ケル・ハウンド  (Kell Hounds)

指揮官: モーガン・ケル(3010〜3016隠遁)、パトリック・ケル(3016〜3027戦死)、モーガン・ケル(3027〜)
部隊規模: 1個連隊(3010〜3016)、1個大隊(3016〜28)、1個連隊(3028〜)
部隊練度: エリート

略歴:
 モーガン・ケルは青春時代を、従兄弟のアーサー・ルフォン(後のカトリーナの夫)、カトリーナ・シュタイナー(後のライラ共和国国家首席)と共に、様々な冒険をして過ごした。そして、冒険行の中で、彼は将来は「自分の傭兵部隊を作り出し戦ってみたい」との思いを強くしていた様である。
 3010年、従兄弟であるアーサー・ルフォンが癌により死亡し、彼から莫大な財産をモーガン・ケルは受け継ぐ事となった。アーサーの死により、ある義務を果たし、自由の身となったモーガンは決意した。今こそ、弟と語り合った夢を実現する時である……。

 この時が、後に様々な武勲で彩られる傭兵部隊“ケル・ハウンド”の誕生であった。

3010年〜3013年
 3010年、10月上旬、ケル兄弟は惑星“ガラテア”に降り立った。
 彼等は部隊員の募集を開始したが、常識とは違い、最初にメックウォリアーを雇う事はしなかった。――彼等が最初にしたのは、高い技術を持った整備兵を雇う事であった。技術者を勧誘するにあたって、兄弟は、高給を約束し、惑星“アーク・ロイヤル”に兄弟が所有している“エール・バトルメック・カンパニー”より予備部品の供給が確実に可能で、しかも、メックの改造ができる!と謳った。言うまでも無く、技術者にとっては魅力的な条件であった。結果、部隊には優秀な技術者が押し寄せた。所属していた部隊をやめてまで来た者も存在したぐらいである。程なく、1個連隊を維持するのに十分な数の技術者を部隊は得られた。そして、優秀な技術者がいる部隊は、メックウォリアーにとっても非常に魅力的である――同様に、優秀なメックウォリアーも集まってきた。途中、トラブルがあったものの、11月、ケル・ハウンドは、戦闘機18機、メック72機、歩兵1個大隊、オーバーロード級降下船1隻を擁する堂々たる1個連隊を編成するに到った。
 しかし、部隊の編成は順調に進んだものの、世間の評価は厳しかった。生まれたての傭兵部隊にまともな仕事が回ってくるはずが無い。その中で、ライラ共和国がケル・ハウンドを雇う事にしたのは、驚きで以って迎えられた。カトリーナの政敵は「夫を失った女の、つまらない感傷によるもの」と非難した程である。
 3011年、ケル・ハウンドは“ターカッド”に到着、惑星の守備に当たる事となった。しかし、惑星防衛任務は重要だが単調な仕事である。1年が経過する頃には、部隊は退屈しきっていた。モーガンとパトリックは、カトリーナに対し、新たな仕事は無いのか、と陳情する毎日を過ごしていた。その様な時に彼等の前に現れたのが、異色の傭兵部隊イレギュラーズの指揮官として有名な(度し難い程の美術品コレクターとしても有名な)クランストン・スノードであった。スノードは、ライラ共和国情報部が最近に入手した惑星“カストル”上の第13マーリック国民軍の動向に注目していた。防備が手薄な今こそ、“カストル”に存在するはずの、極めて貴重な“ファベルジェの卵”のコレクションを入手するチャンスである――彼は“カストル”攻撃作戦実行を陳情する為に、カトリーナの所へ来ていたのである。意外とも言うべきか、クランストンとモーガンはここで意気投合した。そして、両者で以て共同作戦を立案し、カトリーナへ立案した作戦計画を提出したのである。作戦計画には利点が三つあった――スノード・イレギュラーズは、作戦開始時にケル・ハウンドの陰に隠れて目立たずに惑星に降下できる、“ファベルジェの卵”のコレクションを入手できるかもしれない、ケル・ハウンドは、作戦参加に便宜を図ってもらえ、その上に望んで止まない戦闘経験を積む事ができる、の三点である。最終的に、計画はカトリーナにより、四つ目の目標――惑星に存在している不法な核兵器貯蔵施設の探索と破壊――を付け加えられて始動と相成った。
 この作戦は、成功裏に終った。第13マーリック国民軍は怨敵イレギュラーズの方に注意を向けすぎており、ケル・ハウンドの出現を聞いても援軍要請をしない程に侮っていた。ケル・ハウンドを強敵と認識した時には、第13マーリック国民軍は分散しており、各個に撃破されていった。そして、決定的な局面でイレギュラーズの奇襲攻撃を受け敗走する羽目となったのである。第13マーリック国民軍司令官は、事態の打開を図り禁止されている核兵器の使用を試みたが、すんでの所でケル・ハウンドのLAM部隊の攻撃が間に合い、それは失敗に終った。第13マーリック国民軍司令官は、条約違反で処刑されるよりはと、メックを捨てるまでして行方を晦まそうとしたが、不幸な事に、戦闘終了後に“ファベルジェの卵”を都市のオープンマーケットにて探していたクランストン・スノードと偶然にも出くわしてしまい捕えられてしまった。その後、彼は傭兵達が引き揚げる際に惑星“カストル”に置き去りにされていったが、指揮下の部隊壊滅についてを上官に報告するよりも自殺する方を選んだとの事である。
 この作戦により、ケル・ハウンドは多大なものを得られた。新品同様の第13マーリック国民軍のメック、戦闘経験、名声である。イレギュラーズの方も満足すべき成果を挙げていた。彼等は“ファベルジェの卵”を九つも発見できたのであった。意気揚々とイレギュラーズは惑星“クリントン”に引き揚げた。そして、“ターカッド”に凱旋したケル・ハウンドは、英雄として扱われた。だが、好事魔多し。その頃、傭兵部隊の扱いを巡って、アレッサンドロ・シュタイナーとフレデリック・シュタイナーからの攻撃をカトリーナは議会にて受けていたのである。それを知ったモーガン・ケルは一時身を引く事とした。3013年、モーガンはパーティの席上でダヴィオン家と3年間の契約を結んだ事を発表した。

3013年〜3016年
 恒星連邦と契約した後のケル・ハウンドの活躍は、素晴らしいものであった。特にドラコ連合のジャンプシップを奪取した手際は見事であった。だが、転機はケル・ハウンドの足元にも迫ってきていたのである。3013年、10月3日、“マロリーズ・ワールド”を巡って大規模な戦闘が起きた。ドラコ連合の攻撃は巧妙で苛烈であった。恒星連邦国王イアン・ダヴィオンは第4ダヴィオン近衛隊を率いて善戦していたが、側面を守っていた第17アヴァロン軽機隊が第24ディーロン連隊の攻撃により崩壊した為、危地に陥っていた。イアン・ダヴィオンは砂漠に第4ダヴィオン近衛隊と篭り、ワジスを利用した一撃離脱で以って第2光の剣連隊と戦ったが、劣勢は覆せなかった。単機で戦うイアンのアトラス。4機のメックを倒した所で彼の目の前には、ヨリナガ・クリタ搭乗のウォーハンマーが現れた。それが、イアン・ダヴィオンの最後の戦いとなった。その頃、ケル・ハウンドは援軍として惑星に駆けつけていたが、全ては遅かった――彼等が見たのは、国王のアトラスの残骸であった。続く戦闘は国王の遺体を巡るものとなる――決死の覚悟で戦う、ケル・ハウンドと第4ダヴィオン近衛隊の残余。彼等の戦闘能力は、一時的に第2光の剣連隊を圧倒した。国王の遺体の奪還後、“マロリーズ・ワールド”の戦闘は膠着状態となった。――これが、ヨリナガ・クリタとモーガン・ケルの因縁の始まりである。

 “マロリーズ・ワールド”の戦闘は、やがて、星間連盟ライブラリーを巡るものとなり、両軍は血を血で洗う激戦を演じていった……。そして、3016年、モーガン・ケルとヨリナガ・クリタは、戦場にて相対し、運命の決闘を行った。アーチャー(モーガン)VSウォーハンマー(ヨリナガ)――決闘は奇妙な展開を見せた。アーチャーが勝利するには距離を取りLRMを撃つしかないのに、何故か、モーガンは近接戦闘を挑んだのである。ウォーハンマーのPPCがアーチャーの右腕を引き裂き、膝を損傷させた所で勝敗は決したと誰もが思った。止めを刺すべく接近するウォーハンマー。一斉に撃ち出されたSRMとマシンガン、レーザーの束。だが、信じられない事に、アーチャーには、その攻撃が全く命中しなかったのである。そして、至近距離からLRMを発射。LRMはウォーハンマーに突き刺さり、破滅的なダメージを与えた。崩れ落ちるウォーハンマー。PPCを撃ち返すものの外れる。だが、ここで最後を覚悟したヨリナガが見たものは、アーチャーの操縦席のハッチを開けて、外界に身をさらし、オジギをするモーガンであった。その事実は、ヨリナガにとって何かを意味していた。ヨリナガもハッチを開けてオジギをすると、腰に差していたカタナの大小の内、一振りをモーガンに手渡した。その場でどの様な会話がされたのかは、謎である。しばらくして、ヨリナガは第2光の剣連隊に撤退を命じた。こうして、“マロリーズ・ワールド”の戦いは不可思議な終結を見せた。そして、この戦闘がケル・ハウンド黄金期の終わりでもあった。モーガンは、突然、部隊の2/3を解雇し、パトリックに後事を任せると自身は姿を晦ました。ヨリナガ・クリタも“マロリーズ・ワールド”での行動がタカシ・クリタの勘気に触れ、追放された。一体何が起こったのか?理不尽なモーガン・ケルの行動は、ケル・ハウンドの人々を意気消沈させた……。ケル・ハウンドは、長い停滞期に入ったのである。しかし、残されたものも止まる事はできない。パトリックがケル・ハウンドの指揮を継承する事となった。彼は、何時の日かモーガンが戻り、全てを話す事を信じていた――大佐を名乗らず、中佐のままだったのは、その為である。そして、彼は最後まで中佐であった……。

3016年〜3029年
 3016〜3026まで、ケル・ハウンドは1個大隊に縮小したままだったが、様々な任務をこなした。自由世界同盟と契約しての海賊退治、ライラ共和国、ドラコ連合国境での降下船捕獲、恒星連邦での待ち伏せ成功、オペレーション・ガラハドへの参加等々である。パトリック・ケルの目標――「中心領域で最高の大隊を目指す」は実現したのである。しかし、この事はタカシ・クリタの不興を買った――“マロリーズ・ワールド”でドラコ連合に苦杯を飲まさせた傭兵部隊が名声を得ているのは目障りである。タカシ・クリタは、ヨリナガ・クリタの追放を解き、彼にゲンヨウシャと呼ばれる新たな部隊を与えて任務を命じた。その代わりに、因縁の敵、ケル・ハウンド撃滅を約束して……。こうして、“パシフィカ”にて休養中だったケル・ハウンドは、襲撃を受ける事になった。

 ケル・ハウンドは“パシフィカ”にて、メック戦闘自体は切り抜けたものの、ISFの暗殺チームの襲撃により、パトリックは傷を負ってしまう。だが、パトリックの戦意は衰えなかった。ドラコ連合はケル・ハウンド自体を標的にしている――ならば、教訓を与えなければいけない。襲撃してきた部隊の後を追い、全滅させるのだ。彼は部隊に命令を下した。「追撃する」と。そして、追撃先で彼らは予想外のものを見つけた――降下船“シルバー・イーグル”。ライラ共和国首席の娘、メリッサ・シュタイナーが秘密裏に乗っていた船である。誘拐されそうになっているメリッサを救うべく、ケル・ハウンドは、そこに現れた絶望的な敵、ヨリナガ・クリタ率いるゲンヨウシャと戦闘を開始した。戦闘はゲンヨウシャの背後へ密かに回り込んだパトリックの奇襲攻撃により混戦状態で開始された。しかし、最終的に、ケル・ハウンドはメリッサが逃げるのに必要な時間を稼ぐものの、大きな犠牲を払う事となった。ヨリナガのウォーハンマーのPPCがパトリックのヴィクターのエンジンを直撃し、打ち倒したのである。そして、ヨリナガはパトリックの復讐をすべく突撃するダニエル・アラードのヴァルキリーの攻撃もことごとく外れさせた。この時のヨリナガのメックは、3016年のモーガン・ケルのメック機動を彷彿とさせた。最終的に、ダニエルは自爆攻撃を敢行してヨリナガのウォーハンマーを倒したが、ヨリナガ自体は取り逃がし、自身も重傷を負う。しばらくして、指揮官を回収したゲンヨウシャは撤退した。

 「死んでは駄目よ、パトリック!」
 「今、泣いては駄目だ……妹(従妹)よ。国家首席の後継者が、傭兵の為に泣いてはいけない……そうだよね?」
 「あなたに最初に知って欲しいの、パトリック・ケル……私は、結婚するの。ハンス・ダヴィオンと結婚するの」
 「メル(メリッサ)、それは素晴らしい結婚式になるだろうね。君と結婚する人に伝えといてくれ……お前は幸運な男だと」
 「――きっと素晴らしい日だろうな……できれば、その場にいたいものだ」
 「ええ、あなたは居る筈、パトリック……あなたは、きっと、その場に居る筈」
 「ああ、メル、そうするよ……」
 「ダン(ダニエル)、彼に……モーガンに伝えといてくれ、僕は全てを理解したと。最後には理解したと伝えといてくれ」

 それと同時刻、パトリック・ケルは、メリッサ・シュタイナーの腕の中で息を引き取った……。

 かくして、ケル・ハウンドは壊滅状態となったのである。

 しかしながら、ひとつだけ明るい材料があった――パトリック・ケルの死は、モーガン・ケルを呼び覚ます事となった。再びモーガンは戦場に戻ってきたのである。彼は、隠遁理由の全てをケル・ハウンドのメンバーに話して詫び、パトリックの遺言を胸に部隊を再建する事を誓うと、精力的に動き始めた。部隊を再建するにあたって、彼は解雇した昔のメンバーに声を掛けた。この呼び掛けに応じて古き隊員達の娘や息子達は集まり、中にはスコット・ブラッドリー少佐のブラッドリー・ブラボーズの様に自分の部隊を率いて加入してくる者もいた。そして、努力は実り、再建は第4次継承権戦争勃発の1ヶ月前に終った。ケル・ハウンドは、再び1個連隊の規模となっていた。同時期、ヨリナガのゲンヨウシャも再編成を完了していた。両者が激突するのは、もはや必然であった。

 第4次継承権戦争の全期間を通じ、各所で両者は戦った。そして、3029年、彼等は惑星“ヌサカン”にて最終決戦を迎える事となる。再度の決闘。そして、モーガンはその心で以ってヨリナガに敗北を認めさせたのであった。「Honor is duty」――不名誉は死によって贖わなければならない。ヨリナガ・クリタの切腹により、因縁には決着がついた……。また、ヨリナガの遺言に感じ入りケル・ハウンドの振舞に感銘を受けた彼の息子のアキラ・ブラーヘは、ケル・ハウンドへの加入を選んだ。かくして、憎悪の連鎖は断ち切られたのである。そして、これより、再びケル・ハウンドの伝説は書き加えられていく事となるのである。

戦術/編成:
 ケル・ハウンドは機動戦に卓越しており、部隊を分散進撃させての挟撃や包囲攻撃を得意としている。
 ケル・ハウンドは通常、3個メック大隊+1個連隊指揮メック小隊(メック112機)、1個航空大隊(気圏戦闘機18機)、1個歩兵大隊で編成されている。
 輸送部隊としては、インベーダー級航宙艦“クカムルス”、マーチャント級航宙艦“ビフロスト”、オーバーロード級降下船“ルー”、ユニオン級降下船“ヌアダ”、レパード級降下船“マナナン・マクリル”が存在しているものの部隊全ての輸送をするには十分でなく、部隊全体の移動の際には他の船主と契約して輸送船をチャーターしている。


ケル・ハウンド主要人物:

モーガン・フィン・ケル大佐
 モーガン・ケルは15歳でナーゲルリンク士官学校に入学し、3年でそこを卒業をした極めて優秀なメック戦士である。彼に惚れこんだライラ共和国軍の司令官達は彼に1年の兵役猶予期間を与えライラ共和国内中を旅行させた――この旅行が彼の見識を更に深める事を期待しての事である。この期間中、モーガンは従兄弟のアーサー・ルフォン(後のカトリーナ・シュタイナーの夫)と共に身分を偽って(アレッサンドロ・シュタイナーが放った暗殺者から身を隠すべく辺境にて海賊に成り済ましもした)密かに行動し、カトリーナ・シュタイナーが権力基盤を作り上げる手伝いをした。
 モーガンはがっしりとした肉体を持ち、肩に流している長い黒髪、印象的なダークブラウンの瞳が特徴的である。隠遁中、彼は口髭と顎鬚を伸ばしており、今やそれは実に見事なものになっている。若い頃は、彼は激しやすい性質であったが、それは隠遁中にかなり落ち着いたものへとなっている。
 モーガンは天才的な戦術能力とドラコ連合戦士の心理状態に関する深い洞察力を持っており、戦闘に於いては無慈悲かつ大胆である。しかし、彼は無用に生命を奪う事は決してせず、敵の戦士であっても可能な限りその生命を救おうとする。
 モーガンは惑星“マロリーズ・ワールド”に駐留している最中にサロメ・ワードと恋人の関係になったが、3016年の突然の隠遁によりその関係は壊れてしまっている。帰還以降、ある程度の関係は修復されているが、彼等が再び元の鞘に戻れるかどうかは定かでない。

パトリック・マーティン・ケル中佐
 パトリック・ケルは、モーガン・ケルの2歳年下の弟である。彼は3006年にナーゲルリンク士官学校をトップに近い成績で卒業している。彼が士官学校時代に挙げた成績の点数はモーガンと全く同一のものであり、教官達はモーガンが打ち立てた記録を破りたくないが為にパトリックが手加減をしたのではないかとの疑念を抱いた程である。卒業後、パトリックはライラ共和国軍に入り、名誉ある第10ライラ防衛軍にて軍務に就いた。3010年、彼は退役を認められ、兄と共にケル・ハウンドを創設した。
 パトリックはその兄よりも物静かで内省的な性質であるが、同時に非常に楽天的な人物でもある。モーガンの謎の隠遁後も、彼はそのショックに耐え、ケル・ハウンドの分解を防ぎ、見事にその指揮を執った。そして、彼の下、ケル・ハウンドは中心領域で最高の傭兵大隊となった。しかし、モーガンが残した傷は彼を悩ませ続けたのである。彼はモーガンこそがケル・ハウンドの指揮官であり必ず帰ってくるとと信じ、周囲の勧めにも拘らず自分の事を中佐と称し続けた――そして、それは彼の最期の時まで続いたのであった。
 彼は兄ほどではないとしても頑健な肉体を持っており、格闘戦では比類ない強さを誇っている。ケル・ハウンドがISFの暗殺チームに襲撃された際、彼は夜間部屋に忍び込んできたISFのエージェントを素手で殺害している。
 パトリックは3013年にタカラと言う名の女性と出会って以来、13年間に渡って奇妙な恋人関係にあった――タカラはどうやってかケル・ハウンドが駐留している基地に突然現れて滞在しては突然にいなくなるという行動を繰り返していたのである。彼女が最後にケル・ハウンドへ姿を現したのは3026年12月の事である。そして、パトリックがヨリナガ・クリタとの戦闘で3027年12月に死亡した後、彼女が再び姿を現す事は決してなかったのであった。

サロメ・ワード少佐
 サロメ・ワードは、1066年のノルマン人の侵略まで遡る事のできる由緒ある戦士の家系の末裔である。ワード一族は“地球”の主要な戦闘の全てに参加しており、一族の多くが星間連盟防衛軍で働いてきた。しかし、ケレンスキー将軍の“エクソダス”の際、マイケル・ワード大尉は中心領域に残る事を決意し、それ以来、彼の末裔達はライラ共和国軍にて働いているのであった。
 当初、彼女はケル・ハウンドにはLCAFの連絡士官として赴いたが、行動を共にする内にケル・ハウンドを気に入り、モーガン・ケルに入隊を申請した。そして、モーガンは彼女の士官学校時代の成績を一目見ただけで、彼女を第1大隊第1中隊の指揮官に任命したのである。
 モーガンが隠遁する前、サロメとモーガンは恋人の関係にあり、彼の理由を告げない隠遁は彼女に深い傷を残した。しかし、モーガンの帰還後、彼女とモーガンの関係はゆっくりとだが修復されている様である。

ダニエル・W・アラード大尉
 ダニエルは惑星“ニューアヴァロン”出身であり、幼少時は演習中のメックを見学する事を趣味としていた。彼は飛び級で高校を卒業し、史上最年少でニューアヴァロン士官学校(ニューアヴァロン大学に)に入学し卒業をした。彼はメック関連の試験で歴代トップの記録を出し、卒業後にダヴィオンの正規軍で軍務に就く事を考えていたが、ケル・ハウンドからの入隊の誘いに喜んで応じケル・ハウンドへ加わった(この時、ハンス・ダヴィオンはケル・ハウンドの願いにより彼の奉仕の義務を免除した)
 彼は、卓越した軽量級メック・パイロットかつ優秀な指揮官として名声を博している。ヴァルキリー(後にはウルフハウンド)を操縦する彼の腕は神懸りのものがあり、単独でパンサーの1個小隊を全滅させた事もある。彼のメックが装甲板以外にダメージを被った事が全くないという事実は、彼の腕前を証明しているものであろう。
 彼はまた、トランプ・ゲームでの並外れたツキとそのユーモアのセンスで知られてもいる。

クラレンス“キャット”ウィルソン
 ケル・ハウンドに加入する前のクラレンス“キャット”ウィルソンの過去は余り知られていない。確かなのは彼が16歳の時に暴行事件で逮捕され、懲罰としてライラ共和国軍(LCAF)への入隊を強いられた事である。LCAFの適性検査にて、彼にメック戦士として天賦の才があるのが明らかとなり、彼はメック戦士としての道を歩む事となった。
 クラレンスは第10スカイア特戦隊で勤務をしている時にモーガン・ケルと出会い、彼と友人となった。そして、モーガンがケル・ハウンドを創設する為にLCAFを除隊した際、彼はLCAFからAWOLをし、ケル・ハウンドに加入する為に惑星“ガラテア”へ姿を現した。モーガン・ケルはクラレンスとLCAFとの間で板挟みになって苦しんだが、最終的にはクラレンスを部隊に迎え入れ、彼をケル・ハウンドの最初のメック戦士として契約した。
 彼には“キャット”との愛称が奉られているが、その由来について知っている者は極少数であり、知っている者達もそれを口にする事はない。クラレンスは自分の事をモーガンケルのボディーガードだと定めており、軍曹より上の階級への昇進を再三に渡って拒否している。しかし、この口数の少ない男をケル・ハウンドの士官達は非常に信頼しており、重要な会議には必ず彼を同席させており、実質的には彼は士官待遇と言える。

リチャード・オシェラン少佐
 リチャード・オシェランは、ブラックジャック戦技学校出身の生粋の歩兵である。彼の哲学は「メックは土地を奪う事はできるが、土地を占領する事はできない。占領をできるのは、歩兵のみである」というものであり、彼は在学中はジャンプ歩兵での対メック戦術を研究していた。
 卒業後、彼はライラ共和国軍に入ったが、彼のジャンプ歩兵戦術が頑迷なライラの士官達の好意を得られる筈もなく、やがて彼は軍を辞めて流れの傭兵へとなった。
 彼は自らのジャンプ歩兵の傭兵部隊を作り上げたが、一時雇いの仕事ばかりで特定の傭兵部隊に定住場所を得られはしなかった。ケル・ハウンドが新兵募集をしているとの報を聞いた時、彼はその募集場に赴いてケルに対して自分の歩兵部隊の有効性を説き、晴れて自らの部隊の定住場所を得る事となった。
 彼は士官というよりも新兵をしごく軍曹の様に見える人物であるが卓越した歩兵戦術能力の持ち主であり、ケル・ハウンドに貴重な戦術的柔軟性をもたらしている。

シェーマス・フィッツパトリック少佐
 シェーマス・フィッツパトリックはケル一族が惑星“アークロイヤル”に所有する農場の1つで生まれ、幼少時代にはメック戦士の物語とモーガン・ケルの士官学校での武勇譚を聞いて育った。その後、彼はソーリン航空士官学校への入学し、3012年の卒業と同時に惑星“セヴレン”での戦闘に参加する事となった。
 惑星“セヴレン”での戦闘の最中、彼の操縦するチペワ戦闘機は故障して敵地にて不時着せざるを得なくなり、彼自身も捕虜にされてしまった。しかし、彼は大胆不敵にも脱走に成功し、その徒歩での友軍戦線への帰還中に発見したクリタの航空基地からシロネ戦闘機を奪い、その機体で以て基地へ帰還をするという離れ業をやってのけている。
 彼は、3014年にケル・ハウンドに航空大隊指揮官として迎え入れられた。当初、その若さから縁故人事であるとの中傷を受けたが、彼は自分の価値を証明しそれ程間を置かずにその中傷は消え去っていった。シロネ戦闘機を巧みな機動で操る彼は疑いもなく、中心領域最高の気圏戦闘機パイロットの1人である。


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