贈った。
 第2アリアナ機兵隊の第3大隊は他の2つの大隊の生き残り達と合計して、50機のメックとメック戦士、それと同数の気圏戦闘機を保有していた。この彼等を支援するのは、ホバー戦車の2個連隊とジャンプ歩兵の1個連隊であった。
 第1大隊と第2大隊の生き残りであるアリアナ機兵隊の1個中隊は、南方のものよりも小さい北方の貯蔵所群の破壊に割り当てられた。1月11日、その貯蔵所の西の広大で硬質の平地への降下に成功した後、バンベリー大尉は自らのメック中隊とその付属のホバークラフト中隊と歩兵中隊に対して散開して攻撃隊形を取る事を命じた。そして、これによりホバークラフト部隊が前方と側方に就き、それから打撃小隊、火力小隊、指揮小隊が歩兵部隊と共にその背後に就いた。
 彼等は補給センターから10kmの地点にまで行軍したが、そこでダヴィオン軽近衛隊第1大隊のデルタ中隊の攻撃を受ける事となった。ここでアンドリュー・レッドバーン大尉に指揮されたデルタ中隊は、接近するカペラのメック群と直接交戦しない事を選んだ。デルタ中隊はそれの代わりに、敵の重兵器の射程外に留まりつつホバークラフト部隊を敵から剥ぎ取る事を選んだのである。
 貯蔵所から2kmの地点で、デルタ中隊は向きを変え撤退をした。カペラ人達が追撃を実施する前に、間接砲の弾幕射撃と6機の気圏戦闘機による掃射が彼等の追撃を阻止した。そして、5機のカペラのメックと10輌のホバークラフトが倒された。
 この弾幕射撃が停止した時に、1個中隊の重戦車によって増強されたデルタ中隊は攻撃を行った。デルタ中隊の軽量級メック群は自らの優越した機動力を使用し、カペラ人達が状況を把握して効果的な火網を敷く前に接近をした。一度、間合いに入った後は、デルタ中隊は停止をし、その地域の少数の丘陵を遮蔽として用いた。カペラ人達が前方への突破を試みた時、レッドバーン大尉は自分の中隊の半分に空中へ飛ぶのを命じ、そして、残り半分にはそれの援護射撃をする事を命じた。
 この戦闘は程無くして乱戦に陥った。この時、火力で圧倒され、機動性でも勝られてしまっているにも拘らず、カペラ軍は善戦をした。1機のカペラのマローダーは、レッドバーン大尉の中隊の内の2機と2輌の戦車を翻弄するという偉大な技量を見せ付けた。自分のメックが両腕とオートキャノンを失った後、そのマローダーのパイロットは脱出を試みた。しかし、彼が脱出をする前にそのメック内部のオートキャノン砲弾は誘爆し、凄まじい大爆発を引き起す事となる連鎖反応を誘ったのであった。
 15分が経過した後、カペラのメック部隊は壊滅し、ホバー戦車と歩兵達は逃げ出していた。レッドバーン大尉の中隊は再び、軽量級メックでも十分な機数があり有能な指揮官がそれを率いた際にはより重いメックを倒す事ができるのを証明したのである。
 カペラ人達の主攻撃は、南方にて行われた。新型のカタフラクトに搭乗したスターク少佐に率いられた第3大隊は部隊を分割して、その半数を貯蔵所の東方に降下させ、残りの半数を貯蔵所の北方に降下させる事によって、ダヴィオンの守備隊を混乱させた。ダヴィオン軽近衛隊のメック部隊指揮官かつ惑星“アルゴット”上のダヴィオン軍の総指揮官であるストーン大佐は、この分かれた脅威に対しての自軍の配置を誤った。貯蔵所施設群に続く北方の進路は軽装甲部隊の1個連隊のみによってしか防衛されておらず、ダヴィオン軽近衛隊と第12ヴェガ特戦隊のアルファ連隊の全ては東方に配置されていたのである。
 北方から進軍するアリアナ機兵隊の重メック中隊を指揮するスターク少佐は、そのダヴィオンの戦車部隊を容易に突破して貯蔵施設群へと行軍した。貯蔵施設群の幾つかに設置された遠隔カメラは、スターク少佐が多大な慎重さで以て乗機のカタフラクトの右腕を上げ、そのPPCを貯蔵施設の扉に向けて射撃した光景を記録している。彼はその貯蔵施設が空っぽである事に気付いた時に一瞬立ち止まり、それから次の建物へと自分のメックを走らせ、同じ発見をする事となった。この少佐は貯蔵施設を渡り歩いて蹴破ったり吹き飛ばしたりしてその扉を次々と開けていったが、同じ広大な空所を見出すのみに終った。
 この時、宇宙で最も不幸であった人物は、スターク少佐が最後の空っぽの貯蔵施設の扉を吹き飛ばした正にその瞬間、そこに現れたスティンガーに乗っていたダヴィオンの戦士に違いないであろう。スターク少佐は自分の中隊に対してその小型メックの捕獲を命じ、そして、彼等は短時間の戦闘後にそれを為し遂げた。ここで、“カタフラクトの握力をテストする時間である”と宣言したスターク少佐は自分のメックでスティンガーのコクピット部分を掴んだ。ゆっくりと、この怒り狂っている士官は敵メックのコクピットを掴んでいる自分のメックの握りを締めていった。吐き気を催す様な破裂音と電気的な煙と共に、そのコクピットは重圧の下で潰れた。それから、カタフラクトの手首が捻られ、スティンガーからその潰れた頭部は引き千切られた。そして、頭部が失われたそのメックを背後に放り捨てつつ、スターク少佐はダヴィオン軽近衛隊と交戦中である大隊の残りの部隊への合流を自分の中隊に対して命じたのであった。
 1個中隊のメックがその背後から高速で接近中であるという偵察兵達からの警報を受けたストーン大佐は、アリアナ機兵隊の別部隊からの離脱を試みた。しかし、アリアナ機兵隊の犬に巣くう蚤の如き歩兵達は、彼のメック部隊の後退を這う様な速度へと落した。
 そして、スターク少佐のメック部隊は、ダヴィオンのより軽量であるメック部隊へ雪崩れ込んだ。尚も怒りで燃え立っているスターク少佐は、自分のカタフラクトを限界まで駆使し、1時間の長きに渡る乱戦の最中に単独で3機の敵メックを破壊し、その他に2機の撃墜の手助けもした。この後に“バトル・オブ・スタークズ・フューリー”として知られる事になる戦闘に於いて、ダヴイオンの圧倒的な数的優勢は彼等にとって全く助けにならなかった。2機以上のダヴィオンのメックが幾度もその1機のカペラのメックを止める事を試みたが、装甲兵員輸送車による自殺的突撃やインフェルノ・ミサイルを撃つ歩兵小隊、その他の幾つかの妨害によりそれらは阻止されたのである。
 日没の1時間前、シェリダン・ダグラス侯爵が第12ヴェガ特戦隊のアルファ連隊と共に戦場へ到着した。ダグラス侯爵は戦闘を概観し、自分のメック部隊に彼が呼ぶ所の“フライング・ウェッジ”隊形(V字形隊形)を取る事を決断した。
 彼のメックを頂点とするこの“V”フォーメーションは、ゆっくりと戦場に突入した。この隊形でカペラのメックに接触する度にヴェガ特戦隊は停止をし、火力をそれに集中していった。そして、カペラの戦士達がこのゆっくりとした進撃に対処すべく向き直った時には、ダヴィオン軽近衛隊により彼等は背後から撃たれる事となったのであった。
 この“フライング・ウェッジ”は、最終的にはダヴィオン軽近衛隊の下に到達した。優越した数と火力で以て、ダヴィオン軍は残存するカペラのメック群を打ち倒していった――スターク少佐と彼のカタフラクトを除いて。
 ここで、少佐の戦士としての技量に感銘を受けた事と、新型メックの設計を調査できるとの見込みは、ストーン大佐にスターク少佐へ降伏の機会を与える事を促した。しかし、それに対するスターク少佐の返答はシンプルなものであった――彼は通信チャンネルに“お前の生皮を剥いでやる”と叫びつつ、ストーン大佐に向かって突撃したのである。ダヴィオン軽近衛隊は静かに配置に就くと、突撃してくるメックに砲火を開いた。そして、非常に良好な装甲が施されていたそのカタフラクトも、最終的にはストーン大佐のヴィクターの足下に倒れたのであった。


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