ダークエイジ期の恒星連邦軍、その弱体化についての分析


イヴォンヌの軍隊に何が起こったのか?

 3085年のRAF即応状態レポートに於いて、我々は手酷く叩かれ、傷付き、損なわれている、かの軍隊を見て取れた。我々はまた、我々の共和国以外では少しも見られなかった、新たなモデルと活力で以て再建されていく、かの軍隊を見て取れた。“聖戦”後の時代はイヴォンヌ摂政へAFFSの再建をするのみならず、6世紀前のアレクサンダー・ダヴィオンの改革以来となるそれの再構築をもする機会を与えたのである。しかし、3085年と同様、今日、我々は手酷く叩かれ、傷付き、損なわれている、かの軍隊を見て取るに至っている。我々は、それ以外の何も見て取れはしないのであった。
 何があったのであろうか? ジョン・ダヴィオン元帥は最大限の自由裁量を与えられており、自らの主君とプリンスズ・チャンピオンからも完全な支持を寄せられていた。彼が実施した複数のプログラムは、AFFSのみでの成功に留まるものではなかった――それらは、他の国家達によって模倣されるモデルとなったのである。軽戦闘団(LCT)は、“マタドール作戦”の際に見られたのと同様に、導入以後の数十年間にて防御と攻撃の双方での主要な役割に於いてその現実性を幾度も証明してきている。32世紀初期のダヴィオン軍――氏族侵攻以前の恒星連邦軍の数分の一の規模である――は、恒星連邦の長大な国境を守る事ができ、稀な事態で必要とされた際には攻勢を実施する事もできる、非常に有能な軍勢であると見なされていた。先の“グレイ・マンデー”の後に編集されたRAFレポートに於いては、ダヴィオン軍は我々の国境に接する中で最も有能な軍隊の1つであると見なされていたのであった(あの当時、リャオの秘密の貯蔵品や軍備増強について我々でさえも過小評価していた事を認めるものである)
 このAFFSの凋落の幾らかは、中心領域の全ての軍隊に降り懸かっていた病弊に帰するものと考えられる。比較的平和であった数十年間は独りよがりな自己満足感をもたらして即応性を低下させた為に、AFFSはその訓練プログラムの多くを緩和すると同時に境界域規模での対抗演習も停止した。軍備削減の圧力が絶えず見られた恒星連邦は国民衛兵(National Guard)メック部隊の殆ど全てを解隊し、再び惑星群が主に通常型の戦車によって守られるという状態に戻してしまった。継承権戦争の新騎士道的な理想主義への回帰がされる中で、“ソーシャル・ジェネラリズム”という昔から存在している亡霊は豊かな土壌を見出した。これは、アーロン・ローゼンブラット上級大将――本物の軍事的技能を全く持っていない人物――へ第一級の前線部隊の指揮を命じるという様な大失策に見て取れるものである。
 しかしながら、今日のAFFSの失墜に最も寄与した単一の要因は、ある1人の男――ケーレブ・ダヴィオン国王にあるものである。
 その王位継承から数ヶ月を経ずして、ケーレブはジョン・ダヴィオンの改革のみならず曾祖父のハンス・ダヴィオンの改革、更には遥か過去のダヴィオンのRCTの生みの母であるメリッサ・ダヴィオンの改革さえも差し戻していった。彼によるジュリアン・ダヴィオンのプリンスズ・チャンピオンからの解任は、最大の失策としてメデイアで大々的に取り上げられている。彼によるその他の変更は、ジュリアンの技能を使わずに遊ばせた事以上に(極めて大とはいかないまでも)非常に広範に作用しかつ非常に大きな損害をもたらすものであるのを証明する事となる。アテナ・ダヴィオン=ルース元帥が永眠した際、ケーレブ国王は彼女の後任を選ぶ事はせずに「かつて我が先祖が行ったのと同じく」自らが直接指揮を執る事を選んだ。彼は素早く参謀本部を廃止し、ジャクソン・ダヴィオンが連邦=共和国内戦にて重大な欠陥がある事を証明した指揮モデルへと回帰したのである。
 これらの不吉に見える始まりから更に、彼はAFFSの指揮系統への急進的な変革を継続し続けた。ジョン・ダヴィオンと彼が自ら選んだ後継者のダヴィオン=ルースは先の50年間を費やして指揮系統の分散化を行い、独立した補給線を構築し、ダヴィオン軍を“聖戦”の様な指導中枢に対する打撃にも耐えられる存在であるように強化し続けていた。ケーレブはその就任の最初の5年間で、彼等の改革の殆ど全てを拭い去った。HPG網が機能不全を起こし、全てのコミュニケーションが時間を更に要するものになったにも拘わらず、ケーレブは自分の国を全ての指揮権限が“ニューアヴァロン”へと遡る様なシステムへと戻したのである。アレクサンダー・ダヴィオンは、内戦後の防衛の時にこの様なシステムを導入した――しかし、ケーレブは自分以外の何者も全く信頼できなかった事から、かような手法に訴えたのではないかと思われる。その上、最も些細な項目にさえも干渉する事で(伝えられる所によれば、ケーレブが購入要求承認で誤りを犯した為に、ケストレル擲弾隊はオフィスの基本的な消耗品の購入が6ヶ月の間できなかったとの事である)、ケーレブはAFFS内の独立部隊を停止状態にしてもいた。
 多くの者達によって構築されたものが、自分が自分の前に立つ誰よりも優れているとの錯覚の中にいる1人の男によって素早く打ち壊されたのであった。そして、それは、その男自身の生命を失わせる事となった。そして、それは、恒星連邦、その存在さえも失わせるかもしれないのである。

 ―スフィア共和国軍レポート、3145年

 

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