第4次継承権戦争……この戦争が起きた原因については諸説があり、数十年を経た後でも定まったものは存在していない。しかし、少なくとも、カペラ大連邦国が第4次継承権戦争に於ける恒星連邦の主な標的にされた事に関する責任は、当時のカペラ大連邦国首相であるマクシミリアン・リャオに帰せられるものであろう。彼は、“オペレーション・ドッペルゲンガー”、マイケル・ハセク=ダヴィオン公に対する調略、恒星連邦国境沿いの世界に対する暗殺・テロ・謀略、等々、様々な恒星連邦への敵対行為を個人的な嫉妬の下に実行してきており、恒星連邦国王ハンス・ダヴィオンとの関係を修復不可能な程にまで悪化させていた。特に、“オペレーション・ドッペルゲンガー”がハンス・ダヴィオンに残した怨みと恐怖の念は深いものがあった。これは、同じ敵対国家であるドラコ連合大統領タカシ・クリタへ彼が抱く感情は軍事的な好敵手への畏怖と競争心が多くを占め、マイナスの感情が比較的少ないものであったとの事実からすると、余りにも対照的であった。ともかく、その後の数十年間のカペラ大連邦国の不幸は、ここから始まっていたといっても過言ではないであろう。
3025〜3027年
カペラ大連邦国にとって、第3次継承権戦争後の数年間続いた比較的な平穏は干天の慈雨と言えた。これにより、先の戦争で荒廃した国家の軍事力・工業力・経済力を復興させる為の貴重な時間が得られたのである。戦争終結後、直ちに策定され、実行に移された5ヵ年計画は、予想を上回る成功を収めつつあった。工業生産は倍化し、経済は順調に発展した。この成功が得られたのは、恒星連邦とライラ共和国の同盟に対抗して結ばれた「カペラ大連邦国、ドラコ連合、自由世界同盟の3国の軍事/経済協力協定」――“カプテイン協定”に基き、ドラコ連合と自由世界同盟による積極的な投資がカペラ大連邦国に行われ、資本の流入により経済が活性化したからである。そして、復興しつつある工業力に牽引されて軍事力の再建も急ピッチで進み、3027年末には、カペラ大連邦国軍は総兵力約50個連隊規模と称せるまでに陣容も整った。その上、新技術の開発も進んでいた――カペラ期待の新メックである“レイヴン”、“カタフラクト”のプロトタイプのテストがほぼ終了し、量産型の登場も間も無くといった段階になっていたのである。特に、70t級の“カタフラクト”の開発が九分九厘成功した事は、カペラ大連邦国軍にとっての福音であった。戦場で渇望されていた重量級メックの安定的な供給が、これで可能となるのである。
――この状況が、後数年でも続けば、カペラ大連邦国は今までとは違い、容易に外敵には侵されない国家となる様に思えた。カペラ大連邦国国民の大多数が、それを願っていたに違いない。しかし、第4次継承権戦争の足音は、彼等に迫っていたのである。
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